Q 聴覚障害生徒(中学校・高等学校)の教育環境はどのようになっていますか?

中学校段階の教育環境

中学校段階の聴覚障害生徒が学ぶ場には聾学校中学部と通常の中学校があります。中学生の段階は身体的、精神的に大きく成長していく時期であり、自己のアイデンテティが確立されていく時期でもあります。自分の障害を理解、認識して、将来の自立に向けた準備を始めることも求められます。
聾学校中学部には聴覚障害者の集団があり、アイデンテティの形成にはふさわしい所です。しかし、小学部と同じように生徒の数が少ない学校が多く、クラブ活動や学校行事が活発にできにくい面があります。学業面では小学部段階で育てるべき言語力や基礎学力の習熟が十分に進まず、学習の進度が遅れる場合があります。一人一人の生徒のニーズを把握し、実態に合わせた指導を進めていく必要があります。
通常の中学校で学ぶ生徒の場合には、小学校と同じように支援がなされるところもありますが、難聴学級や通級指導教室は小学校ほど整っていない地域もあります。そうしたところでは、問題が生じてもその解決を当事者だけで行わなければならないという事態が生じます。積極的な姿勢が持てる生徒はよいのですが、周囲の生徒も自立心が高まっていく中で、孤立無援で学校生活に対する意欲を失ってしまうケースが生まれます。
障害を持つ生徒自身も自立が進み、得られる情報が不十分な状況でもそれを当たり前と考え、自分で何でも出来るのだからあえて支援などは必要がない、他人からの援助は迷惑がって断る、という態度をとる事例も見られます。生徒の自主性、主体性を尊重しながら、聴覚障害に関する情報にも触れさせ、問題への対処の仕方を育てていく必要があります。

高等学校段階の教育環境

高等学校段階の聴覚障害生徒が学ぶ場は聾学校高等部と通常の高等学校です。大学・短期大学に進学する聴覚障害者の数は、聾学校出身者よりも高等学校出身者の方が多くなっています。
聾学校高等部には普通科と産業工芸、被服、機械などの職業専門教育を行う学科があり、普通科が置かれていない学校もあります。都道府県によっては高等部だけを独立させた聾学校があり、通常の中学校から入学する生徒もいるので、小・中学部と比べると大きな集団を構成している学 校が都市部には多くあります。日本全体の聾学校高等部の1学年の生徒数は500人前後です。
聾学校の中では手話が日常のコミュニケーション手段として使われるようになり、聴覚障害者として生きていく姿勢が作られていきます。しかし、集団が大きくなったといっても、一つの高等部ではたかだか数十人に止まり、社会性、人間性の成長のためには十分な環境ではありません。生徒の個人差や能力差も大きく、学習面での到達度や進路も多様です。現在、大学・短期大学への進学率は全国平均で15~20%程度です。
通常の高等学校に何人の聴覚障害生徒が在籍しているのか、はっきりした統計はありません。小・中学校のような特別な支援体制はなく、ごく一部の地域で授業における情報保障の試みはなされているものの、大部分の生徒は自分だけの努力で学習を進めています。多くの場合、授業内容の理解は教科書と板書が頼りになるだけで、友人の援助もさほど得られるわけではありません。基礎的な学力の獲得が十分ではなかったり、人間関係をうまく作ることができず、不登校の時期を経験する生徒もいます。
高等学校で学ぶ聴覚障害生徒の場合、聴こえる人たちと同じように生きることを望んで聴覚障害者集団に入ろうとせず、手話の使用にも抵抗を持つ場合があります。そうした状態で大学に入ると、自分の障害を他人に知られることをおそれ、情報保障に対するニーズを表明することを意図的に避けることになります。そうならないようにするためには、聴覚に障害を持つ同年齢の世代や成人と交流する機会を用意し、聴覚障害者集団に入ることがプラスの意味を持つことを実感させることが必要です。

TipSheet「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境」根本匡文より
(2007/11/30)

参考になる資料

聴覚障害幼児・児童・生徒の教育環境については、以下のTipSheetに概要がまとめられています。

TipSheet「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境 ⑦」
根本匡文(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)

 障害の早期発見と教育の開始
 幼児段階の教育環境
 小学校段階の教育環境
 中学校段階の教育環境
 高校段階の教育環境
 障害とニーズの多様性
→「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境」ダウンロード

チップシート「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境」1
チップシート「聴覚障害幼児・児童・生徒を囲む教育環境」2

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