グループワークにおける情報保障に必要な環境調整〜周囲の学生の視点から〜 日本社会事業大学 むこうさかにな ■1.背景と目的 背景:大学の講義でグループワークの導入が増加中。グループワークは複数の学生が話すことになる。情報保障だけでなく周囲の学生の理解や環境調整が必要。 目的:手話通訳、パソコンテイク、グーグルピクセルの音声認識による自動文字起こし(以下ピクセル)それぞれで、どのような環境調整が必要になるか考えたい。 ■2.方法 @ろう学生(Aさん)が受講した講義の観察 AAさんと同じ講義を受講した聴こえる学生(13名)へのアンケート調査 BAさんへのインタビュー調査(今後実施予定) 各情報保障のイメージイラストが掲載されている。 手話通訳:4人の学生と1人の手話通訳者が机を囲んで話し合っている。 パソコンテイク:4人の学生が机を囲んで話し合っており、2人のパソコンテイカーがやや離れた位置でパソコンを開いている。ろう学生の手元には文字通訳を見るためのタブレットがある。 ピクセル:4人の学生が机を囲んで話し合っている。ろう学生の手元には文字通訳を見るためのタブレットがある。 ■3.結果と考察 (1)情報保障は「空気」であるべきか? 発言が文字として残ることに緊張を覚える学生はいたが少数。 自身の発言がパソコンテイクに入るか、ピクセルに正しく認識されたか気になった学生は各8,7名。 聴こえる学生も情報保障の必要性を理解していると考えられる。 ピクセルについては「誤変換や誤認識を直したい」を選択した学生が7名と、調査対象の半数。 どの情報保障でも、「あまり意識しなかった」を選んだ学生は各1名ずつと少数。 情報保障は気になる存在であると同時に、その重要性を啓発する存在でもあるのでは。 ■(2)情報保障が聴こえる学生に与える安心感 各情報保障があった時に、どのような気持ちになったかを尋ねた設問で、聴こえる学生に安心感を与えているのは、手話通訳、ピクセル、パソコンテイクの順だった。 その要因として以下が考えられる。 手話通訳や、文字起こしされている画面が見やすいピクセルは、聴こえる学生にとっても通訳が行われていると一目でわかるため安心。 対象の大学の学生は、パソコンテイクに比べて手話通訳やピクセルの方が使い慣れている。 手話通訳者が毎週固定で、雑談できる話しやすい人物だった。 ■(3)情報保障が会話の流れに与える影響 僅差ではあるが、会話の流れやテンポに影響を与えたのは、手話通訳、ピクセル、パソコンテイクの順であった。 これは周囲の学生にとって意識されやすい情報保障の順でもあるのでは。 半数の学生が「手話通訳をよく見ていた」と回答。 手話への関心が高い学生に、手話通訳は意識されやすかった。 ピクセルはマイクが目に入りやすいため、意識もされやすい。 一方パソコンテイクは、文字起こしされた画面が周囲の学生には見えにくい、パソコンテイカーと目線を合わせない、パソコンが壁となり空間を分けているなどが理由で、意識されにくいのでは。 ■(4)どのような話し方を意識したか 聴こえる学生におこなったアンケートの回答結果のグラフが表示されている。 本ポスター発表において注目してほしい点は、次のスライドに文章で示した。 ■(5)聴こえる学生が普段の話し方と変えて工夫した点 ピクセルは、明瞭な発音と声の大きさが最も意識された。マイクを回すよう意識した学生は7名、音声が正しく認識されたか確認した学生は6名。 話すスピードを意識した学生、他の人の通訳が終わるまで自身の発言を待った学生が最も多かったのは手話通訳。 通訳するのが人であり、通訳が終わったかどうかが分かりやすいためか。 パソコンテイクは他2つと比べ、話し方を工夫したと回答した学生が少なかった。 先に述べたように、パソコンテイクは聴こえる学生の意識に上りにくいためか。 挙手やアイコンタクトで、今から自分が発言すると示した学生は比較的少ない。 話している人が誰かという情報も重要なため、今後啓発の必要があるだろう。 ■4.今後に向けて 本研究では今後、Aさんに手話通訳をつけインタビューを行い、講義の観察結果とアンケート結果と合わせて分析と考察を行う。 グループワークで情報保障が十分に機能するためには、聴こえる学生の話し方の工夫が必要。本ポスター発表における考察では、情報保障が理解と啓発を促す存在となることが示唆された。今後、「目立たない情報保障」を目指すのではなく、聴こえる学生の意識が情報保障に向きやすい環境調整の提案を目指したい。 問い合わせ先:二神研究室 むこうさかにな メールアドレス:s12220091b@gmail.com