実践発表P6 タイトル:パソコンノートテイク講習会参加者における連係入力の困難さ 発表者:永井友幸・安永正則・前田由貴子・樋口隆太郎・大江佐知子・望月直人(大阪大学) ■問題・目的 ■【大学等における情報保障支援の現状(JASSO,2014;2019;2024)】  ・ノートテイク   18校(2012年度)→180校(2017年度)→138校(2022年度) ・PCノートテイク 8校(2012年度)→118校(2017年度)→120校(2022年度) ・手話通訳2校(2012年度)→63校(2017年度)→58校(2022年度)→情報保障手段としてのパソコンノートテイクのニーズ増。これまで情報保障の主流であった手書きノートテイク(白澤,2004)と逆転するか? ■パソコンノートテイクを実施することの長所・短所 (PEP-Net, 2019 から抜粋) ◎長所 ・手書きノートテイクと比較して情報量が多い ・ある程度の訓練を経れば支援が可能。 △短所 ・機器の購入にコストがかかる ・支援者養成に一定の時間がかかる →養成上の困難さを解消することで養成時間の削減が可能になる ■【パソコンノートテイカー養成に関する研究】 ○パソコンノートテイクにおける連係入力プロセスの分析(白澤ら, 2010)。2名の熟練した入力者の報告と、文字通訳分析によるフローチャートの作成。 ①入力者は連係入力に大きな注意を割いている。 ②連係入力の過程は「割り込み位置の決定」「文頭入力」「本文入力」「文末処理」「整合性の確認」に分けられる。 ③これらのメインループと、漢字変換、割り込み位置の決定、衝突回避といった3つのサブループを合わせて連係入力のフローチャートが作成された。 →初学者が連係入力の練習においてどこに困難を感じるかを明らかにすることで、熟練者との視点を比較することも可能になるかもしれない。  ■本研究では、大阪大学において開催しているパソコンノートテイク研修会の取組について報告するとともに、講習会に参加した初学者が連係入力を練習した際に感じる困難さについて、整理し報告する。 ■方法 【対象者】 ノートテイク講習会に参加したノートテイク未経験の学生23名。 学年:1年生9名、2年生1名、3年生3名、4年生7名、修士2名、博士1名。 参加者の募集は、学内ポータルを通じてすべての学生を対象に行われた。また、参加条件としてe-typing「腕試しレベルチェック」において、ローマ字タイピングのスコア200点以上の得点を獲得したものが対象であった。 【開催時期】 日程:2024年度の夏休み期間に日程を分け2日間(table1)×2回開催した。 【方法】 講習会はZOOMを利用したオンライン研修の形式で実施した。単独入力練習には、Microsoft Word(ブラウザ版)、連係入力練習ではcaptiOnlineを使用した。講習会終了後に、Formsを用いてアンケートを行った。 【分析】 ①「連係入力の難易度について」の回答について単純集計を行った。②「連係入力で難しいと感じたことを教えてください(自由記述)」の項目について、KH Coder(樋口ら, 2014)を使用し、共起ネットワーク分析を行った。なお、回答において「連係」を「連携」と表記されていたものについては、文脈を確認したうえで、「連係」に統一した。 ■講習会スケジュール 1日目、13時、参加者自己紹介50分、講義、聴覚障害情報保障について。14時、演習、単独入力50分、スロー再生の音楽、音読される資料の単独入力を行う、15時、演習、単独入力50分、30分の動画を視聴しながら入力を行う、16時、演習、連係入力50分、キャプションラインの説明、連係入力の説明、川柳などを用いて連係入力を行う。 2日目、13時から、演習連係入力60分、音楽やニュースを聞き、連係入力を行う。14時、演習、連係入力150分、授業動画(阪大)を聞きの連係入力を行う。16時半、振り返り30分、事務手続きの説明、質疑応答。 なお、連係入力の1グループの構成人数は2名であった。 ■【倫理的配慮】 講習会時に調査趣旨を説明し、アンケート内に研究使用への同意に関する項目を設置した。 ■結果・考察 ①連係入力の難易度について(単純集計)。質問内容二人でノートテイクをすること(連係入力)の難易度についてどう感じたか回答してください(5件法) table2.連係入力の難易度、低い0名、やや低い0名、ちょうどよい9名、やや高い12名、高い2名。 ②-a テキストマイニングー抽出語の分析。Q.連係入力で難しいと感じたことを教えてください(自由記述) table3.自由記述における頻出語(上位10位)。入力18回、タイミング11回、難しい11回、相手9回、タイピング5回、自分5回、感じる4回、打つ4回、分かる4回、変換4回 ②-b テキストマイニングによる分析―共起ネットワーク。(2回以上出現した単語を対象) Fig1.連係入力の難易度。自由記述において出現した語の結びつきが強い語がつながっている図。 ②-b テキストマイニングによる分析共起ネットワークサブグラフと抽出語 Table3.出現したサブグラフと抽出語 サブグラフテーマ①様々に注意を向けながらの連係。抽出語、自分、感じる、タイピング、連係、変換、箇所、見る、書く、講義の9つ。②パートナーの動きを見計らいながら入る判断をする。抽出語、入る、部分、見計らう、追いつく、判断の5つ。③入力する文章の慣れるまでのペース。抽出語文章、分担、ペースの3つ。④聞き逃したときに入力が困る。抽出語、聞く、逃す、止まるの3つ。⑤相手とタイミングを合わせた入力、抽出語、入力、難しい、タイミング、相手の4つ。⑥入力に時間がかかる際の対応、抽出後数、長い、話、内容、時間、分かる、打つ、悩む。 ■結果・考察 ①初学者にとって連係入力の経験は、難しく感じられる体験となる可能性が示唆された。困難に感じる部分を明確にしていくことで、今後の初学者向け講習会のプログラム内容を精査していくことが可能になると考えられる。  ②自由記述からは、「入力」や「タイピング」「打つ」「変換」などの音声情報の入力や、タイミング」「相手」などの他者と調整することに関する言及が多くされている。 ③共起ネットワーク分析により出現したサブグラフからは、連係のタイミングを合わせること(「パートナーの動きを見計らいながら入る判断をする」「相手とタイミングを合わせた入力」)、情報取得や入力のエラーに対する対応(「聞き逃したときに入力が止まる」、「入力に時間がかかる際の対応」)、「様々に注意を向けながらの連係」、講習会内において「入力する文章の分担に慣れるまでのペース」に困難を感じていることが示唆された。パソコンノートテイクの初学者は、白澤ら(2010)における、入力プロセスの内の「割り込み位置の決定」の困難が生じているといえる。また、初学者特有の難しさとして、入力中のエラー対応があることが示唆され、講座において入力エラーへの対処に関するプログラムを盛り込むことが有用である可能性が示唆された。