単にアクセスサービスのみでなく、聴覚障害学生の学業を支援するための様々なサービスを提供していることがNTID・RITのサービスの特徴の一つ。このために、NTIDの専任教員がRITの各学部に配置されている。これらの教員は、NTIDによって雇用されているが、RITの各学部の教授内容を専門にしており、それぞれの学部に学ぶ聴覚障害学生を様々な面から支援している。

支援内容は以下の通り。

サポート教員による直接指導(Direct Classroom)

RITの授業の中で、NTIDのサポート教員が手話を用いて授業を教える、たとえば教養系の科目など。(文学、心理学等)

チュータリング・メンタリング(聴覚障害学生への指導)

各学部とも5・7の授業に関するチュータリングを提供している。いずれも手話のできるサポート教員がチューターを担当し、授業における学習の補強を行う。ただし、チュータリングは自主的に参加するもので、参加することを義務づけている訳ではない。

アカデミックアドバイス、カウンセリング

学業上の指導、相談。いずれも手話のできる教員が行う。
※これらのサービスは各学部が聞こえる学生に対して行っているものもあるが、NTIDとしてはこれらをろう学生に利用しやすいように独自に提供し、ろう学生と学部間の間を橋渡ししている。

リエゾンサービス(教員へのFD・アドバイス)

教員の多くがろう学生への指導経験を持っていない。前向きな先生だけでなく、ネガティブな意識を持つ先生もたくさんいる。NTIDのサポート教員がこれらの先生に働きかけて態度の変革をおこなう。
具体的には、ろう学生を教える教員に対して、ろう学生への教授方法等を指導するなど。特に、新しく入ってきた教員に対する指導。(手話通訳がいるときに何が起こりうるか、ろう学生にどうやって指導すればいいのかなど)
ただし、ろう学生はRITの学生であり、RITの教員がきちんと指導を行う義務がある。われわれは彼らの機能を代替わりするものではない。そのために、彼らがきちんとした指導をするための支援を行うのが我らの仕事。
先生が、「こんなことがあったんだけどどうしたらいい?」と聞いてくる。→「聞こえる学生だったらどうするんだい?」と尋ね、それと同じように対応すればいいじゃんと伝える。

アカデミックサポートサービスの成果

  • ろう学生の1年次修了率:86%
  • RITの学生の卒業率:聴者60%、ろう者68%
    ※他大学のろう者は25%

きちんとした支援があれば、ろう学生は聴者と同等かそれ以上の成績を上げることができる。

Q:学生指導と教員指導の二つの仕事があるとのことだが、雇用責任はどこが教員にとっての負担過多にならないのか?

A:この教員は、他の授業を教えるわけではなく、RIT内の聴覚障害学生支援のために専任で配置されている。ただし、他の教授陣と同等の専門性を持った人を雇用。中にはその学部の中で授業を担当することもある。
NTIDの教員なので、NTIDの基準で給与の支払いを行っている。(学部の他の教員とほぼ同じ給与)
※教員や職員の雇用は各学部が実施。教員の給与体系は学部によって異なるが、職員の給与は大学全体で同じ。

Q:サポート教員は各学部の教員にきちんと受け入れられているのか?

A:学部によって大きく違う。サポート教員を柔軟に受け入れている学部もあれば(これは、NTIDが来てから40年間の間に築きあげてきた信頼関係によるもの)、そうではない学部もある。しかし、長年の成果もあり、概ね前向き。
40年前はこれらの重要性が認められず、ずいぶん苦労した。長年の努力により、連携関係がより深まりつつある。当初はサポート教員が孤立する状況にあったが・・・。大学トップの意識も反映される。今は学長がサポートに非常に興味を持っているため、非常に力になっている。

Q:サポート教員に求められる専門性は?

A:各学部で取り扱われている内容に関する専門性が第一。加えて聴覚障害に関する知識も問われる。もちろんろう教育の専門の人が来ればいいが、そうでない人には聴覚障害、ろう教育、聴覚障害の学習過程についてのfdを行っている。

Q:サポート教員システムが作られたのはいつ?

A:1968年(30年以上前)に設立

Q:サポート教員の位置づけは変わってきてるのか?もともと同じ体系?

A:教員の位置づけは徐々にではあるが、確実にあがってきている。デカロ氏の奥さんも以前サポート教員として働いていた。当時は学士保有だったが、今は学士だと絶対採用されない。以前は教員への指導が中心だったが、今はもっと学生への指導に力を発揮するようになってきた。将来はさらにろう+聴の学生の指導に関わるようになると思う。

Q:きちんとした支援があれば、他大学でも同等の卒業率が得られると思うか?

A:もちろん。
PEPNetに参加しているような大学の多くは、おそらく25%よりも高いが68%には至らないと思う。RITでは、入学時点ではろう学生の学力は聴者より低いにもかかわらず、様々な学業支援を提供した結果、このような高い卒業率を示すに至っている。

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