アメリカの高等教育機関における情報保障は、手話通訳+記録としてのノートテイクが一般的だが、近年以下のような支援も行われるようになってきている。

■Speech-to-Text Service

Speech-to-Text Serviceの表示

文字を用いたリアルタイムの情報保障一般を指し、主に手話の苦手な難聴学生に対する支援の手段として用いられている。(イメージとしては、日本のパソコン要約筆記や速記タイプ等と同じ。アメリカでは手話通訳による支援が隅々まで行き渡っているため、逆に文字による支援が出遅れている感がある。話を聞いた印象では、もしかすると日本の方が進んでいるかも・・・という感じ。)

ただし、最近は高校までの教育現場で用いられることも多く、Speech-to-Text Serviceによる支援を受けて育った学生が、大学に入って手話通訳ではなく文字による支援を要求する例も増えており、大学側はこれを新たな支援ニーズと見ている。

Speech-to-Text Serviceには様々なものがあるが、代表的な例としては以下があげられる。

(1)CART

Communication Access Realtime Translationの略。もともと裁判所で用いられていた速記システムを、聴覚障害学生への支援に応用したもの。特殊なキーボードを用い、特別なトレーニングを受けたオペレーターが文字を入力する。裁判所での発言を一字一句漏らさずに記録するために開発されたシステムであるため、通常の講義であれば、話し言葉をそのまますべて文字に起こすことが可能。ただし、サービスが高額になるため、大学への負担は大きい。また、1つの講義で20ページ近くの英文を打ち出すため、使いこなすためには聴覚障害学生に高い言語力が必要。→CARTの紹介サイトはこちら(英文)

(2)C-print[

NTIDで開発されたパソコン要約筆記システムで、普通のノートパソコンを用いて入力を行う。入力方法には以下の二通りがあり、オペレーターのスキルや状況に応じて選択が可能。

  • タイプによる入力:音韻体系を基にした省略入力規則(ts→this、sci→scienceなど。日本語の短縮登録のような形)に基づき、オペレーターが講師の話を要約しながらタイプする。
  • 音声認識による入力:講師の話をオペレーターが要約しながら復唱し、コンピューターに認識させる。

入力は要約的で、講師の話の要点を伝える形をとっている。オンラインによる養成講座が用意されており、近年中高での情報保障に広く用いられている。→C-print[の紹介サイトはこちら(英文)

(3)Typwell

Typwellのトップページ画像

C-print[と同様、講師の話を要約してタイプするシステムの一つで、普通のノートパソコンを用いる。入力時には、スペルの体系を基にした省略入力(js→this、scnc→scienceなど)を行う。→Typwellについての紹介サイトはこちら(英文)

この他にも、復唱者を間に挟んだ音声認識による情報保障も徐々に広がりつつあり、こうしたいろんなサービスに関する情報を正しく伝えるために、昨年speech-to-text services Network(右図)という団体が立ち上げられている。ここでは、speech-to-text serviceを用いる利用者に対して、導入の手助けとなる情報を提供しているほか、文字による情報保障についての倫理規定の策定や質を一定に保つための研修の機会を提供している。

Speech-to-Text Serviceについては、以下の説明がわかりやすい。
高等教育現場におけるSpeech-to-Text Service利用ガイド(英文):PEPnetの地域センターの一つであるMCOPによって作成されているガイド。各サービスのスクリーンショットや入力例等が掲載されている。

※アメリカの大学ではノートテイクは記録として用いられるため、Speech-to-Text serviceの範疇には含めない。

■Video Remort Interpreting(VRI)、Remort Captioning

いずれも遠隔による情報保障で、Video Remort Interpreting(VRI)は遠隔地手話通訳、Remort Captioningは遠隔地文字通訳にあたる。両者とも広大なアメリカの地域差をカバーするために近年用いられるようになってきており、特にRemort Captioningは頻繁に用いられている印象を受けた。

VRIについては、これまで手話通訳の派遣を行ってきたエージェンシーや、リレーサービスを提供している会社等が、新たなサービスとして取り組みを始めており、一部の高等教育機関では講義場面での利用も開始されているとのことであった。

(ただし、手話通訳者養成課程を持つ大学にとっては、養成した手話通訳者をvriのオペレーターとして「取られる」ことが大問題になっているようで、既存の手話通訳者との対立が見え隠れしていた。また、アメリカで用いられている遠隔手話通訳のシステムは、通常のテレビ電話を応用的に利用しているのみであり、現在日本で開発されているシステムと比較して非常に簡素なものであった。)

※Video Relay Service (VRS)
もともとtty(テレタイプ電話)で行われていたリレーサービスを、手話で利用できるようにしたもの。ビデオチャットのような画面を持ちい、サービスセンターにいるオペレーター(手話通訳者)が、聴覚障害者と聴者の間の電話でのやりとりを通訳してくれる。

VRIは手話通訳者派遣と同等の扱いになるため、依頼者側が通訳料を支払わなければいけないのに対し、VRSはリレーサービスの扱いとなるため、無償で利用可能。ただし、電話でのやりとりを中継するものなので、これを講義等で用いることはできない。

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