聴覚障害学生と学生生活

アメリカ視察の様子

全学生の8%が聴覚障害学生だが、学生問題の25%はろう学生によって引き起こされているという現実。
→例年新入生はみんな同じ一つの寮に入っている。こうすると、一つの寮の中でろう学生の割合が高くなる(ろう学生60%、聴学生40%)ため、今年から新入生を二つに分け、聞こえる学生との割合を調整した。これにより、学生問題の発生件数が減少。教員、指導者、カウンセラーとして大学のシステムを変更することで、状況は変わる。そのためには、学生が自分をきちんと出せる環境を作ることが重要。

→このために、学生サポートのためのチームを作っている

(1)Student Life Team
25人の学生とともにいろんな課外活動を行う。(リーダーの育成、マイノリティーの学生の啓発、新入生への支援)
例)大学に入って最初の6週間というのはとても重要。そのために、専門のカウンセラーグループがいて、それぞれの学生に担当が割り当てられている。

(2)カウンセラーチーム

(3)学生生活センタースタッフ
学生に問題が起こりそうなときには、こちらに来るのを待つのみでなく積極的な支援を行う。(授業に出てこないときにこちらから声をかける、手話ができない学生がきた場合に、はじめびっくりするかもしれないが、どの学生もここにいていいんだということを伝えてあげるなど。カウンセラーを送ったり、教員が寮に行って生徒を捕まえる!など)
※ただし、ここは刑務所ではないので強要はしないが・・・

Q:課外活動の例を教えてください

A:大学生活には、授業時間よりも、授業外の時間の方が多い。そのためにさまざまな課外活動を提供している。
例)スポーツ(学生生活センターでのエクササイズや学内レクリエーションチーム(ろう・聴一緒)など。ろうのバスケットチームもあり(120人ぐらい!)。)
例)ボーリングイベント(教員と学生が一緒にボーリングに行く。教育的目的はないが、相互のやりとりを楽しむ。)
例)ユダヤ人のDEAF WEEK(ユダヤ人の学生にとっては、他の学生が自分たちの宗教を理解してもらえないと思っている。そのため、Student Life Teamによりこのようにイベントを作る)
ほかにも、いろんなAwareness Weekがある。レズについて学ぶとか。

Q:一般大学で周囲の状況を変えるためには?

学生の集団でいろんな活動をしようとするが、学生はなかなか集団の運営方法を知らない。そのため、教員等に本当に必要なニーズが伝わらずうまくいかない。学内にNTIDのような学生チームがあればいいが・・・。

A:大きな大学の中でろう学生の人数少ないので、それで大学を変えようとするのは難しいことはよくわかる。他の障害と協力するとか、教授陣の中に数人理解してくれる人を見つけて協力を仰ぐとか。。

A:あるいは、ろうの大人に協力をしてもらうのも重要。いいロールモデルになって影響を与えられる。
ほかに、学生のストレスを理解しているということを伝えたり、教員や学生が聴覚障害について理解できるためのサイト作ったりしてはどうか?

cf: Class Act

Class Actサイトのトップページ画像

米国教育省の助成プロジェクトによって作成されたサイトで、ろう学生と接する際に理解してほしい内容がたくさん盛り込まれている。
→Class Actサイト

Q:ろうの大人の関わりについて

NTID内でろうの大人が活躍している場面があれば教えてほしい。どういう立場でどのような制度を利用して行っているのか。

A:まず、副学長がろう者でありすばらしいロールモデルになっている。ほかに、ろうの教員なども。それだけでなく、毎年5・6人のろう者に講演をしてもらう(自分のキャリアやろうとしてどう生きていくかなどのトピック。もちろん有償で。)
また、National advisary group(諮問グループ?)があり、この50%がろう者になっている。

Q:カウンセリンラーはろう者?

A:カウンセリングスタッフは全員手話ができる(必須!!)。ただし、学生の中には手話ができない人もいるのでそれぞれにコミュニケーション手段にあわせる。そのため、口話を使ったりタイプしたりするなどの手段も組み合わせる。
※ただし、NTIDの学生のほとんどがここにいる間に手話ができるようになる。
※14人の中で5人がろう者。

Q:聞こえる学生とろうの学生の間で問題行動に違いはあるのか?

