自主シンポジウム「聴覚障害学生高等教育支援ネットワークの構築に向けて」(2005年9月)

概要

日時平成17年9月23日(金・祝) 17時・19時
会場金沢大学角間キャンパス
企画者根本匡文(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
白澤麻弓(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
司会者根本匡文(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
話題提供者金澤貴之(群馬大学教育学部)
田中芳則(広島大学障害学生支援のためのボランティア活動室)
百合野正博(同志社大学学生支援センター)
指定討論者白澤麻弓(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
参加者約20名

企画趣旨

近年、高等教育機関で学ぶ聴覚障害学生が増加し、情報保障を中心とする支援のニーズが一層高まっている。それへの対応は聴覚障害学生自身の努力や個々の大学の取り組みでは十分ではなく、関係する機関や組織が有機的なネットワークを組み、協力して支援の実践を充実させていく必要がある。本シンポジウムでは、昨年から活動を開始した日本聴覚障害学生支援ネットワーク(PEPNet-Japan)を構成する3つの大学から活動の現状と今後の展望を提示してもらい、望ましい支援の形と発展の方向性を検討したい。

シンポジウムの様子1
シンポジウムの様子2
シンポジウムの様子3
シンポジウムの様子4

話題提供・指定討論

話題提供1 群馬大学教育学部 金澤貴之

群馬大学教育学部では、聴覚障害学生への情報保障体制として、昨年度から手話通訳者を非常勤職員として採用している。専門的な技能を持った人材を職員として常駐させることで、授業以外の場面での情報保障にも対応できること、そしてノートテイク、パソコン要約筆記の研修や、手話通訳の反省会の実施など、情報保障の質的向上に向けた取り組みを積極的に行っている点に特徴があるといえる。今後、聴覚障害学生の数が増えた場合に、現在の情報保障の質を落とすことなく対応できるかどうかが将来的な課題となるであろう。
大学の財源は有限であり、障害学生支援にかけられる予算には自ずから限界がある。その中でやりくりするためには、大学に専門のスタッフがおり、その者が主導で学生を支援者として養成していくシステムを確立していかなければならないと思われる。

話題提供2 広島大学障害学生支援のためのボランティア活動室 田中芳則

広島大学では、全学体制の下、支援学生が授業の一環としてノートテイク・パソコンノートテイクおよびビデオの文字おこし・字幕挿入により聴覚障害学生への情報保障を行ってきた。一部、手話通訳も行ったが、講義内容を通訳できるほどのスキルを持つ学生はまだ少数であり、今後もその状況は変わらないと思われる。授業の場ではノートテイク・パソコンノートテイクによる支援が一般的だが、派遣する支援学生の技術レベルが異なること、専門教育ではすでに単位を取得済で授業内容を把握した支援学生を派遣できていないので解決すべき問題ととらえている。
1998年St. Mary’s University(カナダ・ハリファクス市)で発足した国際共同研究プロジェクト「Liberated Learning Project(以下LLP)」に今年度参画したことから、音声認識技術を活用し、リアルタイム字幕による情報保障の実用化に向けて数年後までに日本語版LLP開発を進め、ノートテイク・パソコンノートテイクでの支援学生負担軽減、聴覚障害学生への情報伝達方法の多様化を目指し、「広大モデル」を確立したいと考えている。

話題提供3 同志社大学学生支援センター 百合野正博

同志社大学では、2000年5月に「障がい学生支援制度」をスタートさせ、相談窓口を現在の学生支援センターに一本化し、手話通訳者をコーディネータとして配置した。この制度では有償のアシスタントスタッフと無償のボランティアスタッフの統括・派遣を通じて障がい学生に対する支援を行う一方、教職員向けガイドおよび学生向けパンフレットを編集・配布し、啓蒙、制度周知、スタッフ確保のツールとしている。
現時点では学部学生のノートテイクおよびPC通訳等に関しては派遣率100%をほぼ達成しているが、大学院生等の支援は可能な範囲に留まっている。教員の理解が必ずしも十分とは言えない現状では、大クラスにおける手話通訳やPC通訳の大スクリーン投影等の方法によって、デモンストレイティブに啓蒙と授業方法の改善等を行っていくことを考える必要がある。
将来的には学生同士の関わりの中で自然に手をさしのべられるような大学を目指したい。そのためには、大学としての障がい支援に関するポリシーを定め、すべての学生がダイバーシティー(人的多様性)としての聾文化の理解および支援方法の修得を目指すべきであろう。今われわれに最も求められているのは、そうした課題達成に取り組む「覚悟」ではないかと考えている。

指定討論 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター 白澤麻弓

我が国における聴覚障害学生支援は、依然としてまったく保障が得られない聴覚障害学生を多数残しつつも、一方で大学による積極的な支援の芽が芽生え、さまざまな方向へ育ちつつある。本シンポジウムでは、中でも最も成長が進みつつある3大学に焦点を当て、これらの大学が成し遂げてきた成果について評価・分析するとともに、今後各大学が2年後、あるいは10年後の同大学に何を見ているのか、聴覚障害学生自身は何を望んでいるのかを議論することを通して、今後の支援体制のあり方を模索していきたい。
特に今回の3事例は、障害学生支援のため専任スタッフを中核に据えるという共通の選択を行っていながら、その機能や役割、目指すモデル像が少しずつ異なる点で興味深い。討論ではこれらの違いと、違いを生み出した背景に着目し、個々の大学が置かれた環境条件と各校が目指すモデルとの関連について分析するとともに、各校が思い描いているモデル像を元に、次世代の講義保障モデルについて検討したい。

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