実践発表P1 タイトル:聴覚障害学生に対するプラネタリウム鑑賞支援の試み 発表者:水越壽代・青柳まゆみ・溝口克治・児玉康一(愛知教育大学) ■背景 愛知教育大学では、小学校教諭免許状取得のための必修科目「初等理科教育内容A」における地学分野の内容として、名古屋市科学館(プラネタリウム)での校外学習(愛知教育大 貸し切り特別投影)が実施され、23年度は約340名が参加した。 この授業を聴覚障害学生が受講するにあたり、授業担当教員、障害学生支援室、および科学館の三者で丁寧な事前打ち合わせを行った上で、パソコンテイクによる情報保障を実施した。 ■支援の概要 支援期間:2023年2月~(実施日:2024年1月10日) 支援方法:学芸員による天文授業(愛教大スペシャル)、および「愛知教育大 貸し切り特別投影」の内容を、2名の支援学生がパソコンテイクにより文字化した(音声認識+修正)。聴覚障害学生は、スマートグラスに接続したiPadを持ち込み、支援者によって文字化された内容をスマートグラスにスーパーポーズしてプラネタリウムを鑑賞した。 事前準備:メールのやり取りに加えて、支援室職員が2度ほど現地を訪問し、iPadやPCの明度、ネットワークの状況、ドーム内の暗さ、聴覚障害学生の座席位置等について、細かな確認と打ち合わせを行った。 主な工夫点:打鍵音やパソコン画面の光が漏れないように、パソコンテイクは会場に隣接する遮音室で行った。また科学館の提案により、パソコンテイクの光を隠すために手元を覆う箱が用意された。プラネタリウムに持ち込むiPadやスマートグラスの明度を最低レベルにした。(スマートグラスの光路上にフィルムを挟む) トラブルも予想されたため、経験豊富な支援学生を募集した。 ■使用機材 写真:PCから発する光が漏れないようにPCを隠す箱 写真:スマートグラス等の機材 ■座席位置 図:プラネタリウムの座席図。支援者と聴覚障害学生はできるだけ近い位置に配置している。 ■実施のパソコンテイク画面の写真(音声認識と修正) 所々に誤表記がみられる。 ■支援学生・利用学生の感想 支援学生より ・遮音室でパソコンテイクをしたため、タイピングの打鍵音など気にせずに支援することができた。また、科学館の方が用意してくださった手元を隠す箱には大変感動した。少し手間はかかってしまうことでも、よりよい支援となるよう工夫や配慮を凝らす心を大切にしたいと思った。 ・専門的な用語は、打つことも意味を聞き取ることも難しかった。専門的な用語であればあるほど、うまく音声認識されない。テイカーがきちんと聞き取れていれば修正ができるが、テイカーが知らない単語だと、正確に修正できているかどうか心配だった。 ・上映前の注意事項は、日本語と英語の音声が同時に流れてきたため、うまく聞き取ることが難しかった。 利用学生より ・今回の方法のおかげでプラネタリウムという場面であっても星を見ながら字幕を読むことができて、内容を理解できた。前年度のメモに比べて、情報量が格段に多く、話しの流れや大まかな内容を理解することができた。おおむね、健聴の学生と同等の情報が得られたと思う。 ・星を見る際に文字やグラスが視界を遮ることがあり、そのたびにグラスを外したりかけたりする煩わしさがあった。 ■成果と課題 成果 ・利用学生の感想にもあるように、今回の試みにより聴覚障害学生への支援が充実し、学びの機会が平等に提供されたことは大きな成果といえる。 ・授業担当教員、障害学生支援室、および科学館で事前準備を綿密に行い、密な連携を取ることで、当日のトラブルを最小限に抑えることができた。 ・海外からの来館者やAPDの方向けに、解説者の発話をそれぞれの言語でリアルタイムに提供したいという需要がある事を知り、今回使用したパソコンテイクの技術がそれにも応用可能であることを認識した。 課題 ・専門的な用語や内容が多かったため、テイク作業中に誤認識や修正が発生しやすかった。特に、テイカー自身が内容に不慣れである場合、適切な修正が困難になる可能性があるため、事前に専門的な用語や内容を把握しておくことの重要性が指摘された。 ・スマートグラス越しに星を見ることが難しい場面もあり、使用機器等の改善点がある。 ・大学の授業が多様化していく中、学外実習の機会はさらに増えると予想されるため、その目的や内容に応じた柔軟な支援方法をその都度模索し、事例を蓄積していきたいと考えている。 ■問い合わせ先 mizukoshi@auecc.aichi-edu.ac.jp