アクセスサービス
当初は、手話通訳サービスのみだったが、その後ノートテイクやC-print[が加わり、現在はその3つがアクセスサービスになっている。
手話通訳サービス
手話通訳チームは分野別に4つのチームに分かれている。最近これにC-print[チーム(55人程度)が加わった。今後、C-print[チームが4つのチームに組み込まれるかもしれない。
手話通訳時間:100000時間/年間
このうち、80%が授業での情報保障、15%が課外活動(クラブなど)、5%が教員のための通訳
半分が複数の通訳者による通訳(交代で通訳)
※通訳の需要は毎年増え続けている。(需要の98%に通訳を提供)
Channeling=コーディネート
需要の計算方法はいろいろ考えられるが、同じ授業が複数時間で行われ、ろうがバラバラに参加したいといっている場合でも、通訳を派遣しきれないので、いくつかの授業にまとまって受けてもらうようにお願いして調整した後の数字を需要数と考えている。
需要数はろう学生数の増加もあるが、学生の学ぶ分野やレベルの広がりにもよる。また、同じ分野の中でも学生のすすみたい専門が分化されてきているため、同じクラスにまとめるなどの作業が不可能になってきている。
Q:1年間でなぜそんなに需要が増えるのか?
A:1980年にここにきたときには、RITにはいる学生は17・20%しかいなかった。学士をとろうと思う学生が少なかったため。今はもっと増えている(40%)ため、それに併せて通訳の需要が増えてきている。
また、以前よりも専門にはいる学生が増えたことで、それをモデルとしてどんどん高水準の教育を求め大学院等に進学する意欲をもつ学生も増えてきた。
手話通訳者
110人のフルタイムスタッフ
全体の手話通訳量の70%がこれらのフルタイムスタッフにより担われている。残りの30%はフリーランスの通訳者に依頼。
手話通訳依頼の数は変動するので、フリーランス通訳者と組み合わせると便利。定常的な通訳はフルタイム通訳者に依頼し、臨時的なものをフリーランスに依頼する。
手話通訳の数はいくらがんばっても充足されることはなく、努力して増やしてもいつも足りない。また、新しく養成した通訳者が遠隔地通訳オペレーターになりたがるので講義保障を担当する通訳者の数が増えない問題も。
身分保障
8年目の通訳者の給与:平均$35000(新任教員と同程度)
通訳者の初任給:$25500
※ただし、はじめは見習いで入らないといけない。通訳者は4段階に分かれており、レベルによって給与が変わる。
ふつうの大学では2・3段階程度しかない。しかし、NTIDの場合より上を目指してほしいという思いから高いレベルを設定するようになった。これにより、以前は2・3年で通訳を辞めてしまう人が多かったのに、個々では優秀な通訳者をきちんと評価して高い給与を与えるようにしている。
仕事時間=40時間(通訳時間:24時間、残りは専門の学習)頸肩腕障害等の防止のため。ロチェスター大学の医療関係者とともに頸肩腕障害について研究し、通訳者のための休息の取り方や負担をかけない通訳方法等について研究。
例)通訳以外にコンピューター作業をするような場合、頸肩腕障害が生じやすい。通訳者や教員の中でもこのような勤務形態を取っていることが多く、デカロ氏も手根管症候群で手術を行ったことがある。
そのため、作業療法士、理学療法士、セラピストらとともに頸肩腕障害防止に努めている。通訳者は、アスリートでありパフォーマーでもある!アスリートは準備運動が大事!パフォーマーはリラックスが大事!これらを通訳者のために導入。
例)暖かいワックスに手をつけてリラックスするなど。デカロ氏が学部長をしているときに、けいわんの問題が大きくなり、かなりつっこんで頸肩腕の研究を行い、防止のためのシステムを作った。
フリーランス通訳者
長所:必要なときに必要な分だけ頼める。ただし、確実に必要なときに得られるという保障がない。
このほか、通訳コースにいる学生の実習や他大学の通訳コースにいる学生がインターンでくる人を利用することもある。
また、契約社員のような立場の人もいる(フリーとフルタイムの中間)。
これらの通訳者は、養成プログラムで教えている時の学生に声をかけたり、ビラを配ったりして募集。また、養成プログラムの一環として実習がある。ただし、きちんと力量を評価して、教員の推薦状をもらわないと通訳にはあたれない。
手話通訳の人数が足りないため、養成コースにいる学生でも登録通訳として活躍している学生がたくさんいる。
Q:フリーランス通訳者の内容は?どんな人がどんな状況で通訳しているのか?
