Q 聴覚障害学生支援の全国的な状況はどうなっていますか?
現在、全国の大学の約70%に何らかの障害のある学生が在籍しており、聴覚障害学生の数も、年々増加傾向にあります。日本学生支援機構の調査結果(2015年)によると、現在の学生数は1,613名で、約10年の間に500名近く、毎年40~50名のペースで増加しています。
このうち、聴力損失60dB以上の聾学生は604名(聴覚障害学生全体の約37%)、60dB以下の難聴学生は 1,009名(約63%)です。また、大学に対して何らかの支援を申し出ていて、実際に支援を受けている学生は、聾学生で544名(約90%)、難聴学生で534名(約50%)になっており、当然のことながら重度の学生ほど支援の利用率が高いことがわかります。 これらの学生を受け入れている大学が提供している支援手段としては、手書きノートテイクが最も多く、次いでパソコンノートテイク、手話通訳の順になっています。ただ、最近はパソコンノートテイクの実施大学数が増える傾向にあり、手書きノートテイクからパソコンノートテイクへと、ゆるやかな移行が進みつつあると言えます。このほか、FM 補聴器・マイク使用、ビデオ動画への字幕挿入など、さまざまな支援が実施されています。
大学における支援体制については、障害学生支援委員会など、支援に関する議論を行う委員会を設置している大学は237校(大学全体の20.0%)、他の委員会等で対応していると回答した652校(55.2%)を加えると、全体の75.0%の大学で、組織的な対応がなされていることがわかります。 また、障害学生支援室など支援のための専門の部署を持っている大学は120校(10.1%)、障害学生支援コーディネーターなど支援のための専門の人材を配置している大学は125校(10.5%)と、全体数としてはまだまだ少ないものの着実に体制整備が進められてきています。
TipSheet「聴覚障害学生支援の全国的状況と大学に求められる取り組み」白澤麻弓より
(2016/3/30)
参考になる資料
聴覚障害学生支援の全国的な状況については、以下のTipSheetに概要がまとめられています。
「聴覚障害学生支援の聴覚障害学生支援の全国的状況と大学に求められる取り組み ②」
白澤麻弓(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター)
聴覚障害学生支援の現状
法律の施行と大学に求められる取り組み
日本学生支援機構 大学・短期大学・高等専門学校における障害学生の修学支援に関する実態調査
日本学生支援機構が毎年障害学生支援全般に関する調査を行い、詳細な結果を公開している。回収率は例年100%で信頼性のある結果が得られている。
全国障害学生支援センター 大学案内障害者版
全国障害学生支援センター(旧:わかこま自立生活情報室)が1994年から毎年継続的に、障害学生支援全般に関する調査を行い「大学案内障害者版」として結果を発行している。障害のある高校生が進学先を選ぶ時などに参考にできるよう、大学ごとに詳細な情報が公表されている。
→全国障害学生支援センターのサイトはこちら
その他 過去の調査報告等
■白澤麻弓(2005)聴覚障害学生に対するサポート体制についての全国調査
筑波技術大学障害者高等教育研究支援センターおよびPEPNet-Japanの協力で実施した調査。全国約1200校の大学・短期大学を対象に行われており、聴覚障害学生学生に対する支援体制の実態を詳細に明らかにしている。
本サイトに記載されているデータもこの調査の結果によるもの。
■日本障害者高等教育支援センター(2004)大学内の支援(サポート)組織に関するアンケート調査報告書
日本障害者高等教育支援センターによる全国調査で、国立大学と私立大学に分けて結果や考察が示された。
※障害学生支援のための部署設置 6.6%(37校)
うち64.8%が2000年以降の設置(90年代の設置はほとんどが私立大)
■国立大学協会(2001)国立大学における身体に障害を有する者への支援等に関する実態調査報告書
国立大学を対象として実施された調査。この結果を基に、
「(個々の大学には)各学部委員から構成される全学的な『障害学生支援委員会』を設けるべきであり、将来的にはこの委員会を恒常的な『障害学生支援センター』の設置へと発展させていくことが望まれる。
国の援助のもとに、基幹大学に「障害学生支援情報センター」を開設し、公立大学や私立大学を含む全国の大学に障害学生支援に関する情報を提供することが望まれる。また、全国のエリアごとに障害学生支援の中核となる大学を設け、基幹大学・エリアの中核となる大学・個々の大学の間の情報ネットワークを形成していく必要がある。」との提言が出された。