緊張の時!「模擬面接」 実践例
2011年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。
本企画では、1グループ5名の聴覚障害学生が3名の面接官の前に座り、1名あたり約5分の模擬面接を実施し、これを2グループ繰り返した。今回の企画が初めての模擬面接体験だった学生も多く、質問に的確に答えられず、あたふたする様子も見られたが、それぞれが自らの今後の課題を発見することができ、よい練習の機会となった。
役割
人数 | 背景 | |
---|---|---|
司会 | 1名 | スタッフ。 |
面接官 | 3名 | 3名とも就職指導担当教員であり、聴覚障害学生の就職活動に精通している。 |
アドバイザー | 1名 | 聴覚障害当事者。長く一般企業に勤めており、日頃から聴覚障害学生に対して就職活動のアドバイスを行っている。 |
面接官と学生のやりとり
今回聴覚障害学生に多く見られた状況として、自己分析が不十分であり、自らのやりたいことが不明確な例や、企業にとって自分がどのようなメリットがあるかという視点に欠ける例が見られた。以下に、学生が陥りがちな面接の例を紹介したい。なお、例は学生のプライバシーに配慮し、実際の会話の例を参考にして執筆者が作成した架空の会話である。
<自己分析が足りない例>
- 面接官A / あなたが弊社(○○建設)でユニバーサルデザインの街作りがしたいとのことですが、もしあなたが入社したらどのようなことができますか?具体的に教えてください。
- 学生 / 私は建築を通してユニバーサルデザインの街作りに関わる仕事がしたいと思っており、法務担当部署でその縁の下の力持ちになれればと思っております。
- 面接官A / 具体的にはどのようなことがしたいのですか?
- 学生 / 街作りには多くの手続きが必要だと考えており、そのお手伝いができればと思っています。
- 面接官B / エントリーシートには、ユニバーサルデザインの街作りに関わりたいと書いてあります。街作りができるのは企画立案部署になりますが、これがやりたいのではないのですか?
- 学生 / はい、自らの経験を活かして、誰もが暮らしやすい街作りを提案したいと考えています。
- 面接官B / 先ほどは法務を通して縁の下の力持ちになりたいと言われましたが、どちらがやりたいのですか?
- 学生 / (・・・)
Point!自己分析をしよう
自己分析が出来ていない人がたくさんいる。自分が本当は何をしたいのか、どんな仕事をしたいか、どんな職種・業務につきたいか。これらのイメージをハッキリ持っていないと、面接で突っ込まれた時に答えられない。十分に自己分析をしよう。
<説明に具体性が見られない例>
- 面接官A / ○○さんは自分の強みとして、ねばり強く取り組むことと書いていますね。その具体的なエピソードを話してください。
- 学生 / 引き受けた仕事は最後までねばり強く取り組み、やり遂げます。私は今手話サークルの部長をしていますが、部長としての役割を最後まで責任を持ってやる力を持っています。
- 面接官A / 具体的に何をしましたか?どのような成果があったかも教えてください。
- 学生 / 部内のコミュニケーションがスムーズになるように、みんなの意見を良く聞くようにしました。そして、具体的に働きかけることができました。
- 面接官A / みんなの意見を良く聞くこと以外に何か取り組まれたことはありますか?
- 学生 / (・・・)
Point!話に具体性を持たせよう
エントリーシートに書いた内容に対してどのような質問があるかということを想定して書く必要がある。1つ目の質問に答えたら、次にそれに関連して、このような質問があるだろうということも想定しておく。3手先くらいまで先を読んで書くことが大切である。そしてその答えを、具体的なエピソードを持って話せるように準備してほしい。
またエントリーシートは、全国から何百、何千と集まってきて、面接官はそれをずっと読んでいる。他の人と同じようなことが書いてあったら印象に残らない。「自分ならでは」のところを出していけるようにしよう。
<採用側の視点が足りない例>
- 面接官A / 出版社を志望され、日本中の人々が楽しむことができる本作りがしたいとのことですが、会社に入ったら何をしていただけるのか、具体的に教えてください。
- 学生 / 私が希望する株式会社○○出版では、魅力的な本を多く出版しています。私はここで多くの人に読まれ、参考になる本を作りたいと考えています。
- 面接官A / あなたが会社に入ると、具体的に会社のために、何をしていただけるのでしょう?
- 学生 / 総務として働き、社員が働きやすい環境を作ることで、縁の下の力持ちになりたいと思います。
- 面接官B / 総務での仕事を希望されているそうですが、それに関する専門的な知識は大学で教わるのですか?それとも自分で勉強されているんですか?
- 学生 / 大学の専門は社会学です。社会学は幅広い視野を持ち、現在の社会状況を冷静に捉えられる力を学ぶことができていると思います。このような視点を持って会社に貢献したいです。
- 面接官C / 幅広い視野と冷静に物事をつかむ力が、具体的にどのように仕事に結びつきつくと考えていますか?
- 学生 / (・・・)
Point!採用側の視点に立とう
自分がやりたいことにプラスして、会社の中で自分に何ができるかを考えて。採用する側は、皆さんを採ったらどんなメリットがあるのか、という視点を持っている。その上で自分のエントリーシートを振り返ってほしい。

学生の感想
模擬面接を終えた学生からは、以下のような感想が聞かれた。
- 模擬面接を経験できる場はすごく大切だと感じた。いろいろ考えさせられる結果にもつながり、次も機会があった場合、どういう風に伝えるべきか、自分の伝えたいことをあらかじめまとめておく必要があると感じた。
- 心が折れたが、「自分」を考える良い機会になった。自分に足りないところ、甘いところを指摘して頂けたのがとても良かった。
- 面接では鋭い質問を受けて返答に口ごもってしまった。しかしこの体験を今回したことによって将来どんな仕事に就きたいか改めて考えさせられた。
- 模擬面接という、貴重な体験を得、また正直な意見を講師の方からお聞きすることが出来、厳しさ、自分の足りない面を感じる良い機会だった。
- 面接官が本当の面接官のようだったので臨場感、緊張感をもって臨めた。
- 甘く見ていた。エントリーシートを執筆する際、自己分析はすんだ気になっていたが、まだまだ、自分のことを分っていない。また、説得力も弱いと言うことを思い知らされた。その意味で良いショック療法になった。
まとめ(アドバイザーからの感想・アドバイス)
参加学生による研修終了後の評価が一番高かったことにも表れているように、タイムリーなテーマであると同時に、学生にとっては貴重な経験になったと思われる。ただ、こうした経験は往々に「良い経験だった」と抽象的にまとめるだけで終わってしまったり、時間が経つにつれ研修時に得られた気づきが薄れてしまいがちになる。研修趣旨の一つ(早めに失敗する)にあったとおり、具体的にどんな力不足に気づき、それを乗り越えるためにこれからどんな行動をしなければならないのか、研修が終わって数ヶ月経った今、あの時と何が変わっているのか、どのように成長しようとしているのか、参加学生はあの場の失敗を忘れずに、問い直してほしい。こうした自問ができると同時に、行動変化を起こせる学生こそが、社会が求める人材であり、そこには障害の有無は無関係なはずである。