A:いろいろなタイプがあるが、フルタイムで働いている通訳者もいるが、パートタイムの人も多い。ロチェスターにいるという300人のフリーの通訳者うちの110人は本学にきている。50人は仕事を持っていて、50人はフルタイム。
また、以前は資格を持っている人しか依頼していなかったが、それでは人数が足りなかったため、現在は資格を持っていないひとも依頼している。ただし、雇用時にはきちんと通訳力を評価。
通訳者の中にはネイティブ並にaslを使いこなせる人もいれば、対応手話しか使えない人もいる。ろう者の中にもいろんな手話の好みがある。二つの種類の通訳をおければいいが、RITでは中間でとりあえず我慢してもらうようにしている。ここは大学で、英語を使うことを求められているので、という理由でとりあえず済ませている。
アメリカの場合、aslを利用できる通訳者の数が少ないというよりは、いろんな好みの学生にあわせるときりがないので中間手話にあわせるという色合いの方が強い。
また、ろう学生の中には口話法で育った学生も多い。最近はそうした学生のために字幕サービスを提供するようになったため、今後はサービスの内容がもっと変わってくると思う。また、大学において文字によるサービスを提供することで、ろう教育も変わってくる可能性がある。
Q:ASL話者と対応手話話者は通じるのか?
A:通じるが外国語よりは母国語での授業を受けたいと思うのが自然。
Q:ASLと対応手話の大きな違いは?語彙にも違いがあるのか?
A:ASLには独自の文法がある。対応手話は英語を手であらわすもの。
■ノートテイクサービス
ノートテイカーコーディネーター:大学内のノートテイカーをコーディネートする。(有給・職員)
ノートテイク:トレーニングを受けた学生が謝金をもらってノートを取る。(※アメリカのノートテイクと日本のノートテイクは全く違うため要注意!ノートテイクをリアルタイムの情報保障として用いる日本と違い、アメリカではノートテイクは記録の役割を持ち、基本的に手話通訳と組み合わせて用る。)コーディネーターのスーパーバイズを受けながら仕事を行う。コーディネーターはノートの質を評価し、もし問題があれば指導を行い、実際に学生を授業に派遣する。
通常、ノートテイカーは同じ専門で既にその授業を受けたことがあり、よい成績を取っていた学生に依頼。
学生の中には、PCを使ったり、タブレットPCを使ってノートテイクすることも。書かれたノートはスキャンにかけられ、2時間以内にネット上で見られるようになっている。(以前はカーボン紙を利用していた。その後、コピーして渡す方法をとり、今はスキャンを利用。)
今の課題は、C-print[とノートテイクの統合。C-print[では文字しか使えないため、絵や図表の盛り込まれたテイクの情報をいかに組み合わせていくかが大事。
■C-print[サービス
C-print[:10000時間(手話通訳の10分の1)
謝金:$16.00・/時間(ただし、事前機材設置、事後の整理などがいるので授業時間の2.5倍必要)・$24000/月
要約:元の文章の70%以上は伝えている
これまでは、どうしても文字通訳じゃないといけない人にしか提供してこなかった。(手話を知らない学生など。ただし、文字の方がいいんだけど・・・程度では許されない。これは「好み」と判断される)
ただ、今はもう少しサービスを拡大しており、今後は手話通訳に並ぶサービスとなると思う。
おそらく小中学校で文字による支援が広まってきたため、それを使って育ってきた人が増えてきたこと、以前は一つのサービスにあわせることを求めていたが、今は個々の違いがより重視されるようになってきたことなどが、C-print[拡大の理由では?
