タイトル:大学間連携によるノートテイク共同実践の効果と課題−ノートテイカー学生への聞き取り内容から− 発表者:下中村武・岸川加奈子・横田晋務・田中真理(九州大学) ヘッダー:第19回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 聴覚障害学生支援に関する実践発表2023 2023/11/5(日)13:00-14:00 つくば国際会議場大会議室101・102 ■T.ノートテイク共同実践の経緯と目的 ■1.ノートテイカー学生養成講座の体制 聴覚障害学生等へのノートテイクを実施するためには、継続的にノートテイカー学生(NT学生)を養成することが必要であり、各大学で養成講座が実施されている。 NT学生養成講座の体制には、大学主催によるもの(69%)、学生主催によるもの(24%)、その他(7%)など、さまざまな形態がある(白澤,2007)。 学生主催の養成方法は、研修参加学生がリラックスして参加できる、発言しやすい、共に学ぶ姿勢で取り組める、という効果がある(下中村ら,2022)。 学生主体の研修プログラム開発について検討することには、学生内でノートテイク技術の継承を行うことができるとともに、養成講座での指導を担当する学生(指導担当学生)自身のノートテイクに関する理解の深化が期待できるというメリットがある。そのため、本学では学生による研修方法について検討し、養成を行っており(下中村ら,2023)、支援が実施可能な体制としている。 聴覚障害学生の有無に関わらず、常に支援を提供できる体制を維持することが重要であり、近隣の大学と連携したNT学生の共同実践や交流機会の設定は、 NT学生の安定確保と技術の維持、NT学生のモチベーションの維持、NT学生グループの活性化にもつながる(JASSO, 2015)。 ■2.NT学生養成の課題 本学では、NT学生養成研修を2019年度から継続的に実施しているが、NT学生は10名〜15名程度で推移してきた。本学では1科目あたり4名のNT学生配置を基本としているが、配慮申請科目10科目程度に対して、1科目4名を配置するためにはNT学生は不足していた。 NT学生の負担や情報保障の質保障が懸念される事態が生じたため、他大学にNT学生派遣を依頼し、ノートテイク共同実践を行うこととなった。 ■3.ノートテイク共同実践の効果と課題(PEPNet-Japan, 2016) 効果と課題が明らかになっているが、各大学のNT学生の活動状況によって結果は異なると考えられる。 効果:「自分の大学の支援方法を振り返ることができること」「支援学生の支援に対する意識の向上が望めること」 課題:「事前の複数回の共同練習が必要であること」「支援ルールの統一が必要であること」 大学間連携によるノートテイク共同実践の効果と課題を明らかにする ■U.方法:ノートテイク共同実践に関する意見の聞き取り 1.調査対象 X年度後期、(X+1)年度前期に、受入側A大学の学生8名と協力側B大学の学生3名、合計11名を調査対象とした。 2.共同実践の手続き @ノートテイクの留意点に関する説明会(60分程度) Aノートテイク共同実践(captiOnlineまたはUDトークを使用)(90分) B授業直後の共同実践振り返り(授業後に15分程度) C共同実践の全体振り返り(座談会形式で1回あたり60分程度) 3.調査手続き Cで得られた聞き取り内容を分析対象とした。 共同実践の全体振り返りの際にNT学生に質問した内容は、大学間連携によるノートテイク共同実践についての感想や意義、大学間連携ノートテイク共同実践の課題、大学間連携ノートテイク共同実践に関する今後の要望などであった。 4.調査時期 すべての支援が終了した時期に実施した。具体的には、X年12月に1回、(X+1)年1月に1回、2月に1回、8月に2回であった。 5.分析方法 NT学生から得られた聞き取り内容について、@意味のまとまりごとに切片化する、A切片を「ノートテイク共同実践の効果」と「ノートテイク共同実践の課題」のいずれかに分類する、B切片を類似した内容でまとめ、項目名をつける、という作業を行い、整理した。 ■6.倫理的配慮 データ使用目的やデータの取り扱いに関するプライバシー保護、自由意思での参加について説明し、結果を公表することについて、口頭および書面で同意を得た。 ■V.結果:ノートテイク共同実践の効果と課題の分類 NT学生から得られた聞き取り内容の分類結果:切片数224 ノートテイク共同実践の効果(大学間連携特有):55件/9項目 ノートテイク共同実践の課題(大学間連携特有):66件/12項目 *A大学⇒受入側、B大学⇒協力側 [表1] ノートテイク共同実践の効果 ■共通 ・共同実践に関する提案 他大学にもノートテイクを頑張っている人がいると知ることができたので、一緒に頑張ろうという気持ちになった。機会があれば、一緒にノートテイクしたい。(A) 積極的に大学間連携のノートテイクの機会を設定してもらえると、参加したい気持ちが大きい。(B) ・徐々にできる感覚 技術が上がっていったことを感じられた。最初は分からないこともあったが、だんだんと手順が分かってきたので、回数を重ねるのは大事なことだと思う。(B) ・テイカー同士の関係構築 何回か支援経験を重ねていくうちに、一緒にテイクをしてくれる皆さんが優しい人ばかりで、緊張感もほぐれた。支援が終わった後の振り返りでも、言いたいことも言える。テイク中も困ったときにサポートしてくださるので、疎外感はなく、チームに入れていただいた。助けていただきながら支援できたことがよかった。(B) ・大学間連携の継続 UDトークを使う機会があり、幅広い知識を得られたと思うので、満足している。4年生になるが、気持ちに余裕があったら、また参加させてほしい。