障害学生支援コーディネーター養成研修会(試行版) 実施報告
2012年1月21日に、秋葉原ダイビルカンファレンスフロアにて「障害学生支援コーディネーター養成研修会(試行版)」を開催いたしました。
PEPNet-Japanでは、全国の大学で聴覚障害学生支援を担当するコーディネーター同士の連携体制を構築し、互いに密な情報交換ができる体制を作るとともに、ここで得られた情報を全国に発信していくことを目的に、「コーディネーター連携事業」を展開してきました。
その一環として、2010年度・2011年度は、①障害学生支援担当者の実態調査等を通して、こうした業務を担う人材に求められる専門性を明らかにする、②その養成・研修体制の構築を目的に「障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム(試案)」を作成する、の2点を行ってきました。このカリキュラムは、聴覚障害学生の支援に特化した専門知識・スキルを深めていくとともに、聴覚に限らずに大学での障害学生支援制度の運営を担うにあたっての基盤となる専門性を向上させていく内容になっています。この研修会では、その「障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム(試案)」をもとに開催しました。カリキュラムの詳細は別途「障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム(試案)」のページをご覧下さい。
研修会には非常に多くの方々からお申し込みをいただき、会場の都合で参加をお断りした方もいらっしゃいました。当日の会場は満席で歩くのもやっとという状態で、参加者の皆様にはご不便をおかけし大変申し訳ありませんでした。
当日、本研修会を企画したコーディネーター連携事業の代表である岡田孝和氏(日本社会事業大学)からは、挨拶の中で研修会開催に至った背景や目的等が話されました。司会は、コーディネーター連携事業研修班リーダーとして、研修会の企画・準備の中心となってくださった土橋恵美子氏(同志社大学)が担当されました。
コーディネーター連携事業は2011年度をもって解散となりましたが、PEPNet-Japanでは、今回参加された方々から頂戴したご意見をもとに、引き続き「障害学生支援コーディネーター養成・研修カリキュラム」を検討していく予定です。お申し込みいただきました皆様、講師を務めてくださった先生方、そして研修班をはじめとするコーディネーター連携事業メンバーのみなさまに厚く御礼申し上げます。
開催要項
目的
近年大学などの高等教育機関における障害学生支援の広がりとともに、障害学生支援の業務を専門に担当するいわゆる「障害学生支援コーディネーター(以下、コーディネーター)」を設置する動きが広がりを見せている。しかしその一方で、障害学生支援コーディネーターには高度な専門性を要するにもかかわらず適切な養成・研修体制が構築されていない現状がある。
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)では、障害学生支援担当者の実態調査等を通してこうした業務を担う人材に求められる専門性を明らかにするとともに、その養成・研修体制を構築していくことを目的に「コーディネーター連携事業」を展開してきた。その一部として、聴覚障害学生に対応する専門性をより高めるとともに、聴覚に限らず大学での障害学生支援制度の運営を担うにあたっての基盤となる専門知識・スキルを深めていくための養成カリキュラム作成に取り組んでいた。
本研修会はそのカリキュラムの一部を提供し、こうした業務を専門的に行う際に必要な知識と技術を幅広く学ぶことを目的として開催した。
日時 | 2012年1月21日(土)9:30~17:00 |
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会場 | 秋葉原ダイビル 5階カンファレンスフロア |
対象 | 全国の大学・短期大学・高等専門学校に在学する障害学生への支援業務を担当する教職員 およびそれに準ずる方で専門性をより高めたい方(障害学生支援の業務経験1年以上が望ましい) 大学院生等で、今後この業務を職業として希望している方 |
主催 | 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan) |
参加費 | 無料 |
スケジュール
- 9:30~9:50 開会式
- 9:50~10:50 講義「聴覚障害学生のエンパワメント」 講師:宮城教育大学 松﨑丈氏
- 11:00~12:00
「情報保障の実際」講師:日本社会事業大学
聴覚障害者大学教育支援プロジェクト 岡田孝和氏
名古屋大学学生相談総合センター障害学生支援室 瀬戸今日子氏 - 13:00~15:10 「クレーム対応1・2」 講師:株式会社インソース
- 15:20~16:50 「大学組織理解」講師:広島大学 高等教育研究開発センター 山本眞一氏
- 16:50~17:00 閉会式
当日の様子
聴覚障害学生のエンパワメント
