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2025.05.29

2.学生の「聞こえの状態」を掘り下げる

軽度・中等度難聴の学生さんの場合、大学に入学するまで「聞こえにくいことで情報が入らない」といった問題を重視せずに過ごしてきたことも多いです。そのため、自分の聞こえの状況をうまく伝えられないことがよくあります。
ここでは、学生さんが初めて志磨村さんにお会いした場面で、自分の聞こえについてどのように説明してくれたのか、具体的な事例を紹介しています。
そうした説明を受けた際に、支援担当教職員の皆さんが学生の状況や背景を理解するために、どのような問いかけや働きかけをすべきかについて、アドバイスをまとめています。
学生さんがお読みくださる場合には、こうした事例を参考に、どのようにすれば初対面の相手にも聞こえについて分かりやすく伝わるのか、を考える手がかりにしていただければ幸いです。

【事例1】聞こえについての説明内容が具体的ではない

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聴力は、手帳がギリギリ取れないくらいです。
少しずつ聞こえが落ちてきて、ようやく昨年手帳を取得したところです。

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身体障害者手帳を申請するかどうか、なぜ手帳を取りたいのか、という事情も人それぞれなので、手帳の有無だけでその人の困りごとを把握することは難しいです。
「障害者手帳が取れない」ケースには様々なパターンが考えられます。例えば、左右の聴力差が大きい場合や、高い音の聞き取りは難しいが低い音ならかなり聞き取れる場合、特定の音域が聞き取りにくい場合などです。こうした具体例を示しながら、もう少し「聞こえの実態」を引き出してみることが重要です。
また、聴力低下を伴う場合、これまで聞こえていたはずの音が聞き取れなくなっていることに気づきにくいこともあります。普段接している中で気づいたことがある場合は、さりげなく伝えられるような関係性を普段から築いていただけると良いでしょう。

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右耳が中等度、左耳が軽度の難聴です。聴力は45dBくらいです。

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聴力レベルに応じた難聴の程度について、日本聴覚医学会の分類では以下のように示されます。数字が大きいほど、聴覚障害が重度であることを表します。

軽度難聴(25dB以上40dB未満)
中等度難聴(40dB以上70dB未満)
高度難聴(70dB以上100dB未満)
重度・最重度難聴(100dB以上)

ただし、聴力レベルだけでは「どんなことに困るのか」までは把握できません
音を大きくすれば解決すると思われがちですが、感音難聴や混合性難聴の場合は、音のひずみが加わって聞こえるため、会話の音声を聞き取ることが難しい場面もあるのだと思います。
さらに、同じ聴力レベルでも人によって聞こえ方は異なっています。
例えば、
 ・静かな場所での1対1の会話は問題なく聞き取れるが、騒がしい場所では聞き取れない
 ・隣に座った人の声は聞こえるが教室の前方からの声は聞き取りにくい、
 ・マイクを通した音声やテープや映像教材の音声などは、肉声に比べて聞きにくい
 ・口元も見て理解している
など、場面によって聞こえやすさに差があることも少なくありません。
普段のコミュニケーションの特徴や、どんな場面で聞こえの難しさが出るのか、授業の中で聞き取りにくい音などについても詳しく引き出していけると良いでしょう。

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【事例2】障害名や自分の状態は説明できるが、困りごとが具体的ではない

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感音難聴なので、音を大きくしても言葉や意味のある単語として聞こえません
伝音難聴で骨導補聴器を使っています。耳の周りの骨を振動させて音を聞いています。

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感音難聴・伝音難聴・混合性難聴などの用語を伝えてもらうことも、聴覚障害についての知識をお持ちの方にとって重要な手がかり・キーワードになります。
 ・感音難聴の場合、内耳や聴神経など音を感じる器官に障害があることで音がひずんで聞こえます。このため、「音があることは分かるけれども、何と言っているのか明確に分からない」といった状態が生じます。
 ・伝音難聴の場合は、音を伝える部分に問題があるため、音量を大きくすれば聞き取りやすくなると考えられます。
 ・混合性難聴では、感音難聴と伝音難聴の両方の特徴を持つため、聞こえ方は感音難聴に近いと思います。
こうした前提知識をもとに、具体的にどのような状況で困るのかを詳しく聞いていきたいですね。

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聴力は右が61dB、左が105dBで、障害者手帳6級を取得しています。右耳だけ補聴器を使っています

