実践発表P9 発表タイトル:インクルーシブかつ公平で質の高い教育提供のための文教大学の障害学生支援体制の構築に向けて ―2023年度学長調整金に基づく研究プロジェクト報告― 発表者:佐々木順二*1 青山鉄兵*2 宮地さつき*2 遠藤愛*2 *1文教大学教育学部  *2文教大学人間科学部 ■発表原稿の構成 Ⅰ はじめに  Ⅰ-1 文教大学の概要  Ⅰ-2 本学における障害学生支援の経緯  Ⅰ-3 本学における障害学生支援体制の現状  Ⅰ-4 研究プロジェクトの位置づけと概要  Ⅰ-5本報告の目的 Ⅱ 方法  Ⅱ-1 FD・SD研修会の演題、講師、講師との事前打合せ  Ⅱ-2 事後アンケートの手続き Ⅲ 結果と考察  【結果の概要】  【結果を踏まえた考察】 Ⅳ むすびにかえて 以下、本文です ■Ⅰ はじめに ■Ⅰ-1 文教大学の概要  文教大学は、1927(昭和2)年の立正裁縫女学校の創設に始まり、立正女子職業学校(1928[昭和3]年)、立正学園女子短期大学(1953[昭和28]年)、立正女子大学(1966[昭和41]年。4年制)を経て、1977(昭和52)年に男女共学の現名称の大学となった。越谷キャンパス(教育・人間科学・文)、湘南キャンパス(情報、健康栄養)、東京あだちキャンパス(国際、経営)の3キャンパス7学部、学部生8,405名、大学院生98名、専任教員244名(学長除く)、専任職員140名の中規模大学である。 ■Ⅰ-2 本学における障害学生支援の経緯 2001(平成13)年4月 文教大学障害者教育協議会規程が制定・施行 2010(平成22)年3月 『本学の現状に共生コミュニティとしての文教大学の形成:障碍学生学習・研究支援システムの構築:報告書』(2009年度 学長調整金による研究プロジェクト)の提言 ⇒①障害学生支援室(仮称)の設置 ②障害学生支援コーディネーターの配置(指名) ③障害学生支援に関する授業科目の開設(=マイノリティや人権を考える“場”) ④障害学生支援のためのホームページ作成 2012(平成24)年4月 学生支援室、および部署間連携・調整のための学生支援連携協議会設置。 2016(平成28)年~  全学共通の配慮願の様式、支援システムの作成 2016(平成28)年12月 文教大学における障がいのある学生への支援に関する基本方針(学長名) 2024(令和6)年2月21日 2023年度「BUNKYO ACTION PLAN 2025」の推進に関するFD・SD研修  テーマ「改正障害者差別解消法の施行を見据えて」。オンライン開催(オンデマンド配信あり) 2024(令和6)年4月 学長指名の「大学における障害学生支援体制整備検討委員会」設置 ■Ⅰ-3 本学における障害学生支援体制の現状 ・障害者差別解消法に関する対応要領等 2024年度に入り対応要領を策定中。 ・障害学生支援に関する専門委員会は未設置。 ・障害学生支援業務に特化した窓口はなく、学生支援室の業務の中で対応。 ・紛争解決のための第三者組織・機関は未設置。 ■Ⅰ-4 研究プロジェクトの位置づけと概要  本研究プロジェクトは、2023年度学長調整金・特定課題支援「BUNKYO ACTION PLAN 2025の推進に関連する取組」の一環として、「インクルーシブかつ公平で質の高い教育提供のための文教大学の障害学生支援体制の構築に向けて」という事業名で助成を受けて実施された。具体的には、「BUNKYO ACTION PLAN 2025」に示される「SDGsの普及と推進」(A101)、「教育質保証の確立」(A106)、「三キャンパス間の連携」(A113)に寄与することを意図して進められた。  本研究プロジェクトは、主に三つのことに取り組んだ。第一は、他大学の障害学生支援体制に関する訪問調査である。第二は、内外の高等教育機関における障害学生支援に関する理念、組織体制、実践、調査報告等に関する文献調査、並びに障害学生支援に関する全国規模のシンポジウムへの参加による情報収集である。第三は、本学教職員対象のオンラインFD・SD研修会「改正障害者差別解消法の施行を見据えて」の企画・実施である。 ■Ⅰ-5本報告の目的  本報告では、2024年2月21日(水)に実施した、オンラインFD・SD研修会「改正障害者差別解消法の施行を見据えて」の事後アンケートの分析を通して見えてくる本学の障害学生支援の特徴と課題を明らかにし発表する。 ■Ⅱ 方法 ■Ⅱ-1 FD・SD研修会の演題、講師、講師との事前打合せ ・演題 私立大学の魅力を高める障害学生支援体制の構築―複数キャンパスのある大学の事例にふれながら― ・講師 生川友恒氏(静岡大学学生支援センター障害学生支援部門障害学生支援室准教授) ・講師との事前打合せを行い、講演の内容の骨子が以下のように定めた。  (1)社会モデルの障害観と合理的配慮  (2)障害学生支援コーディネーターの役割  (3)私大の視点からみる障害学生支援体制整備  (4)複数キャンパスを活かした体制整備 ■Ⅱ-2 事後アンケートの手続き ・FD・SD研修会に参加後、受講確認を含め、googleフォームにより回答を依頼した。 ・オンデマンド受講は2024年3月31日までを第1回目の期日とし、2024年9月30日を第2回目を期日とした。 ・質問項目  1 属性(専任教員 非常勤講師 専任職員 その他)※受講確認のため名前も尋ねた。  2 参加形態(リアルタイム、オンデマンド、リアルタイムとオンデマンド)、およびオンデマンドの視聴日  3 4つの骨子(トピック)に関する理解度を5件法で尋ねた。なお、合理的配慮のトピックは、3-1、3-2の二つの質問で尋ねた。   3-1 ユニバーサルデザインと合理的配慮の関係について、理解が深まった。   3-2 合理的配慮を考える上でのポイントについて、理解が深まった。   3-3 障害学生支援コーディネーターの役割について、理解が深まった。   3-4 文教大学が障害学生支援体制を整備する意義や価値を考える機会になった。   3-5 複数キャンパスを有する本学なりの障害学生支援体制の在り方を考える機会になった。  4 特に理解が深まったこと、本学として取り組んでいけそうなこと、質問、感想など(記述式) ■Ⅲ 結果と考察 ■【結果の概要】 1 属性 専任教員40名(53.3%) 非常勤講師17名(22.7%)、専任職員15名(20%)、その他3名(4%)。専任教職員の事後アンケート回答率は14.3%(384名中55名)であった。 2 参加形態 75名 リアルタイム参加39名(52%)、オンデマンド参加36名(48%)。なお、リアルタイム参加者数は、約100名であり、リアルタイム参加者については回収率4割弱であった。 3-1 「ユニバーサルデザインと合理的配慮の関係について、理解が深まった。」 とてもそう思う53名(70.7%)、少しそう思う21名(28%)、どちらでもない1名(1.3%)、あまりそう思わない0名(0%)、全くそう思わない0名(0%) 3-2 「合理的配慮を考える上でのポイントについて、理解が深まった。」 とてもそう思う48名(64.9%)、少しそう思う21名(33.8%)、どちらでもない1名(1.3%)、あまりそう思わない0名(0%)、全くそう思わない0名(0%) 3-3 「障害学生支援コーディネーターの役割について、理解が深まった。」 とてもそう思う50名(66.7%)、少しそう思う25名(33.3%)、どちらでもない1名(1.3%)、あまりそう思わない0名(0%)、全くそう思わない0名(0%) 3-4 「文教大学が障害学生支援体制を整備する意義や価値を考える機会になった。」 とてもそう思う58名(78.4%)、少しそう思う15名(20.3%)、どちらでもない1名(1.3%)、あまりそう思わない0名(0%)、全くそう思わない0名(0%) 3-5 「複数キャンパスを有する本学なりの障害学生支援体制の在り方を考える機会になった。」 とてもそう思う47名(62.7%)、少しそう思う26名(34.7%)、どちらでもない2名(2.7%)、あまりそう思わない1名(1.3%)、全くそう思わない0名(0%) ■【結果を踏まえた考察】  今回の研修は、参加を義務づけたものではなかったが、リアルタイムで約100名が参加し、その後オンデマンドで視聴した人がアンケート回答者だけでみれば36名おり、少なくとも約136名が研修に参加した。