2011年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。

本企画では、1グループ5名の聴覚障害学生が、冒頭5分程度で補聴器の理解度チェックに臨み、その後、自身の経験や考えを話しながら解説を聞いて、補聴器に関する知識を深めた。多くの学生が、「補聴システム」をテーマにした授業や研修を受けるのは初めての経験であり、講師の説明や他の学生の発言に関心を持って参加していた。

役割

人数背景
講師1名補聴相談の専門家。年間数多くの補聴相談や補聴器のフィッティングを実施。自身も難聴があり補聴器や補聴システムを使いこなしている。

補聴器の理解度チェック

研修の最初に各自で取り組んでもらった10項目の「補聴器理解度チェック」では、ほとんどの学生が7割以上の内容について理解しており、10項目すべてにチェックがつけられた学生も数名いた。

解説とディスカッションの時間には、講師の問いかけに対し、補聴器を使う中で感じていることを率直に話したり、他の学生の話を聞いて「なるほど」とうなずいたりする様子が見られた。

たとえば、「補聴器のボリューム調整」についての解説の際、講師から「どんな場面でうるさいと感じるか?」との質問を受けて、
「子どもの時は机にものを置く時の大きな音なんかが嫌だったけど、今はもう慣れてしまってあまり意識していない」
「音を気にしたことはない」
と答える学生がいる一方で、
「電車に乗っていてトンネルに入ると、うるさいと感じる」
「パチンコ店の前を歩くととてもうるさい」
「車に乗ると音が気になるので補聴器を外すことがある」
など、自分の生活の中での補聴器や音との付き合い方を明確に言葉で表現する学生もいた。

また、補聴器の購入やメンテナンスに関する話題では、自分が今使用している補聴器の値段を尋ねられ、学生からは「30万円」「たぶん20万円くらい…」「知らない」と様々な答えが返っていた。
「20万円といえば、みんなが就職してもらう初任給と同じくらいということ。今はデジタル補聴器も制度の対象になっているので、福祉の法律のことをよく知って、活用していってほしい」
との講師の解説に、将来は自分で補聴器の維持管理をしていくことについて、学生たちは現実味を持って受け止めている様子が見られた。

まとめ

学生全体の印象として、補聴器の特性や管理について、最低限の知識を持って使用している様子が伺えた。多くの聴覚障害学生は、聴覚特別支援学校(ろう学校)、通級指導教室、難聴学級、あるいは補聴器販売店などで、高校段階までに補聴器に関する基本的な知識を得る機会はあると思われる。

しかし、大学に入り親元を離れるなどして環境が変わったあとでも、自分が生活する地域の中で福祉制度を利用したり、相談できる専門家・専門店を見つけたり、また制度変更等の最新情報を自分で収集していかなければならない。大学生活の中で改めて、補聴器や補聴システムについての知識・情報を整理したり、他の聴覚障害者と情報交換したりすることは、非常に重要なエンパワメントの機会になると思われる。

講師が学生に説明している様子

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