最初の講義「聴覚障害学生のエンパワメント」では、宮城教育大学の松﨑丈先生をお招きした。エンパワメント論は最近よく取り上げられており、“流行って”いるとも言えます。しかし、スキル論に陥ることなく、日常的な会話の積み重ねが大切であることを当事者の立場からお話しいただき、参加者は重いリアリティをもって受け止めたのではないかと思います。当事者からの視点による講義は、エンパワメント論に限らず、今後の研修会で少なくとも一つは取り入れていきたいと感じました。
情報保障の実際
コーディネーター連携事業代表でもある日本社会事業大学の岡田孝和氏、また、事業メンバーでもある名古屋大学の瀬戸今日子氏に講師をお願いしました。まず岡田氏からは「情報保障をマネジメントする」という視点での講義をいただき、瀬戸氏からは、具体的な事例をもとに、情報保障手段の組み合わせによって支援の幅を広げる大切さについてお話いただき、1時間という短い時間ながらも内容の濃い時間となりました。参加者からは、日常業務の見直しや自分の想定した支援との比較等の気づきのきっかけとなった、という意見が多くよせられ、さらに深く学びたいというご意見もいただきました。
クレーム対応
企業や大学職員等への研修実績が豊富と評判の株式会社インソースに講師をお願いし、当日は石川利江氏がいらしてくださいました。障害学生支援に特化した内容ではなかったものの、クレーム対応にとどまらない対応のコツをお話いただき、グループワークでは参加者同士の意見交換が活発に行われていました。学生対応の基本を学ぶことができた、他大学の方と意見を交わすことで新しい発見があった、等の感想がよせられ、大変好評でした。
大学組織理解
広島大学高等教育研究開発センター長の山本眞一先生をお招きし、これからの大学組織と職員の役割に関するご講義をいただきました。大学システムや職員としての役割をはじめ、日本における高等教育の現状にも触れていただき、一大学教職員としてのあり方等を振り返ることのできる内容でした。参加者からは大学人として知っておかなければならないことについて学べたと非常に好評でした。
参加者の声(アンケート結果)
参加者の皆様からのアンケート結果を掲載します。(回答数48)
【参加者数】53名
【アンケート結果】
以下、自由記述で得られたご意見の一部を掲載いたします。
貴重なご意見ご感想をたくさん頂戴し、ありがとうございました。
聴覚障害学生のエンパワメント
- エンパワメントという概念への認識をあらためることができた。エンパワメントとは、たんなるスキルの獲得ではなく本人の生活誌を連続するモノにできるよう手助けをし、今と未来をつなげていくことなのだと学んだ。それを理解した上で、コーディネーターとして係わっていくことが必要なのだと思った。
- 先生のお話の通り、学生に困っていることをたずねると、「特にない」という返答を受ける。にもかかわらず学習は進まず、意思疎通にとても難しさを感じている。できる・できないにかかわらず意向、意見を得ていくことに少しずつ継続的に心を向けたいと思う。
- 当事者でもある支援者としての実践を踏まえたお話は、説得力があると思うためです。エンパワメントのために求められることの基本は、聴覚障害者だけでなく一般的にも当てはまるものだと思っています。それを、それぞれの障害であったり抱える問題の特性に沿したものにしていただけるといいなと思いました。
情報保障の実際
- ドラッカーのマネジメントにおきかえ、大変わかりやすく視点の変換としていただけたように思う。パワーポイントの資料もとても整然としてわかりやすく、情報保障の今後の進め方を検討する上での洗い出しに、役立ちそうである。また実際の例を考えることで、ポイントが浮き立ったと思う。とても良かった。
- 具体的な実践例を聞けて良かったし、具体的なその設定に至るけいかが聞けて良かった。他大学の情報交換も含めて話し合う時間があれば良かった。
- コーディネートはマネージメントというのがすごくわかりました。専門知識のみでなく、全体を見て調整するということが大事であると実感しました。
クレーム対応
- 学生対応のこつとヒントをいただいた。今までの自分の接し方から180度考え方が変わった。すぐに実践していきたい。
- グループワークが中心だったので内容的にもバランスがとれていてよかった。職員が自分で考えることのいい訓練になったと思う。複数コーディネーターがいる大学ではその大学内でもグループワークができて職員のスキルアップにつなげられそう、というかやります!!
- コーディネーターのスキルとして必要性は高いと思う。勤務先の大学では、あまり民間の手法を取り入れた研修機会がないので新鮮だった。
大学組織理解
- 自校の組織編成についてもよく分からないままでいたが、こうした背景、制作と言った大きな社会の流れや方向があるということを知り、森を見る必要があると思いました。もっともっと詳細な時間をかけたお話を聞きたいです。
- 最低限必要な内容だと思った。知らなければ大学での障害学生支援の他の職員の考え方や働き方、支援をつなぐコーディネートネットワークが作成できない。大学の背景がつかむ、広い。
- 大学職員ながら、大きな視野を持って客観的な位置づけを見るというのは普段そんなにない事なので、貴重な機会となりました。
コーディネーター連携事業研修班メンバー
事業代表
岡田孝和(日本社会事業大学)
リーダー
土橋恵美子(同志社大学)
伊藤聡知(富山大学)
瀬戸今日子(名古屋大学)
高橋真里(群馬大学)
二階堂祐子(フェリス女学院大学)
原田美藤(愛媛大学)
※2011年度メンバーのみ掲載。敬称略、代表・リーダー以下五十音順