また、4つの骨子(トピック)の理解度では、「とてもそう思う」「少しそう思う」を合わせれば、いずれの項目でも95%以上が理解の助けとなったことをうかがわせる結果であった。  一方、「とてもそう思う」と答えた人の割合でみると、項目間で違いがみられた。  まず、「とてもそう思う」の割合が大きかったのは、「障害学生支援体制を整備する意義や価値を考える機会になった」(78.4%)であった。この結果は、障害学生支援が、改正障害者差別解消法の施行への対応としてだけでなく、大学の価値を高めるものであるという講師および企画者の意図が、ある程度伝わったことを示していると推察させる。  次に、合理的配慮への理解度を尋ねる質問の一つである「ユニバーサルデザインと合理的配慮の関係について、理解が深まった」は「とてもそう思う」が70.7%で2番目に割合が大きかったが、もう一つの「合理的配慮を考える上でのポイントについて、理解が深まった」は64.9%で、2番目に割合が小さかった。同一のトピックでこのような開きが生じた理由は、不特定多数の人に対する環境整備としてのユニバーサルデザインと個別的な環境の変更・調整としての合理的配慮に違いがあることは理解しやすかった一方、個々の授業の性格や学生のニーズに即して合理的配慮の内容を決定していくプロセスについて、例えば回答者自身がかかわるケースに当てはめて考えるというように、具体的なイメージしながら理解することに難しさがあったことを示唆する。  「とてもそう思う」の割合が最も小さかった項目は、「複数キャンパスを有する本学なりの障害学生支援体制の在り方を考える機会になった」である。この項目では、少数だが「あまりそう思わない」との回答もあった。講演の中で、複数のキャンパスのそれぞれがもつ独自性や強みを共有し合っていくことで、相乗効果を生み出すこともできるのではないかとの提案もなされた。しかし、アンケートの結果からは、本学においてこのような連携を図っていくには、障害学生支援の問題に限らない、キャンパス間の連携を促進するための仕組みづくりが必要で、そのような具体的検討が必要であると思われる。  なお、記述式で回答された内容については、個人情報保護の観点から、内容を精査し、発表当日に可能な範囲で口頭にて説明する予定である。 ■Ⅳ むすびにかえて  本学は、2000年代に入ってから、いくつかの学部に視覚障害学生や聴覚障害学生が入学し、常設ではないにせよ障害学生支援に関する会議体の設置、学生支援室の設置、配慮願発出のフロー作成などの整備がなされてきた。学生サークルによる情報保障支援が実施された時期もあったし、学生支援者に対して大学が経済的支援をおこなう仕組みは現在もおこなわれている。一方、本学には、障害学生支援に関する意思決定をおこなう常設の委員会、障害学生支援業務を専らに扱う部署がないため、障害学生支援を持続的におこない、その質を高めていくための条件という点で、障害学生支援体制の基盤に脆弱さがある。  今回のFD・SD研修会は、学長調整金の特定課題支援の性格上、大学のアクションプランとの関連で開催された。研修会の冒頭では、学長からもメッセージが語られた。このような全学的な流れを起こす、少なくとも一つのきっかけとなったという点で、本研究プロジェクトが果たした役割もあったと考える。  一方、アンケート結果から、このようなFD・SDは、その大学のそれまでの歩みや組織の現状を踏まえ、教職員や学生のニーズを把握し、それぞれの立場から具体的な行動をおこしていけるようなテーマ設定、研修会の実施方法の工夫が必要であることもわかった。また、障害学生支援に関するFD・SDは一度きりで終わるのではなく、継続的に実施し、教職員と学生が「あたりまえのこと」として認識し、その理解を深めていけるよう、フォーマルな形やインフォーマルな形で、実践を積み重ねていくことが大切であると考える。