(B) ■Aのみ ・テイカーの成長 話を振ったときに自分が気づかなかったところにも意見をたくさん出してくださったり、積極的に発言してくれたりした。振り返りもスムーズに進められたので、皆さんの積極性や、気づける力に助けられた。 ・人数が増えたことのメリット UDトークも、captiOnlineも、2人は大変。常に入力している状態なので、入力も、誤字も訂正しないといけなくて、タイムラグが生じる。訂正している間に情報が抜け落ちてしまうことがあるので、入力している人とは別に、訂正のために待機している人がいるのは大きかった。 ・普段と変わらない支援 大学間連携という面ではスムーズで、大学をまたいでいる感じはあまり感じられなかった。A大の中での支援とあまり変わらない感じでできた。自分が迷惑をかけているだけかもしれない。 ■Bのみ ・実践的学び 今回の大学間連携の取り組みで、身近な人でない人のノートテイクを見れたので、学びがあった。 ・安心感 思ったよりは緊張せず、安心感があった。***先生から「A大の2人がすごい」と聞いていたので、2人がいてくれるだけで安心できた。 [表2] ノートテイク共同実践の課題 ■共通 ・共同練習の機会の確保 一緒に練習をしたことがないので、連携がうまくいかず、チグハグで、文末がおかしいこともあった。 一緒に練習したい。(A) 事前練習がなかったので、知識をあらかじめ共有できていない、能力を共有できていないので、練習はあったほうがいい。(B) ・テイカー同士の関係構築 事前の打ち合わせで顔合わせはあったのは、お互いの顔、話す感じは少し分かって支援に入れたのでよかった。 地理的な距離の問題さえクリアできれば、対面で会うのもいい。(A) ・事前準備・確認・打ち合わせ 回数を重ねるごとに振り返りがあったので、だんだんと連携も取れたと思う。 こうしようみたいな打ち合わせができると、早い段階からよかったかもしれない。(B) ・大学間連携時の留意事項・マニュアル・引き継ぎ 今後、定期的にいろいろな大学から手伝ってくれる人が入ってくれるなら、大学間連携用のマニュアルも作ったら、意識の統一が簡単になるのではないか。(A) ■Aのみ ・ペアとの連係入力 A大のペアは組みなれている2人、B大でペアは組みなれている2人を一緒にテイクすると、支援に入る前に事前に連係する練習する時間が取れなくても対応できると思った。(A) ・他大学の状況把握 相手がどういうことを知っているのか、こういうことは確認できているなど全員認識できるので、よりスムーズに連係に入ることができる。 ・文字表記の統一 A大で練習をしている中では、ひらがなで統一しましょうと共通認識を持っていた。 B大でも、表記の統一ルールがあったかもと思った。ズレがあったのかなと思った。 ・訂正の方法 訂正してほしいところに訂正が入らないことがあった。 自分が入力担当のときに念を送っても届かない場面があった。 ・振り返り方法の改善 画面オフで振り返りをやっていた。B大のテイカーさんには怖かったかも。やりづらかったのかも。 ・普段と変わらない支援 大学が違うからと言って、UDトークでの修正に課題はなかった。 どこをどうしたら何が動くかという認識の違いはあったが、大学の違いはなかった。 ■Bのみ ・入力・訂正以外の役割 ***さんがいなくなってタイマーが止まったけど、操作はしていない。誰かが止めるとかルールがあるかと思って。誰か1人いない中でタイマーが進んでいる中で、どうしたらいいかとか思った。 ・大学間連携と通常のノートテイクの比較の難しさ B大でノートテイクをしたことがなかったので、形式の違い、作法、技術面など、今回やったのがお手本という感じだった。いつもしているものがないので、どこが課題か比べにくい。 ■W.考察:ノートテイク共同実践の効果と課題の背景、今後の大学間連携について ・効果について、「身近でない人のノートテイクを見れたので、学びがあった」(実践的学び)や「機会があれば、一緒にノートテイクをしたい」(共同実践に関する提案)から、自大学の支援の振り返りや支援意識の向上(PEPNet-Japan, 2016)と同様の結果が得られた。 一方で、「B大学のテイカーは(中略)適応力もある人だった」(テイカーの成長)のように、本実践独自の内容も明らかになった。大学間連携は人数が増えたことのメリットだけではなく、学生同士で学ぶ機会になることが示唆される点で、教育的な意義もあると考えられる。 ・課題について、共同練習の機会の確保や訂正の方法などから、事前練習の必要性や支援ルールの統一(PEPNet-Japan, 2016)と同様の結果が得られた。 一方で、本実践では謝金に関する意見は見られなかった。 依頼段階で活動時間と謝金単価を明示したことに加えて、協力側ではノートテイク実践経験が少ないことから、聴覚障害学生支援の経験を積むことが可能なこと、他大学の支援技術を知ることなどの意義があると考えられた。 依頼段階で受入側の支援実施状況も明示することで、大学間連携への参加につながる可能性が考えられる。 今後の大学間連携について、大学間連携時の留意事項・マニュアル・引き継ぎに関する言及が見られたように、その内実を明確化していく必要がある。 ※引用:PEPNet-Japan(2016)“いつでもどこでも”の情報保障の実現に向けて−遠隔情報保障事業成果報告書−.https://www.pepnet-j.org/support_contents/textbook/20160331enkaku 【問い合わせ先】九州大学キャンパスライフ・健康支援センターインクルージョン支援推進室 *メール:inclusion<アットマーク>chc.kyushu-u.ac.jp *電話:092-802-5859(平日9:00-17:00) *所在地:〒819-0395 福岡県福岡市西区元岡744 センター1号館1階