■第21回 日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム 聴覚障害学生支援に関する実践共有セッション2025 ■タイトル:聴覚障害者のアクセシビリティ向上に向けたプラネタリウム施設の調査分析 ■発表者:筑波技術大学 産業技術学部 大川ゼミ、松永和真、大川学 ■1章 研究背景 プラネタリウムは、1923年の公開から100周年を迎え、科学的知識の普及と宇宙の興味関心を促す装置であり、学校教育や市民向け科学啓発の貴重な体験場として、地域社会に根ざした活動が展開されています。 近年は、デジタル技術の進化により、映像表現の多様化や他施設とのコンテンツ共有が進み、プラネタリウムは単なる星空解説の場から、物語性や芸術性を備えた総合的なメディア空間へと変容しつつあります。 一方で、解説は依然として音声中心であり、聴覚障害者をはじめとする多様な来館者にとって、情報アクセスに制約が生じる場面も少なくありません。 ■2章 研究目的 課題 プラネタリウムの解説は、音声やナレーションが中心です。 暗室の投影環境維持のため、スマートフォンや音声翻訳アプリなどの端末の持ち込みや使用が原則禁止されています。 聴覚障害者にとってプラネタリウム観賞に制約があります。 対策 国内のプラネタリウム施設における聴覚障害者への情報保障の現状と課題を調査・分析します。 各施設の取り組みを体系的に整理・共有することで、聴覚障害者が安心して利用できる環境づくりを促進します。 ■3章 調査方法 @文献調査: 過去の研究・報告事例に基づき、プラネタリウムの情報保障状況を調査しました。 Aメール・電話調査: 字幕付き投影を行っている実績のある施設を中心に、聴覚障害者向けバリアフリー対応の最新状況について、個別に問い合わせを実施しました。 B現地調査: 実際に字幕付き投影を行う近隣のプラネタリウム施設にご協力いただき、聴覚障害者の立場から、字幕付き投影やヒアリングループを利用した星空生解説・番組投影を体験し、担当者の方々への聞き取り調査を実施しました。 ■4章 調査結果 @最新報告書(日本プラネタリウム協議会,「プラネタリウムデータブック2020」,2023.)によると、調査回答のあった全国 209 施設のうち、情報保障を対応中の施設は 24 施設、工夫をすれば対応可能な施設は 59 施設でした。 A各施設では、予算・人員など様々な制約条件の中、ヒアリングループ導入、赤外線補聴システム導入、定期的な字幕付きイベント開催など、独自に工夫しながらバリアフリー対応に取り組まれています。 事前に問い合わせがあれば、個別に対応いただける施設も実際は多いことがわかりました。 B手話付き番組投影、字幕付き番組投影、字幕付き星空生解説など、多様なバリアフリー対応を体験した結果、聴覚障害者でも内容を深く理解し十分に楽しむことができました。 ■今回の施設ごとの情報保障の調査結果を表で示しています。施設名(地理順)、主な情報保障について一覧にまとめています。 札幌市青少年科学館: フル字幕付き投影(イベント対応)、ヒアリングループ 仙台市天文台: 手話・字幕付き番組投影(イベント対応)、リアルタイム字幕システム、ヒアリングループ、翻訳アプリ 松戸市民会館プラネタリウム室: フル字幕付き投影(毎日指定回) 葛飾区郷土と天文の博物館: 音楽番組の字幕付き投影(指定回)、字幕アプリ使用可能な対応あり、ろう学校への学習投影対応実績 新宿コズミックセンター: ナレーション手話・字幕付き投影(イベント対応)、ヒアリングループ 世田谷区立中央図書館プラネタリウム: 字幕付き番組投影(毎日指定回)、ヒアリングループ、赤外線補聴システム 府中市郷土の森博物館: 手話・字幕付き番組投影(イベント対応)、ヒアリングループ ディスカバリーパーク焼津天文科学館: 字幕付き投影(イベント対応)、ヒアリングループ 名古屋市科学館: フル字幕付き投影(イベント対応)、ヒアリングループ、赤外線補聴システム 北九州市科学館(スペースLABO): フル字幕付き投影(イベント対応)、手話・字幕付き番組投影(イベント対応)、ヒアリングループ 佐賀県立宇宙科学館(ゆめぎんが): フル字幕投影(イベント対応)、字幕付き投影(学校団体向け対応)、赤外線補聴システム ■5章 まとめ 各プラネタリウム施設が独自に工夫してバリアフリー対応に取り組んでいることが明らかになりました。 今後は、その活動を広く周知するとともに、情報保障の有効性を評価・検証することで、さらなるアクセシビリティ向上への貢献を目指します。 ■謝辞 本研究発表の一部は、JSPS 科研費 JP 25K15107の助成によります。 本研究にご協力いただいた関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。 ■問い合わせ先 実施責任者 筑波技術大学 産業技術学部産業情報学科 准教授 大川 学 Email: mnb_okawa7[at]a.tsukuba-tech.ac.jp (※[at]は@に置き換えてください。)