私たちの将来は?「ロールモデルに学ぶ-2」 実践例

2011年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。

役割

人数背景
司会2名2名とも聴覚障害当事者であり、大学院生。1名はインテグレーション経験者で、一名はろう学校経験者であった。
講師(A氏、B氏)2名2名とも聴覚障害当事者。一つの会社に長く在籍した経験があり、かつ管理職も経験している。A氏は会社を退職後にろう団体で活躍している。

講師の生い立ち

まずはお二人のことを参加者に知ってもらうために、生い立ちを約15分ずつお話ししていただいた。その経歴を簡単にまとめると二人とも大学を出てから会社に就業している点では同じだが、高校までの経歴においては、A氏はろう学校で8年間在籍してその後地域の中学校に転校した経験を持ち、B氏は一般校で育ち、ろう学校の経験は無いという違いがある。
そしてA氏は大学時代からろう団体の活動にも関わっており、その際に行政に対して働きかけるための交渉というものを学ばれたとのことだった。このろう団体での活動が今でも交渉術などといった形で自分にとって大きな糧になっているとのお話もいただいた。一方、B氏はろう団体には所属しておらず、また周りに手話を使う人がいなかったため手話も習得していなかった。また大学や入社当初の会社でもコミュニケーションから阻害される環境があり、それをどうやって改善しようか悩まれたそうだ。当時は逃げ出したくなることもあったが、それでも逃げなかったのは少ないながらも周りの人の理解があったからこそだったという。そのような環境にいる時には、どうしても人に支えてもらう必要もあると、今になって思うと振り返られていた。

対談

対談の流れは、司会があらかじめ用意した質問を講師にお聞きする形で進行した。本当は講師同士の対談が活発に行われることを期待していたが、実際は時間の制約などもあり上手く進まなかった。なお、あらかじめ司会が用意した質問リストは別紙に掲載したので、今後の参考にされたい。

この対談では、「問題を解決する力」をキーワードにお二人が会社内でどのように聴こえに関する問題を解決していったのか、また周りとの関係をどのように構築していったのか、を中心にお話しいただいた。

A氏は会社で特許に関わる仕事をしており、そこの部では上司も聴覚障害について勉強してくれたそうだ。自身も改善案をたくさん出されたそうだが、通るのは100の内1つか2つだけだったそうだ。ただしそれをネガティブに捉えるのではなく、10や100の内1つか2つ通れば御の字ぐらいに考えていた方が前向きになれるとのアドバイスもいただいた。一方B氏は、情報保障の改善の例として社内放送にまつわるお話をしていただいた。この時は、広報宣伝部にお願いしてそれまで音声でしか提供されなかった情報に字幕をつけてもらったそうだが、このお願いをとおして社内の理解を得ることが出来たのでその後もDVDや社長メッセージなどには全て字幕が付くようになったそうだ。きちんとしたルートで情報保障をお願いすればそれなりの対応はしてもらえるということを学んだとのことだった。加えて、社内の障害者の待遇改善に対しても色々動かれたそうだが、この時に重要なのは「運動」ではなく会社内なので「提案」という形で理解者を増やしながら伝えていくこととのことだった。会社を敵としてみなすのではなく、一緒に働く仲間として見て提案するという形は非常に参考になった。

対談の様子1、手を挙げる学生、対談の様子2

学生の感想

企画終了後、学生からは「社会に出た先輩からじかに話をお聞きするよい機会となった。社会に出る前の心構えができたように思う」「普段から意識するべき事とは何か考えさせられた」「ろうの人生の大先輩からいい話聞けて良い参考になった。自分でも頑張れると実感した」「B氏の生い立ちが自分と似ていたことが(大変個人的な理由ですが)気になった。 一方でA氏の生き方も自分自身と比較でき、非常に多様性(同じ聴覚障害者であっても違う生き方を選ぶということ)の感じられる場面であったと思う」などの感想が聞かれた。

まとめ

「ロールモデルに学ぶ-1」では若手の方のお話だったが、今回は社会人の大先輩のお話だったので、受講者も会社に入った後に管理職といった層の人の考えを知る良い機会になったのではないかと思う。また、話の中にはお二人が今まで会社で働いてきて得た哲学のようなものも含まれており、「ロールモデルに学ぶ-1」のフランクな雰囲気とは異なった緊張感が得られたと思われる。

また、A氏とB氏では、会社内での聴こえの問題に対するアプローチ方法や聴覚障害に対する考え方が違っていた。どちらか一方の話を聞くだけではなく異なるバックグラウンドを持つお二人の話を聞くことで、様々な違いを超えた共通点や自分がこれから社会に出る上で重要な何かを見つけることが出来たと思う。

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