また、NTIDは文字通訳を初めて授業で使用した大学ではあるが、当初はCARTを利用しており高額でコストがかかりすぎた。そのため、これを低コストでできるようC-print[を開発した。今は全米で広く利用されている。
このようなサービスの広がりは、まさに手話通訳サービスの広がりと同じ。今は、広がりつつある文字通訳のサービスをコーディネートするため、Speech to text network (STN)ができている。
www.stsn.org
Q:テイクとC-print[の長所・短所は?C-print[の方が多くの人にサービスを提供できるので結果的にコストが低くなるといえるか?
A:テイクは後でみるものなので、比べられない。
ただ、「日本語」のクラスなどではキーボードで打てないので手書きのテイカーが隣で文字を書くなどの方法を利用することもある。
また、C-print[は複数の人に見せることも可能だが、必要な人にしか提供しないので、一つのクラスに二人以上の必要な学生がいることはほとんどない。そのため、通常はパソコンモニタを見る形をとっている。
■その他のサービス
触手話
弱視手話
キュードスピーチ(今、文字通訳に移行しつつあるが、水泳などの授業ではこちらを利用)
※学生の中にはキュードの方が快適だという要望もあるが、こちらとしては手話通訳も文字通訳もあるのでそれで基本的には十分だと考えている。
以前は、手話通訳サービスがあるだけで学生は満足していたが、今は教育環境も変わってきているので、学生と協議をしなければいけない状況も増えている。
アメリカにはADAがあるので、権利を主張してくる学生もたくさんいる。必要なサービスと学生の好み(preference)の問題は難しい。大学としてもできれば好みに合わせたいが。。。
Q:高校までのサービスは?
A:ひとつはC-print[。C-print[は10年前にNTIDで開発されているので、小中学校の中で利用され始めている。それを使っていた学生が、NTIDが作ったものなのでここに来ればC-print[が受けられると思っているが、実際にNTIDでサービス提供を始めたのは2・3年前。
もう一つはキュードによる通訳。以前は方法がなかったので大学でも使っていたが、一つの教室で手話通訳、文字通訳、キュードの3つの情報保障を提供するのは困難!
通訳サービスを日本で提供していくために・・
(1)NTIDの様にたくさんのろう学生が集まっている場合
本格的な通訳者養成プログラムを学内に設け、通訳サービスを提供していくこと。人材育成は非常に重要。コースを造るだけでなく、短期、集中講座みたいなものや、メンター、OJTなどインフォーマルなものから始めても。
また、見習い段階から入れて、現場で育てるという考えも重要。評価を4段階に分けるなど。
(2)小さなプログラムの場合
通訳者を中で育てるのは現実的ではないので、技術を持った通訳者を雇用する方がいい。
Q:盲ろう通訳の養成は?
A:養成コースとしては提供されていないが、コース終了後、ワークショップに参加するなどして勉強する。
Q:文字通訳が広まることで、ろう文化が薄れることはないのか?エンパワメントが阻害される様なことはないか?
A:確かにそのようなことはあると思う。ろうのコミュニティーの状況は、人工内耳の登場やその他の教育方法により変わっている。文字通訳がどのように影響を与えるのかはまだみてみないとわからない。
25年間手話通訳をしてきた人間としては同じ問題を危惧している。ただし、サービスプロバイダーとしてはろう者の求めるサービスを提供するのが仕事。
ただ、NTIDとしては大学の間だけでなくろう者の人生全体を視野に入れて検討しなければいけないと主張している。
Q:C-print[の内容をWebに出す際に教員のチェックは入れているのか?
A:教員にはみる権利があるが、見る義務はないとしている。実際に教員の中には見たがる人もいる。