タイトル:聴覚情報保障のためのソフトウェア活用選定に関する実践報告 発表者:北野麻紀・蒔苗詩歌 (北星学園大学アクセシビリティ支援室) ■問題 聴覚情報保障を行うとき、様々な個別・環境要因を考慮してソフトウェアを選定していく必要がある。  ・学生側の個別要因 障害特性、専攻の分野、自前の機器、履修したい科目など  ・教員側の個別要因 専門分野、授業形態、情報保障経験、シラバス、使用機器  ・大学側の環境要因 教室節義、ネットワーク環境、受講者数、機器の価格  これら要因が相互に重なりあっているため、支援者側は個別ケースの条件とソフトウェアの特徴を踏まえて使用するソフトウェアを選定していく必要がある。 ■目的 ・本学で活用可能なソフトウェアの把握 ・聴覚情報保障時に参照できる活用表の作成 ■方法 障害学生・支援学生・担当教員等の利便性を整理、本学での活用選定に関わる評価項目を作成。 講義室環境で実践検証しながら特徴を評価。 ■活用選定に関わる評価項目として設定した10項目とその評価基準 1. 導入の簡便さ  利用学生・支援学生が自身のPC環境でもインストールしたりアクセスしたりすることができる。 2. 日常会話  マスク着用時の会話補助に使える。オンライン面談や対面での会話補助に使える。 3. 専門用語  社会福祉士関連の講義や法律、教職等科目の類似した専門用語を識字できる。 4. 出力の即時性  音声入力からのタイムラグが少なく文字化される。 5. 音声/マイクによる入力  音声入力ついて他作業をしながらでも使える。 6. 文字起こし  音声データを文字起こしとして使える。 7. 遠隔時の利用  他アプリと同時利用できる。 8. NT  音声認識できない箇所についてNTによって修正できる。 9. 不具合  音声認識されない、動かない等の報告(=本学ネットワークシステムや設備との相性) 10. ステレオミキサーとの併用  音声精度を上げるためのインターフェイスを組み合わせることができる。 ■評価基準に対しての達成度ごとに4段階評価 ◎  90%以上 手直し不要か変換ミスを直す程度で理解できる 〇  80-89% 手直しがなくてもぎりぎり内容が理解できる △ 70-79% 手直しが必要だが音声を文字化できる ?  70%未満 ほぼこの方法のみでは情報保障不可 評価項目について13種類のソフトウェアを講義室環境で使用しながら、◎、〇、△、×で評価した。 他、特記すべき事項があれば記載して表を作成した。 ■ソフトウェアごとおける10項目の評価内容 ■ソフトウェア1 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 個人で入手可(無料) ・法人契約有(有料) 日常会話〇 ・話し方が精度に影響 ・専門用語は単語登録が必要 専門用語△ ・単語登録により精度向上の可能性 ・話し手(科目教員)の協力が必要 ・出力の即時性〇 音声/マイクによる入力× ・原因不明で急にマイク停止事案多数 ・聴覚障害学生自身では音声入力の停止に気がつかない可能性あり 文字起こし△ ・長時間になっていくとログが順次消える 遠隔時の利用〇 ・方法の確認は必要 誰でも利用可 ・API連携による利用可だが一機器のみ ・複数への遠隔配信不可 ノートテイク〇 ・パソコン版をダウンロードすることで利用可 不具合 ・パソコンとの接続時に不具合が起こりやすい ・ログ保存はアプリのみだがうまくいかないことが多い ・1時間くらいでログは消える ステレオミキサーとの併用 ・インターフェイスを使うと教室内のマイクや映像音声の取り込み可 ・インターフェイスの接続により他機器との併用可 ・接続次第では最大17人で会話可 ■ソフトウェア2 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・アカウント作成不要 ・リンクより利用可 日常会話△ ・話し方が精度に影響 専門用語△ 出力の即時性△ ・画面共有のみ可 音声/マイクによる入力〇 文字起こし 特記事項なし 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク× 同時共有不可 ・不具合確定まで時間を要する ステレオミキサーとの併用〇 ■ソフトウェア3 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・アカウント作成必須 日常会話〇 専門用語〇 出力の即時性〇 ・改行、自動スクロールなし 音声/マイクによる入力× ・他操作をすると停止する 文字起こし  特記事項なし 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・複数で同時に資料編集をするとバグが起きる 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用〇 ■ソフトウェア4 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・専用のクラウド 日常会話◎ 専門用語△ 出力の即時性〇 ・プレスで自動改行 音声/マイクによる入力〇 ・最小化利用可 ・バックグラウンド利用可 文字起こし〇 ・ステレオミキサーの利用で、音声再生しながら利用可 ・音声入力箇所で自動で開始 ・停止を押すまで入力持続 遠隔時の利用〇 ノートテイク ・訂正可 不具合 ・よく雨天時に不具合発生 ステレオミキサーとの併用〇 ・遠隔アプリとの同時利用可 ・遠隔アプリ内の音声を認識可 ■ソフトウェア5 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・個人PCで利用可 日常会話◎ 専門用語〇 出力の即時性△ ・画面共有可 音声/マイクによる入力× ・アクティブ状態時の利用 ・他操作をすると止まる 文字起こし〇 ・識字率良好 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・複数で同時に資料編集をするとバグが起きる 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用〇 ・トランスクリプト機能の利用で200MBまで映像・音声データアップロード可 ・25分程度で2-3分 ・タイムコード、話者分け、保存が良好 ・確認しながらの修正可 ■ソフトウェア6 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 ・登録すると時間制限なく利用可 ・登録なしは1ヶ月90分まで ・Windows、Macに対応 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし◎ ・90分を2-3分で自動字幕作成 遠隔時の利用 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア7 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・ダウンロード必須 日常会話 不明 専門用語 不明 出力の即時性〇 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし ・ログが3日間保存され、コピペ利用可 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア8 導入の簡便さ〇 ・無料で利用可 ・ダウンロード必須 日常会話〇 専門用語 不明 出力の即時性 〇 音声/マイクによる入力〇 文字起こし〇 遠隔時の利用〇 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア9 導入の簡便さ△ 無料で利用可 ・毎年度の利用申請必要 ・専用部屋が必要 日常会話  特記事項なし 専門用語  特記事項なし 出力の即時性 ・ノートテイクの連携入力のみ可 音声/マイクによる入力  特記事項なし 文字起こし  特記事項なし 遠隔時の利用  特記事項なし ノートテイク ・連携入力可 ・カスタマイズ不可 ・アプリによる利用可 不具合  特記事項なし ステレオミキサーとの併用  特記事項なし ■ソフトウェア10 導入の簡便さ△ ・無料で利用可 ・アカウントの作成必須 ・15分未満は、手続き不要で利用可 ・15分以上は、携帯電話番号の登録必須 日常会話  特記事項なし 専門用語  特記事項なし 出力の即時性 ・リアルタイム配信のみ可能かもしれない 音声/マイクによる入力  特記事項なし 文字起こし〇 ・作業者および利用学生がどこからでも利用可 遠隔時の利用 ・オンデマンド形式にのみ有効 ノートテイク  特記事項なし 不具合 ・アップロードと自動字幕作成に時間を要する ステレオミキサーとの併用  特記事項なし ■ソフトウェア11 導入の簡便さ〇 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし〇 遠隔時の利用 オンデマンド形式のみ有効 ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■ソフトウェア12 項目評価なし、使用時に関するメモのみ ・ウェブブラウザによる利用 ・リアルタイム字幕可 ・チャットツールで複数人が参加するチャット会議、打合せ等で利用可だが即時的な情報のみ ・議事録作成可だが登録必須 ・多言語(英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語)への自動翻訳機能あり ■ソフトウェア13 導入の簡便さ〇 ・ダウンロード必須 ・無料で利用可 ・iPhone、iPadのみ利用可 日常会話 特記事項なし 専門用語 特記事項なし 出力の即時性 特記事項なし 音声/マイクによる入力 特記事項なし 文字起こし 特記事項なし 遠隔時の利用 特記事項なし ノートテイク 特記事項なし 不具合 特記事項なし ステレオミキサーとの併用 特記事項なし ■まとめ ・活用表作成で特徴を整理したことで、情報保障方法を提案する際の参考になった。 ・本報告は、あくまでも北星学園大学特有の結果にとどまる。しかし、活用選定の評価項目(10項目)は、他大学における選定時の視点として参考になるのではないか。 以上