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この事例では、学生本人が聴力の具体的な数字と障害者手帳の情報も把握しています。
ただし、この情報からだけで「軽い聴覚障害だから、右耳にだけ音が届けば問題ないのかな?」「6級だからそんなに困っていないんじゃないかな?」と誤解されてしまう場合もあります。
実際、60dBの聴力の場合には離れた場所の声は聞き取りにくく、複数人が同時に話す場合は聞き分けが難しいなど、さまざまな困難があります。
誤解を避けるためにも、具体的な困りごとをさらに伝えてもらうことが重要です。

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小さな声は聞こえづらいが、不快閾値(UCL: Uncomfortable Loudness Level)が 90dB程度で、大きすぎる音を聞くと逆にダメージを受けてしまう、という特性があります。

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小さい音を大きくするだけではなく、90dBを超える大きな音が苦手だということを伝えてくれていますね。このように、聴覚障害学生の中には、聞こえにくさだけでなく、「音が大きすぎる」「うるさい」という困りごとを持っている場合もあります。
また、聴覚過敏のある学生の場合、会話音声が複数人重なると聞き取れない、教室の拡声マイクの音が聞き取りにくい、エアコンの音が耳障りで困っているなど、困りごとは一人ひとり違います。
より良い学びの環境を支えるために、困りごとに寄り添いながら支援方法を一緒に考えていただけたらと思います。

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【事例4】聞こえの程度と聞こえやすさ・必要な配慮を理解し伝えられる

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先天性の難聴で、高周波数の音、例えば電子レンジの音や洗濯が終わった時の音が聞こえにくいです。聴力レベルは概ね 70dB くらいで、補聴器をつけると 40~50dB くらいです。オージオグラムでは高音域になるほどグラフが下がっています。
普段のコミュニケーションは補聴器を活用していますが、聞こえるときと聞こえないときの傾向が自分でも掴みにくいです。
「女の人の高い声が聞きやすい」「男の人の声が聞き取りづらい」などと聞こえの説明ができれば良いのですが、聞こえない時の傾向がはっきりしていません。
人の音声の場合は、低い声であっても人によっては本当に聞き取れません。

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非常に整理されて具体的な説明がされていると思います。それでも、まだ聞こえにくいと感じるときの傾向を学生自身が把握できていないようですね。
このような場合には、具体的な場面に応じて聞き取りの状況を確認し、授業中に困ることがないかをヒアリングしていただきたいと思います。
面談の際には、オージオグラムを見せてくれる学生さんもいます。これは補聴器を使わない状態(裸耳)で、それぞれの周波数の最小音の大きさ(聴力レベル)を記録したものです。これにより、高い音の聞きとりが難しいことや、会話の音域が聞き取りにくいこと、左右の聴力差など、聞こえの特徴を把握する手がかりを得ることができます。

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補聴器を使っていますが、基本的に相手の口を見ながら話を理解しています。
うるさい場所での会話や小さい声の人は、補聴器を使っても聞こえにくい時があるので、声を大きくするようにお願いしたり、大学からロジャーを借りて利用しています。ただ、「ロジャーのマイクを使って欲しい」と先生や周りの学生に依頼することをためらってしまいます。

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積極的に補聴援助を活用して、聞き取りやすい環境を整える工夫をしている学生であっても、そのような配慮を依頼する時には躊躇してしまったり、理解が得られるか不安に感じることもあることを、知っておいていただきたいです。
周囲の方にも、学生が困っていることを言い出しにくいのではないかと気を配り、依頼を言い出せるタイミングを作ることが重要です。
そのような工夫や少しの配慮が、学生が安心して参加できる手助けになるでしょう。

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【事例5】周りの人に聞こえの状況と必要な配慮を具体的に伝えることができる

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男性の低い声よりも女性の高い声のほうが聞きやすいです。高音の聴力が良いということではなく、音がハッキリしている方が聞こえやすいな、と思っています。
静かな場所で1対1、あるいは4人までの少人数なら補聴器だけでも問題なく会話ができますが、それ以上の人数ではロジャーを使わないと難しいです。
少人数の場合でも、話し方によって聞こえにくさが変わってくるので、「どんな話し方が聞こえにくいのか」を説明できるようにしていきたいと思っています。

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ここまで自分の聞こえの特徴を把握していて、周りにも分かりやすく伝えられる例はあまり多くないかもしれませんね。このように、人数などを基準に場面ごとの必要なサポートがわかると、具体的な配慮につなげやすくなります。支援室での関わりの中でも、このくらい整理してニーズを伝えられるようになることを目標に、日々働きかけを続けていただきたいと思います。

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