A:ろうしゃ特有の問題としては、ろう者と聴者の間での齟齬など(エレベーターの中で大声をあげる。大きな音で音楽を聴く(近くに聞こえる学生が住んでいるのに))があげられる。

→このような問題を軽減するために、宿舎には各フロアにRA(resident Adviser:よき先輩役として同じフロアの学生の面倒を見る担当)がいて、こういうことをやってはいけないと教えたりしている。

また、RITの全体の学生を対象としたオリエンテーションでろう者とのつきあい方について伝える時間を作ってもらっている。

画像:Two World

この中では、Two Worldというビデオを作ってろう学生のキャンパス生活を紹介し、RITの学生全員に見せて議論をしたり、数週間後に開かれるフレッシュマンセミナーでも一緒に議論をしたりしている。この中には、聞こえる学生もろうの学生も一緒に加わる。これが実際の大学の場でこれから起こるであろう問題について考えるすばらしい教育の機会になる。

※聞こえる学生のほとんどがこれまでろう学生にあったことがないため、両者の関係作りのためには、我々がきちんとサポートしなければいけない。
※学生の中には外国で働く人もいるので、国際的な異文化問題にも通じるものがある。Co-opで社会にでたときにも、さまざまな異文化体験をするのでその際にも役に立つ。

Q:Two Worldの内容は?

A:ろう学生や聴学生へのインタビューや大学生活の様子を映したもの。一つコピーをあげましょう。

Q:日本語の字幕をつけてもいいですか?

A:許可が得られればokです。

Q:これらのプログラムによって、本当に聴者がろう文化を理解していると思うか?実際の態度は?

A:学生による。表面的な理解しか持たない人もいる。ろう者と接しようとしなかったり。でも、宿舎の隣の部屋にろう学生が住んでいたり、授業の中にろう者がいて、一緒に作業をしたりするので、いずれにしても一緒に活動しなければいけない。
中には、通訳に頼りっきりの人もいるが、相互交流がなければやっていけない。

Two Worldの中ではラグビーの例が紹介されている。チームの中でろうの学生がいい技術を持っているので、だんだん信頼関係を築いていく様子など。

フィルムだけですべてを伝えられるものではないが、これがあることで聞こえない学生への問題を考えなければいけないという雰囲気・きっかけを作れる。
もちろん誤解が起こったり、興味を持たない学生がいたり、隣同士で身支度をしているにもかかわらず全く会話を持たない人たちもいる。でも、一緒に生活しているうちに、こんにちはからはじまって少しずつやりとりが生まれる。

フィルムの中には、一緒にコンピューターに向かっていて、聞こえる学生がろう学生から「それどうやるの?」などと聴いてる場面がある。我々の仕事は自然に相互作用が生まれるような環境を作ることである。

今の現状がパーフェクトであるとは思わない。聞こえる学生の中にも、ろう学生の中にもお互いに興味を持たない学生もいる。
でも、楽しいイベントを用意してそれに惹かれて学生がきたりするなどの場面をたくさん作り、相互作用を生み出すきっかけを作っていくようにしている。

一生懸命がんばってもろう者にとっては興味がないことがある。(有名なコメディアンを呼んできても、ろう者にはおもしろくない)
そのため、時にはろう者のためだけのイベントを作ることも大事。
例)聞こえる学生のユダヤ関連のグループがあるが、ろう学生の中にはろうだけのユダヤ教のグループがほしいという学生もいる。この中ではろうだけだからこそ出てくる話もある。ここでいろんな話をすることで、大グループの中に入っていく力をつけることができることもある。

Q:ろう者と聴者が楽しめるプログラムの例は?

A:スポーツ、オンラインゲーム(ネットワークでつないでゲームで競う)
和太鼓、演劇(バジャイナモノローグ?(劇の名前)、個々の役がろう者と聴者の二人によって演じられている→見る人だけでなく、この劇を作ることでお互いがいい共同作業ができる)
RITの劇場では年間3回の演劇が行われるが、いずれもろう学生が一緒に加わっており、共同作業を通してすばらしい相互作用が生まれる。これも、「環境を作る」ことの一つ。

deaf deaf worldというゲーム

シュミレーションゲームでろうであるというのがどういう状況なのかみることができる。主人公は手話のできない聴者で、周りはみんなろう者という設定。一人で部屋にはいると、中には銀行や警察署があり、働いている人はみんなろう者。いろんな課題が与えられて窓口に行き、筆談などで必死にコミュニケーションをとらなければならない。
→ルールブックをいただきました。後日アップします。

デカロ氏の体験

以前、奥さんとつきあい始めた頃、彼女の実家に行くことになった。両親はろう者で娘がボーイフレンドを連れてきたことに喜んでたくさんの友人を呼び、パーティーを開いてくれた。行ってみると周りはみんなろう者で聞こえるのは私と妻だけ!当時NTIDに努めて3ヶ月だった私は、何とかコミュニケーションがとれなくもなかったが、その時初めてろう者がいつもいつも聞こえる人たちにあわせ、しんどい方法でコミュニケーションをとってくれていることに心から感謝した。いくら手話ができると言っても、聞こえる人ばかりの世界ではろう者は気疲れを感じる。先のゲームでも周りのろう者は親切に筆談に応じてくれるが、それでも自分とは異なるコミュニケーション手段を持つ人の中で過ごすというのがどれだけ精神的に大変なことかを理解させてくれる。

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