Q 字幕入りビデオ教材等を作成する際、著作権法に関して注意すべきことはありますか?

映像教材への字幕の挿入は障害者のための著作物利用にあたり、その取扱については「著作権法の一部を改正する法律」(平成21年6月改正、平成22年1月1日施行)に定められています。ここでは、その変更点を含め、大学等での字幕入りビデオ教材等の作成に関するポイントと留意点を解説します。 

字幕付き映像を見ている様子

1.著作権法のポイント

以前は一つひとつ著作権者に承諾を取らなければいけなかったビデオ字幕の挿入については、法改正で著作権者の承諾なしに行える範囲が拡大しています。その中には次の4点も含まれています。

①字幕挿入可能な著作物の範囲:テレビ、ラジオに加え、映画や市販のビデオ教材にも挿入可能
(ただし、もともと教材製作会社等が字幕を作成している場合にはこれを使用し、大学等が新たに独自の字幕挿入をしてはいけない)
②利用対象者の範囲:「聴覚による表現の認識に障害のある者」とされ、難聴者や発達障害、学習障害のある人も含まれる
③聴覚障害者のための複製を行える者:「大学図書館及びこれに類する施設」も含まれる
④複製の方法:字幕だけでなく手話による翻訳も可能

特に、ポイントとなるのは③の内容で、聴覚障害者のための複製を行える者として「大学図書館及びこれに類する施設」が加わったことです。これにより、どの大学も大学図書館やそれに類する施設を有していれば、そこで著作権者の承諾なしに学内で字幕入りのビデオ教材を作成することが可能になっています。

さらに、障害学生支援室が「これに類する施設」にあてはまるのかについては、さまざまな議論がありましたが、平成27年度8月に開催された内閣府の障害者政策委員会において、文化庁担当者から次のような見解が示されました。すなわち、「『これに類する施設』とは、大学図書館のように図書等の資料を備え置いて、学生に資料の貸し出し等の情報提供を行う機能を担う施設が想定されているものと解され、必ずしも名称が大学図書館となっていなくても、当然その他のものが含まれるということが念頭に置かれているものであり、このような趣旨に合致する障害学生支援室については基本的に「これに類する施設」に該当すると 解釈することもできるのではないか」とのことです。

これらの見解に基づくと、障害学生支援室でも、本改正を根拠に単独で字幕入りビデオ教材の作成が可能であるといえるでしょう。この点について、詳しくは参考資料「PEPNet-Japan事務局(2016)平成21年度「著作権法の一部を改正する法律」について(改訂版)」をご覧ください。

なお、視覚障害に関しては「これに類する施設」の解釈について、障害学生支援室がこれに含まれることが明確に周知文で示されています。具体的な記載内容は参考資料「第8回視覚障害等の読書環境の推進に係る関係者協議会資料 令和3年度までの取組及び令和4年度に講ずる施策について」(p5【事-2】)をご覧ください。

2.複製物の取り扱い上の留意点

作成した字幕入り教材の取り扱いについては、留意すべき点がいくつかあります。 

①複製物(字幕を挿入した映像)の管理 

複製物(字幕を挿入したビデオ教材など)の貸し出しは、聴覚障害者本人への貸し出しが原則ですが、授業での使用にあたっては、授業を担当する教員に貸し出すケースも考えられます。 

法律をどのように解釈し運用していくか、法律の本来の目的から逸れないよう学内的にも一定のルールを作成し、明確にしておくことが大切です。 

②複製物(字幕を挿入した映像)の視聴(2023/5/8 加筆) 

この法律に基づいて作成される複製物(字幕を挿入した映像教材など)は、聴覚障害者のために作成されるものですが、聴覚障害者の視聴のためという目的で供されるのであれば、授業の場で他の学生(「聴覚による表現の認識に障害のある者」に該当しない学生)も一緒に視聴することは、それ自体が著作権上の問題になるとは考えられない、とされています。 

また、これまで述べてきたのは聴覚障害者のための著作物利用(著作権法37条2項)についての観点ですが、これとは別に、著作権法35条(2018年改正、いわゆる改正著作権35条)では、教育機関において無許諾で著作物の複製が認められる範囲が定められています。 

この35条に則り、たとえば授業担当の先生が、映像教材に字幕があることによって全ての学生の理解促進につながる、という教育的効果を考え、字幕を付した教材を提供しようとする場合には、「教育機関における複製」の範囲で、複製物(字幕を挿入した映像)の作成・利用認められる、と考えられます。 

ただし、教育場面での利用には、その用途や受信者など、無許可での利用が許容される範囲がありますので、これは字幕の有無に関係なく、35条で認められる範囲での著作物利用であることが前提となります。 

なお、37条2項の範囲では、例えば映画や番組全編に字幕を付けることが認められていますが、35条では、教材として映像を使用する場合にはその全編を使う必要が認められる例は少なく、著作物(映像)の一部使用が一般的とされています。このように、2つの条文は目的が異なるもので、37条2項において認められる範囲と、35条において認められる範囲も少し異なっている、という点に注意が必要です。 

詳しくは、参考資料「改正著作権法35条運用指針」を参照してください。 

参考になる資料

PEPNet-Japan事務局(2016)平成21年度「著作権法の一部を改正する法律」について(改訂版)

文化庁から公開された情報をもとに、法律の中でも特に、聴覚障害学生支援における字幕挿入教材作成に関する内容を取り上げて、詳しく解説しています。聴覚障害学生支援に携わる方はぜひご一読下さい。

「著作権法の一部を改正する法律」ダウンロード

著作権法の資料

視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会(第8回)配布資料(2022年6月) 

→リンクはこちら(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に係る関係者協議会(第8回)のウェブサイトへ)

この協議会資料のうち「令和3年度までの取組及び令和4年度に講ずる施策について」のp5【事-2】「読書バリアフリーに係る通知、事務連絡一覧」に「これに類する施設」として障害学生支援室が該当する旨が記載されています。
→資料「令和3年度までの取組及び令和4年度に講ずる施策について」のウェブサイトへ

改正著作権法35条運用指針 

教育機関において無許諾で著作物の複製が認められる範囲が定められた改正著作権35条(2018年改正)について、教育機関ごとに具体例を交え、運用指針がまとめられています。

→リンクはこちら(SARTRAS 改正著作権法35条運用指針についてのウェブサイトへ)

文化庁ウェブサイト内 「著作権制度に関する情報」のページ

リンクはこちら(文化庁のウェブサイトへ)

法律の概要や、Q&Aが掲載されているほか、各種資料がダウンロードできます。

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