機器を使った「支援技術」 実践例
2011年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。
本企画では、1グループ5名の学生がパソコンノートテイクの入力及び利用体験を行った。また、携帯電話を使って遠隔地から文字情報を受け取り授業を受けるという支援方法の概要についても学んだ。情報保障の利用経験は学生により様々だったが、ほとんどの学生が、連係入力を体験するのは初めてであった。
役割
| 人数 | 背景 |
---|---|---|
講師 | 1名 | 遠隔地からの情報保障支援に関するシステム開発を専門とする。年間多数の支援や技術指導を実施。 |
アシスタント | 1名 | スタッフ。パソコンノートテイクや遠隔情報保障など機器の設定や運用の知識がある。 |
連係入力 入力体験の方法
研修の前半で行ったパソコンノートテイクの入力体験では、様々な学生の反応が見られた。日頃パソコンノートテイクを利用し使い慣れている学生も、入力を担当するとなると勝手が違い、パートナーが入力する文字に気を配りながら2人で文を完成させるという作業の難しさを実感していた。
通常の連係入力では講義の音声を聞きながら入力するが、聴覚障害学生自身が入力を行うため、今回の研修ではスクリーンに投影される字幕を見ながら入力するという方法を取った。この字幕は、パソコンノートテイカーが話を聞きながら文を入力する過程が、入力された速さそのままに一文字ずつ表示されるものである。連係入力用ソフトウェアIPtalkの「入力過程表示」機能を使って文章を入力・表示したものを、画面キャプチャーソフトで録画することで、こうした入力過程の映像を作成することができる。最初から文字起こし全文が表示されている場合と比べ、話が進行する様子が伝わり、自分がどこまで入力したかも把握しやすいため、聴者の入力体験に近い環境で実施できたものと思われる。
入力体験を行った学生の様子
ここでは、学生たちが苦労して入力した字幕と、その後の学生たちの感想の一例を紹介する。
<入力文>
さらいんですね、ここに書いてあるITは、歩どこまでやさしくなれるか。
用は人間が使えるようになれるかということなんですか
IThaこれも講義の一番後ろに2枚つけましたけれどね
今2011年でここら辺ですね。2015年に、これ256年間のこれからの未来というのを新技術を予測していますたとえば、ここにあるインターネットにおける逆山地。
<原文(参考)>
さらにですね、ここに書いてある、ITはどこまで優しくなれるか。要は、人間が使えるようになれるかということなんですけれど。これも講義資料の一番後ろに2枚つけましたけれど、今2011年で、ここら辺ですね。2015年に、これ、25年間のこれからの未来というのを、新技術を予測していますけれど、例えば、ここにあるインターネットにおける逆探知。
<入力を担当した学生の感想>
ついていくのが大変。間違えて変な文字も出してしまった。「逆探知」と入力したはずが「逆山地」になっていることに、あとから気づいて驚いた。
<入力文を読んでいた学生の感想>
入力している様子を見ながら、これは、あうんの呼吸が必要な作業だと思った。
表示文を読んで、「256年のこれからの未来」と書いてあって、すごく先だなと思った(笑)。
<講師のコメント>
連係入力は、同時に考えて、同時にやらなければならないことがたくさんある。今日の体験を通して、連係入力を実施していくためにはトレーニングが必要であるということが、実感できたのではないか。
学生の感想
上記例以外のグループでも、連係入力体験を通して様々な反応や感想が聞かれた。
もともとパソコンを使い慣れていて得意な学生は、IPtalkの色々な機能を自分で試し、表示方法を変更してみるなど短時間で使いこなす様子が見られた。その一方で、積極的に機器に触れようとせず入力体験でも苦戦する学生もいた。
また、連係入力体験については、「自分たちは目で見て入力したが、耳で聞きながら入力する場合は正しく漢字変換するという作業も加わり、もっと大変なはずだ」という点に気づいた学生もおり、音声情報を文字化するという情報保障が、いかに技術を求められるものかに気づいた様子だった。
まとめ
パソコンノートテイクなど技術を活用した支援には様々な方法があり、大学で授業を受ける際に活用できる情報保障手段にも広がりが出てきている。これらの支援方法が普及し質の高い情報保障として活用されていくためには、利用する聴覚障害学生自身も支援の方法やシステムの仕組みについて理解することも求められる。今後は聴覚障害学生本人が支援技術について関心を持ち、自ら使いこなしていく姿勢や知識を培うことを期待する。