聴覚障害学生のサポート体制に関する全国調査
ごあいさつ
本学は、聴覚障害者及び視覚障害者のための我が国唯一の高等教育機関として、平成13年に聴覚・視覚障害学生の大学教育に関する「相談・支援室」を設置し、学内外の聴覚・視覚障害学生の受け入れや入学後のサポートについての相談を受け付けてまいりました。また平成16年には12の大学・機関の先生方の協力を得て、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)を立ち上げ、一般の大学で聴覚障害学生への支援を行うためのノウハウ蓄積と情報発信を進めてきました。
本調査は、そうした活動の一環として、全国の大学・短期大学における聴覚障害学生へのサポート体制整備状況について把握するために実施したものです。
授業の聞き取りや他の学生とのコミュニケーションが十分行いにくい聴覚障害学生の勉学には、本人だけでなく、授業を担当する教員にとっても大きな困難がともないます。障害のあるなしに関わらず誰もが学習できる環境を整備することはすべての高等教育機関にとっての責務ですが、そのためには受け入れ大学に対する十分な支援も必要であると考えられます。本学では、こうした問題を抱える大学・短期大学の方々と問題を共有するとともに、必要に応じてこれまで蓄積してきた情報やノウハウを提供してゆければと考えておりますので、何かございましたらぜひ遠慮なくご連絡いただきますようお願いいたします。
末尾ながら、聴覚障害学生の受け入れに際して奮闘していらっしゃる大学・短期大学の皆様に深く敬意を表すとともに、調査にご協力いただいた各大学・短期大学の担当者の方々に厚く御礼申し上げます。
平成17年5月30日
筑波技術短期大学障害者高等教育センター
聴覚・視覚障害学生の大学教育に関する相談・支援室聴覚系WG
(現:筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター支援交流室聴覚系WG)
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局
調査実施担当 白澤麻弓
調査概要
我が国の大学・短期大学における聴覚障害学生へのサポート体制整備状況について調査するため、全国の大学・短期大学約1200校を対象に質問紙調査を実施した。
この結果、全国の大学・短期大学のうち約30%(過去3年間を含めると約40%)の大学・短期大学に聴覚障害学生が在籍しているが、その約半数でノートテイクによるサポートが実施されていること、このうち6割の大学・短期大学でノートテイカーに対する謝金が支給されており、5割近い大学で事務職員によるコーディネートおよびノートテイカーに対する何らかの養成が行われていること、障害学生支援委員会や支援センターなど大学組織による公的なノートテイカー派遣体制の整備も進みつつあるが、一方で依然として母親がノートテイクにあたるなど本人およびその周囲の人々の個人的な努力によって講義保障を行わざるを得ないような現状も残されていることなどが明らかになった。
一方、大学ごとの聴覚障害学生在籍数を分析したところ、現在聴覚障害学生が在籍している大学・短期大学の8割が3名以下という少人数での在籍であり、10名以上の在籍がある大学は6校にすぎなかった。これに起因してか、過去3年間には聴覚障害学生が在籍していたが現在は卒業して在籍がない大学が50校ある一方、今年新たに聴覚障害学生を受け入れた大学が34校見られるなど、聴覚障害学生の支援に関するノウハウの蓄積がなされにくい状況が見て取れ、大学間の連携によるサポート体制の構築などノウハウをつなぎ止める工夫の必要性が感じられた。
また、聴覚障害学生の講義受講を支えるサポートとして、学部内およびコーディネーター-聴覚障害学生の間の密接な相談体制の構築、年複数回の関係者を交えた懇談会の実施、聴覚障害学生に対する手話コミュニケーション環境の提供、通訳者の資質向上のためのスキルアップ講座の開講など、より質の高いサポートへの取り組みも報告されており、今後聴覚障害学生支援が単なる情報保障者の配置にとどまらず、新たな段階へと発展していく可能性を感じさせられた。
全学的な取り組みとしては障害学生支援のための独立した窓口を設置している大学が37校あり、16校では専任の職員が配置されていること、このうち3校に手話通訳者、4校に要約筆記者が障害学生の支援業務のために専任で設置されていることなどが明らかになった。
調査報告書
<目次>
- 調査方法
- 回答者の属性
- 障害学生の在籍
- 聴覚障害学生の在籍
- 入学時のサポート
- 物理的なサポート
- 講義受講上のサポート
- ノートテイクによる支援
- ノートテイク担当者
- コーディネート担当者
- 謝金の支給状況
- 養成講座の実施状況
- 全学的支援体制整備状況
- まとめ
- 今後の課題
調査結果の詳細はこちらをご覧下さい。
→報告書のPDFファイルのダウンロードはこちらから(0.14MB)
(筑波技術大学リポジトリのページが別ウィンドウで開きます)
- 大学・短期大学等でご活用いただくことを目的に作成していますので、紙媒体での印刷配布は自由に行っていただいて構いませんが、著作権はPEPNet-Japanに帰属しています。
- また、電子媒体での配布や、商用での利用はご遠慮いただきますようお願いします。
関係資料
- 白澤麻弓(2005)一般大学における聴覚障害学生支援の現状と課題~全国調査の結果から~. 第2回「障害学生の高等教育国際会議」(於・早稲田大学国際会議場),予稿集pp.9-10.
- Mayumi Shirasawa (2005) Current Situation and Problems On Deaf / Hard of Hearing Student Services in Japan :Based on the Results of A Nationwide Survey. The 2nd International Conference of Higher Education of Students with Disabilities (Tokyo, JAPAN; WASEDA university).
- 白澤麻弓(2005) 高等教育機関における情報保障. 全国手話通訳問題研究会会報第92号, pp44-47.
- 調査結果High Lights(English)