オンデマンド授業や、対面授業で映像教材を使用する場合、「映像の様子を見ていれば聴覚障害学生にもわかるだろう」と思われがちですが、映像と音声情報とを合わせて理解するためには、やはり情報保障が必要です。映像を見ながら、音声情報もきちんと追えるような支援の提供が大切になります。
■オンデマンド授業について
オンデマンド形式の授業が急増したコロナ禍の時期、聴覚障害学生を対象に行った調査の中では、「オンデマンド授業という形式になったことで、自分のペースで繰り返し視聴することもでき、学びやすくなった」という肯定的な意見も聞かれました。この結果を詳しく見てみると、オンデマンドならば全てよいというわけではなく、
・字幕をつけてくれた
・話されていることが全て(スライド資料や配布資料等で)文字化されていた
・先生が文字起こしを用意してくれた
といった配慮が伴う場合に、学びやすい環境となっていたことがわかります。
■映像教材の使用について
対面授業で映像教材を提示する場合、ノートテイカーが配置されていたとしても、字幕や文字起こしによる情報保障があったほうが授業参加の大きな助けとなります。映像内の音声情報はスピードが速かったり、複数の音声が重なっていたりしてリアルタイムでのノートテイクでは十分な伝達が難しいものが多くあります。
また、聴覚障害学生は映像とノートテイクの間で視線移動をしなければならず、ノートテイクを読んでいるあいだにポイントとなる映像の場面を見逃してしまうことがあります。事前に字幕等の配慮を用意することで、こうした負担を軽減し、授業参加が可能になります。
■具体的な支援方法 「字幕付与」と「文字起こし原稿」
一般的には「映像に字幕を付与する」「文字起こし原稿を作成して提供する」の2つの支援方法が多く提供されています。以下が、2つの方法の主な特徴です。映像の内容や聴覚障害学生の希望、大学側の支援体制等から、適する方法を講じることが大切です。
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字幕付与 |
文字起こし原稿の提供 |
使用するツール |
映像編集用ソフト | Word等の文章作成用ソフト |
必要な費用 |
・有償ソフトを使用する場合はソフト・作業用PC等 ・支援者による作業の場合は人件費 |
支援者による作業の場合は人件費 |
必要なスキルや手順 |
・文字起こしを作成し映像と同期させる作業 ・音声認識による文字起こしを行う場合は誤字脱字の修正(一通り作業内容を理解するための講習会があるとよい) |
・音声を聞きながら入力する(パソコンノートテイクと同じ) ・音声認識による文字起こしを利用する場合は誤字脱字の修正(UDトーク修正とほぼ同じ) ・スライド番号や参照ページなどの情報付与 |
運用上の留意点 |
・ウェブ上で使用できるソフトを使用する場合は作業者同士のアカウント共有が必要な場合あり ・作業時間が長くなる場合は有償プランの契約が必要なソフトもある ・字幕の付け方について一定のルールがあると、作業もしやすく利用者も読みやすい |
・文字起こし原稿をデータで提供する場合はその取扱方法についてルールを取り決めておく |
聴覚障害学生にとってのメリット |
映像と文字情報が1つの画面で見られるので、視線移動の負担が少ない | 繰り返し読んだり、内容を遡って読み返したり、先に目を通して流れを把握しておくなど、自分のペースで文字情報を活用できる |
聴覚障害学生にとってのデメリット |
映像の内容によっては、一度に見なければならない情報量が多くなる | ・映像と文字起こしの両方を見るため視線移動の負担が大きい ・映像の内容によっては、映像と文字起こしを同期させるのが難しい |
授業や映像の形態からみた向き不向き |
・授業や面接の様子の映像など、話者の特定や発言のタイミングが重要な映像に向いている ・ナレーションや環境音など複数の音が重なる映像の場合は、字幕の出し方に工夫が必要 |
1人の講師による講義など場面転換の少ない映像の場合は比較的使いやすい |