通常校に勤務する聴覚障害教員への音声認識等を活用した校務支援の試み 茨城県 つくば市立竹園東小学校  奥沢 忍 ■背景と目的 通常校で勤務する聴覚障害教員の現状 聴覚障害教員については、通常校では軽・中等度難聴者、ろう学校では高度難聴者が多い傾向であり、聴児対象であれば聴覚音声、聴覚障害児対象であれば手話法が主に用いられている。ろう学校では、聴覚障害者に対する理解が高く、職員会議、学年会・部会、校内研修、校外研修の状況に応じて、情報保障活動が展開されているが、通常校等では、情報保障が殆どなく、周囲の理解も得られにくく、聴覚障害に関する啓発や学校全体での支援体制の検討が必要とされている(奥沢:2017)。 同障の筆者は、支援体制の一環として、即時性のある音声認識アプリに着目し、人手を介さずに情報を獲得し、校務支援に活かせる方法を模索してきた。一連の取り組みについて、新たな知見を得られたので報告する。本実践が同障の教育関係者にとり、役立つものとなることを期待したい。 ■実践の概要 1.学校現場へ導入の経過 2010年頃、前任校で筆者自身が出張先の講話場面で音声認識アプリを活用し、文字情報の便利さを体感 写真:講話を文字化する様子 2〜3の大学での免許更新講習で情報保障支援を体験、難聴者支援のあり方についての示唆を得る 写真:大学で情報保障支援を受ける様子 現任校に赴任した当初から音声認識アプリUDトークの本格的導入を画策  (Shamrock Records.Inc:青木秀仁代表)2020年5月よりUDトークアプリ導入プログラムで使用開始 アプリ(無料版)を業務用に使うことは基本的にできません 校内のWi-Fi環境を経由する形でUDトークを起動、私物の集音器やマイクからの音声を学校備品のiPadにて表示 誤変換については、目の前のやりとりの大要がわかればよいと割り切る 職員会議で披露する 音声認識アプリの効用を見ていただく 難聴の当該児への支援の傍ら、自身が難聴当事者であり、当方への支援機器として使わせてもらうことを説明 写真:職員室での会議内容を文字ログで確かめる様子と文字ログの画面をモニターで映して説明する筆者 2.UDトーク等を活用した校務支援の試み 職員会議では当初、集音器1台&iPad1台で対応 のち2セット体制へ 1台では全部をカバーできない 会議で話されていることの4割〜5割位の獲得 2セット体制で7〜8割の音声をカバー 誤認識等による不明部分は後で確認 図:機器を使ってどのくらい音を拾えるかを示した図 校内の部会ではセレクトによる補聴システムも活用 ポケットに入るコンパクトさと軽さ iPadとBluetooth接続すれば、補聴システムで音声活用しながら、字幕表示で文字情報も確認できる 写真:セレクトの写真  出先での会議等ではアンプのヘッドフォン端子を活用 音響アンプのヘッドフォン端子にセレクト を接続し、配信させる 音声活用しながら、字幕表示で文字情報も確認できる 明瞭な音声の入力が可能に 写真:アンプのヘッドフォン端子に接続したセレクトの様子 3.VUEVO(ビューボ)会議支援システムを活用した校務支援の試み VUEVO  Pixie Dust Technologies,Inc 会議や打ち合わせでの発言内容の聞き取りの他、議事録の作成が可能 「誰が」「何を」話したかが視覚的にわかる表示が特徴 試用体験期間で試みた内容 職員会議や学年会等での利用 配置の異なる教室での利用 職員や児童の声の認識状況検討 従来の方法(UDトーク)との表示 状況の比較検討 校務の各場面及び、授業で活用 写真:VUEVO機器の写真 実際の画面の様子 できる可能性を探る VUEVOを使用した本実践は、同機関係者には研究の趣旨を説明し、事前に承諾を得ている 職員会議では3回実施 従来よりも1.5〜2倍の範囲で拾えている 誤変換が少ない 自動要約機能が便利 図:機器を使ってどのくらい音を拾えるかを示した図 校内の部会(学年会)では1回実施 今、誰が話しているのかがわかる表示機能が便利 誤変換が少なく、ほぼリアルタイム 最も利便性が高い場面となった 写真:学年会で機器を使う様子 4.VUEVOとUDトークによる児童の声の認識状況比較  朝の会時、一人ひとり出席番号と名前をその場で言ってもらい、作成された議事録にて認識状況をチェックし、番号と名前が両方とも表示されたものに〇を付けた  校舎がそれぞれ異なる6年1クラス、4年2クラスでそれぞれ3回ずつ実施 図:教室の座席図にしるしをつける すべて、VUEVO>UDトークの結果だが、2〜4割前後の認識が中心 最大でも6割 教室全体では数値的にどちらも使える域には至らず 子どもの音声の場合、大人の教師の声に比べ、周波数帯域や音量が異なるため、現行の音声認識システムでは認識精度が低くくなる 教室の位置により認識状況がかなり異なる 校舎の構造、校内Wi-Fiの状況などに大きく左右 エアコンなどの音環境も影響か? 実施中、隣学級のタイピングでサーバー負荷、認識に影響 図:認識状況を示した一覧 ■成果と課題 校務支援における音声認識技術の可能性  音声認識技術は、ここ2〜3年の間に大きく性能が向上しており、職員会議や学年会議等ではかなり使える域に至っているが、一斉授業で児童相手の場合、現状では両アプリとも使える域には至っておらず、児童の声をどのように拾うかが課題 教師移動で集音器も帯同し、表示できる工夫等の検討 運用の工夫が求められる音声認識技術  自分の聞こえの状況を踏まえて、残存聴力の活用も視野に入れ、音声活用と字幕表示による情報獲得方法の多面化を図る 導入には教育委員会、職員の聴覚障害についての理解が必要 関係者の合理的配慮への理解と共感の度合いが試される 自身の工夫が難聴児への支援活動にも大きく貢献する