ひとくちに「聴覚障害」といっても、その程度はまちまちです。授業において合理的配慮を必要とする学生の中でも、聞こえの状態を見てみると、ほとんど音が聞こえない状態の学生、少しは言葉が聞き取れる学生、1対1のコミュニケーションであればあまり不便を感じない学生など、幅広い状況にあると思ってよいでしょう。 聴覚障害の程度は、普通、デシベル[dB]という単位を用いて表します。デシベルというのは、音の大きさを表す単位です。正常な聴力を持っている成人が聞き取ることのできる、最も小さな音の平均が0デシベルと定められており、数字が大きくなればなるほど大きな音を表す形になっています。
私たちの身のまわりの音と、デシベルの数値は、だいたい下の表のように表されます。ここから、たとえば聴覚障害の程度が90dbといった場合、耳元での大きな声がやっと感じ取れる程度の聴力であることがわかります。
ただし、聴力レベルが同じであれば、だいたい同じように聞こえているかというとそうではありません。聴覚障害には大きく分けて、音が小さく伝わる「伝音性難聴」と、音にひずみやゆがみが生じてしまう「感音性難聴」の二つの種類があります。このうち特に後者の場合には、ひずみやゆがみの程度が学生によってさまざまで、聴力レベルだけで聞こえの状況を推し量ることは非常に難しいのです。
Q.補聴器をつければ聞こえるのでしょうか?
補聴器というのは、音を増幅する機械で、ちょうどマイクに入ってきた音がアンプで増幅され、スピーカーから出てくるのと同じ原理を用いて作られています。そのため、音が小さく伝わるタイプの聴覚障害学生には有効であることが多いですが、音のひずみやゆがみを感じている学生の場合、いくら音を大きくしてもクリアに聞こえるようになるわけではありません。
補聴器を通して聞こえてくる音の状況は、学生によってまったく異なるので、一概にこうということはできませんが、「補聴器は音の存在に気づくための道具、言葉を聞き分けられるわけではない」と指摘する学生も多いということは押さえておいた方がよいでしょう。
Q.発音が明瞭な学生はよく聞こえているのですか?
聴覚障害学生の多くが、幼少期からの訓練によって発声発語の方法を身につけています。中には非常に明瞭な発音で話す学生もいますが、だからといって同じ程度に明瞭な音が耳に届いているかというと、そうとも限りません。一般に聴力レベルの軽い学生の場合は、発音も明瞭なことが多いですが、聴力が重くても明瞭な発音を身につけている学生もいるので、発音の明瞭度と聴力の程度を安易に結びつけてしまわないよう注意が必要です。
Q.「難聴」の学生は「ろう」の学生より聴力が軽いのでしょうか?
一般的に聴力の損失の程度が軽い状態を「難聴」、重い状態を「ろう」と言うことがあります。医学的にはこのような使い分けがされていますが、聴覚障害学生が自分自身のことを「難聴」または「ろう」といった場合、必ずしも聴力の程度を反映しているとは限りません。
かなり聴力の重い学生であっても、「ろう」という言葉を使わずに、「重度難聴」という言い方をしたり、逆に聴力は軽いけれども自分はろう者という手話を用いるコミュニティに属しているという思いから「ろう」という言葉を使う学生もいます。
学生の聞こえの状況を理解するために「聴覚障害」の知識を持っておくことは大切ですが、その学生を理解し必要な支援が何かを考える際には、医学的な視点だけでなく、社会との関係や本人のアイデンティティという視点も重要になります。
執筆:筑波技術大学障害者高等教育教育研究支援センター 白澤麻弓