タイトル:聴覚障がい学生のニーズに合わせた台本配布なしの模擬授業 執筆者:越智菜々美 上田華麟 林希実 大口万里亜 降田英佑 細川祥吾 出口倖多 小原朱里 近藤実優 垣見佳江 笠原彩乃 川瀬萌乃(愛知教育大学 てくてく) ■1・背景 ◆愛知教育大学では、必修科目「初等社会科教育内容A」が開講されている。 ◆例年、実際の学校での授業を模した模擬授業が実施されており、今回は約30名の学生が参加した。 ◆模造紙で準備した板書の前で先生役の学生が12分間授業を行った後、生徒役の学生と質疑応答を行う形式である。 ◆例年の模擬授業では生徒役の学生に台本を配っていたが、今年は担当教員から生徒役の目線を下げる懸念があるため、台本を配布しないよう指示があった。 ◆先生役を行う聴覚障がい学生(利用学生)のニーズに応えることで、学生同士の円滑な意思疎通が実現したので報告する。 ■2・利用学生の模擬授業への要望 利用学生が模擬授業を行うにあたり、以下の要望があった。 @パソコンテイクの投影画面が黒板を隠さないよう黒板横などにプロジェクターのスクリーンを設置してもらいたい。 A当日は、テイカーに台本を渡し、利用学生が話しているペースに合わせてパソコンテイクを行って、生徒役にパソコンテイクと利用学生を同時に見ながら授業を聞いてもらいたい。 B利用学生自身の発音が伝わりづらいため、授業内容を学生に伝える方法を、障害学生支援室と相談したい。 Cテイカーには台本を事前に渡し利用学生の発話内容が不明確な際は合図するようお願いしたい。 ■3・支援の概要 以上の要望を踏まえて、以下の支援を行った。 1.配置の工夫(要望@Aについて) パソコンテイク画面を黒板右隣と利用学生のタブレットの二面に映すことで、利用学生の発言が生徒役に伝わりやすく授業を見ながら確認できるようにした。 質疑応答についても、パソコンテイクを相互に見ながら話せるようにすることで、正確な対話を行うことを可能にした。 2.パソコンテイクの工夫(要望BCについて) 予め用意した台本をテイカーにのみ共有し、2名のテイカーがタイミングを合わせて、プリロール(コピー&ペースト)によって文字起こしした。 3.その他 トラブルも予想されたため、経験豊富なテイカーを募集すると共に支援室の職員もその場で待機した。 発表前に支援室で事前準備・テイカーを含めたデモンストレーションを行った。 QR(https://youtu.be/v-bXMHh4EL4) :模擬授業再現動画 掲載期間 (〜2025年3月31日) 写真:模造紙を用いて発表する利用学生 写真:文字起こしを学生に見せるために黒板隣に投影したパソコンテイク画面 ■4・成果と課題 以上の支援を行った成果として以下の2点を挙げる。 1.適切な支援の提供 利用学生、テイカー、担当教員、支援室のチームワークが、綿密な事前打ち合わせを可能にし、利用学生のニーズを満たす円滑な支援活動に大きく寄与した。 2.工夫を凝らした支援体制 教育大学ならではの少人数制の環境や体験型・実践型の教育手法であっても、個々の学生のニーズにチームで応じることで、参加学生が授業内容を理解しやすくなった。さらに、テイカーが「てくてくノート」(本大学独自の情報保障システム)やタブレットを活用した支援の工夫を行ったことも成果を上げる理由の1つになった。 課題として、テイカーの負担を挙げる。 リアルタイムでの質問内容の文字起こしには時間と労力がかかり、スピードと正確さの両立が求められた。また、発表が速いため要約も必要で、大きな負担がかかった。効率的なサポート方法の確立が課題である。 ■5・展望 この支援実践の展望として、他教科への応用がある。 今回は、社会科の模擬授業であり、質疑応答などの質問事項が予想しやすい教科であった。しかし、国語や生活科など、1つの質問に対して、複数の回答が予想される授業では、更なる工夫が必要だと考えられる。利用学生が不安なく教壇に立てるようどのような支援を行えばよいか、今後も試行していきたい。 連絡先 愛知教育大学 てくてく tekuteku@m.auecc.aichi-edu.ac.jp 以上