実践発表P8 タイトル:演習・ゼミ形式授業における聴覚活用を主とする学生への補聴援助システムの活用例 発表者:香川龍仁、中津真美、松下眞弓、波多野比美子、切原賢治 (東京大学バリアフリー推進オフィス) ■Ⅰ はじめに 本学では、人工内耳ユーザーの学生や補聴器を装用する軽度・中等度難聴学生など、聴覚活用を主とする学生の支援ニーズが増加している。授業教員の音声聴取が困難な場合は、概して補聴援助システムを利用する。主な話し手が教員1名のような講義形式の授業では、補聴援助システムのマイクを教員に装着すれば、聴覚障害学生は教員の音声を概ね聴取できる。一方で、発言者が固定されない演習・ゼミ形式の授業では、補聴援助システムのマイクを発言者へ回しきれずに聞き取りに困難が生じる。また、発言者へ都度マイクを回す方法は、活発に交わされる議論の流れを遮ることにも繋がりかねず、聴覚障害学生自身がためらいを感じる場合もある。 そのため本学では、複数の補聴援助システム(デジタルワイヤレス補聴援助システム ロジャー*)を参加者の着席位置に応じて適切に配置し、議論の自然な流れを遮ることなく音声を聴覚障害学生へ届ける方法を検討してきた。本発表では、演習・ゼミ形式での補聴援助システムによる支援について、本学にて蓄積された実践例を報告する。 *デジタルワイヤレス補聴援助システム ロジャー :https://www.phonak.com ■Ⅱ 実践事例 車座で着席して行う演習・ゼミ形式授業での補聴援助システムの活用例 1.実践事例1:ロジャーペンを3本のみ使用した初期の頃の試行 ‐発表者はロジャーペンを装用する。 ‐その他にロジャーペン2本を机の上に配置し、発言者は都度ロジャーペンを手に取り発言をする。 ‐発言者へのマイクの受け渡しが追いつかない場面がある。 ‐都度マイクを回すことで活発な議論の流れを遮ってしまい、聴覚障害学生が他の学生に対してマイク使用の依頼することにためらいを感じる場合もある。 →(下線赤字ここから)聞き取りに困難が生じる(下線赤字ここまで) (車座で着席して行う演習・ゼミ形式授業での補聴援助システムの活用例について、ロジャーペン3本のみ使用した初期の頃の試行が以下のように図示されている) 車座に学生と教員が着席している。 発表者はロジャーペンを装用する。 残りのロジャーペン2本は発表者以外の発言者へ都度回せるように配置をする。 発表者の音声は装着したロジャーペンを通して聴覚障害学生へ届けられる。 発表者以外の発言者の音声は都度ロジャーペン手に取って発言をすることで届けられるが、人数が多いとマイクを発言者へ回しきれず、ロジャーペンを使わずに発言をしてしまう場合もある。そうすると聴覚障害学生には発言者の音声が届かず、聞き取りに困難が生じる。 また、発言者に都度マイクを回すことで、活発な議論の流れを遮ることに聴覚障害学生自身がためらいを感じる場合もある。 ■2.実践事例2:ロジャーを複数台使用して配置を工夫し、可能な限りマイクを手渡しする過程を排除した事例 ‐教員や発表者等の主な発言者はロジャーペンを装用する。 ‐発言が多いグループの前にロジャーテーブルマイクⅡを複数配置。 →(下線赤字ここから)配置位置は数度の検証を重ね確定。当日の参加者と人数に応じて適宜微調整を行う。(下線赤字ここまで) ‐テーブルマイクⅡの集音範囲外からの発言の備えて、発言者へ手渡しできるようにロジャーオンを1台確保する。 ‐発言者へマイクを回す過程を可能な限り排除し、議論の流れをできるだけ遮らないような環境を作る。 ‐いつどこで誰が発言をしても、聴覚障害学生がその発言者の音声を聴取できるような環境を作る。 →聴覚障害学生の(赤字下線ここから)聞き取りが改善(赤字下線ここまで) (車座で着席して行う演習・ゼミ形式授業での補聴援助システムの活用例について、ロジャーを複数台用意して配置を工夫し、可能な限りマイクを手渡しする過程を排除した例が以下のように図示されている) 車座に学生と教員が着席している。 発表者や教員等、主な発言者はロジャーペンを装用。 発表者と教員以外の発言者については、発言が多いグループの前に複数のロジャーテーブルマイクⅡ(卓上置き型マイク)を配置する。参加者の人数と着席位置に応じて毎回配置を微調整する。 配置をしたテーブルマイクⅡの集音範囲外に着席している発言が少ないグループからの発言については、ロジャーオンを手渡しで回して対応する。 主な発言者である発表者や教員の音声は装用したロジャーペンから聴覚障害学生へ届けられる。 発言が多いグループの音声は卓上置き型マイクであるロジャーテーブルマイクを通して聴覚障害学生へ届けられる。 発言が少ないグループの音声は1つのロジャーオンを発言時に手渡しすることで、ロジャーオンを通して聴覚障害学生へ届けられる。 発言者へマイクを回す過程を可能な限り排除し、議論の流れをできるだけ遮らないような環境を作り、いつどこで誰が発言をしても、その発言者の音声を聴取できるような環境を作る。 ■Ⅲ まとめと今後の課題 演習・ゼミ形式での補聴援助システムによる支援については、デジタルワイヤレス補聴援助システム ロジャーの送信機を複数台用意し、主な発言者にロジャーペンを装用、発言の多いグループの前に卓上型のテーブルマイクⅡを配置、発言が少なくテーブルマイクⅡの集音範囲外に着席する学生には手渡しで送信機を回すよう依頼して対応した。発言者へ送信機を回す過程を可能な限り排除し、教室内にいる参加者全員の音声を聴取できるよう配置を工夫することで、演習・ゼミ形式授業における聴覚障害学生の聞き取りが改善された。 その一方で、扱う機器の数が増えることで充電やマイク配置等といった準備に時間を要し、聴覚障害学生自身の負担が大きくなるという課題もあり、今後さらなる検討が求められる。 ■問い合わせ先 U-Tokyo IncluDE 東京大学多様性包摂共創センターバリアフリー推進オフィス メールアドレス spds-staff.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp バリアフリー推進オフィスURL http://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/