エンパワメントの概念

エンパワメントの概念について、手話で説明します(話し手:筑波技術大学 大杉豊)。日本語での解説はページ下をご覧下さい。

「エンパワメント」、手話ではこのように表現します。
現在、大学において「ろう・難聴学生におけるエンパワメント」という言葉が重要なテーマとなっています。エンパワメントを考える時の視点として、大学の視点と学生の視点、この2つが挙げられます。

まず、大学の視点についてです、ろう・難聴学生の大学生活における支援を実施するにあたり、例えば情報保障など様々な支援をさらにに効率よく発展させていくためには、ろう・難聴学生から、自らに必要なこと、ニーズをきちんと、具体的に伝えてもらうことが必要です。サービス、支援を受けて、「学生は支援をどう思っているか」「よい面、悪い面など改善点はあるか」「よりよい支援方法はあるか」、というような意見がないと、大学としても実施しづらくなります。大学としてはもちろん支援していくことは必要だという考えを持っています。しかし、予算、人材、啓発など様々な面において制約があり、その中で試行錯誤を繰り返しながらうまく進めていく必要があるわけです。それをよりスムーズに進めていくためにもろう・難聴学生からのフォローも必要になります。その際に重要な言葉が「エンパワメント」ということになります。

次に、学生の視点から見てみます。大学生活では情報保障を受け、聴こえる他の学生と対等な立場で勉強し、何事もなく楽しい学生生活を4年間送ることになります。しかし、大学を卒業し社会人になると、情報保障がなく、大学の環境とは違うということを理解することになります。その時になって初めて、大学時代の間に社会人に備えて力を蓄えていなかったことに気付くようでは、4年間を損をしてしまうことになります。そのため、自分で主体的に動く力、社会にうまく適応しながら上手に調整していく力、本来自分が持っている能力を引き出していくとともに、社会的な権限も得ていくというように「エンパワメント」には、この2つの重要性があげられます。

このように、エンパワメントには大学、学生の両方の見方があるわけです。

「エンパワメント」という言葉は、歴史的にみると、例えば黒人解放運動の中で用いられています。黒人が本来持っている能力を発揮し、社会に認めてもらうために「エンパワメント」という言葉が利用されてきました。また、女性解放運動でも同様に「エンパワメント」という言葉が用いられています。

ろう・難聴学生においては、ただ単に情報保障を受けるだけでなく、自分から交渉したり、自分からニーズを伝えたり、周りにおける情報保障について考えたり、何事も自分で努力しながら行動を起こしていくというような経験を積み重ねていくこと。これが主体性と社会性を身につけていく機会となり、結果的に「エンパワメント」につながります。だから大学において、ろう・難聴学生におけるエンパワメントが重要だと言えるのです。

※参考文献:
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク聴覚障害学生支援システム構築運営マニュアル作成事業グループ(2010) 一歩進んだ聴覚障害学生支援 — 組織で支える —. 生活書院 

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