2013年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。

研修会終了後、学生には事後課題として以下のような課題を課した。

  1. これまで大学で受けてきた支援を振り返り、嬉しかったことを整理して教職員に伝える。
  2. ディスカッションシートを用いて、教職員に自分のビジョン・ゴール・アクションを伝える。
  3. 今後大学で何がしたいのか、何ができるのかを教職員とともに考える。

後日、記入された事後課題を確認したところ、多くの学生・教職員が事後課題を通してこれまでの支援を振り返り、今後どのような具体的な行動を起こすか、また教職員はどのような方針で支援していくかを確認する好機となったことがうかがえた。

イラスト 学生の相談に乗る教職員

以下、いくつか例として紹介したい。

役割

人数背景
教職員1名日常的に学生の相談に乗っており、指導的立場にある学生1名
学生1名

これまでの支援でうれしかったこと

ある学生は、大学生活が始まったばかりの頃は不安だったが、オリエンテーションで通訳を受け、健聴学生とコミュニケーションを取ることができ嬉しかったこと、日々支援を受けて健聴学生と共に学ぶことができることも喜びだと述べた。職員は、学生が支援に対して感謝の気持ちを持っていたことに感動し、普段なかなか支援を受けての感想を聞く機会がないため、改めて聞くことができ良い機会だったとした。

また、別の学生は、やむを得ずノートテイカーがつけられなかったゼミで、同じゼミの学生が工夫して情報を伝えてくれたことを嬉しかったこととして挙げた。ゼミ担当の教員は、学生の発言によって、特別な支援技術を持つ人がいない状況でも周りの工夫次第で学びやすくなることに気付き、また今後のゼミ運営でもよりわかりやすくなる工夫を取り入れたいとした。

10年後の自分と今後のアクション

ある教職志望の学生は「あの先生に出会えてよかった」と思ってもらえるような教員になりたいこと、職場の人とも良好な人間関係を築きたいことを10年後のビジョンとして挙げた。その上で、ゴールの設定は、人前でも自信を持って話せるようになることとし、具体的なアクションとして、模擬授業の経験を多く積み重ねたいと述べた。これを聞いた職員は、まず明確なビジョンを持てていることを褒め、その上で、小学校の授業を実際に見学することや、小学生と関わるボランティアに学生のうちにチャレンジしてはどうかと勧めた。また、ビジョンがどちらも他者から見た自分を意識したものであることから、自分の希望や考えをはっきり言えるようになるとより良いのではないかとアドバイスした。

また、福祉関係の公務員を希望する学生は「障害者・高齢者・地域の人々が暮らしやすい環境を作る・提案する業務に関わりたい」とし、そのビジョンに至るためのゴールとして、コミュニケーション力、提案・企画力を高めること、現職のろうあ者相談員などとつながりを持つこと、公務員試験に合格すること等を挙げた。さらに、大学にいる間に実行できるアクションとして、学内の障害学生支援組織の活動を積極的に行うこと、聴覚障害者協会に入り、先輩の話を聞くことを設定した。これを受けて、支援担当職員は、障害学生支援組織の中で学生が重要な役割を担い、その経験を通して本人が苦手とする分野を克服できるよう促したいとした。また、公務員試験対策講座は正課外となるため、情報保障についても今から検討していきたいとした。

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