学年が上がってくると、いろいろなスタイルの授業に参加すると思います。これまでの支援方法や授業の参加方法では、聞こえにくい状況を改善することができない場合も出てくると思います。
そうした時の対応事例として、同じ経験をした学生同士や志磨村さんからの意見、アドバイザーの中津さんや事務局からのコメントを載せていますので、ぜひ参考にしてください。
【補聴援助機器を上手に使うために】

学生A/大学から借りているロジャーペンを時々使っています。ただ、補聴器のモードを切り替える必要がある点が面倒であまり使っていません。どうしても補聴器だけでは聞こえない時に使うと、「こんなに聞こえるんだ!」と感じます。

学生B/以前はモードの切り替えで困っていましたが、ネックループにイヤホンを付けて、イヤホンは片耳だけつけてロジャーの音を聞いて、もう片耳では補聴器をつけて聞くようにしています。この方法で、補聴器のモードの切り替えの問題は解消できました。

志磨村/補聴器のモード切り替えの煩わしさ、とてもよくわかります。私が補聴器を買い替える時に一緒に購入したロジャーは、補聴器と直接接続できるタイプで、ロジャーのスイッチを入れると自動でロジャーからの音を聞くモードに切り替わります。こういう機能の向上で解消できることもあります。
もう一つは、補聴器のモード切り替えのタイミングというのは私たち(補聴器利用者)自身にしかわからないことで、周りの人は全く意識してないし分からないことです。だから「補聴器を切り替えるから少し待ってください」などと自分から伝えたほうがいいです。
例えばロジャーマイクを使おうと思ってマイクの電源を入れた時にも、すぐには電源が入らないので5秒ほど待ってもらいたいのですが、周りの人はスイッチをいれた瞬間から話しかけてきますよね。「すぐには聞こえないので少し待ってほしい」いうことを、私たちから伝えなければならないですね。
両耳での聞き取りに差がない場合には、教えてくれたイヤホンの活用も1つの解決方法になりますね。いろいろな工夫をしている様子が伝わります。

ポイント解説
ロジャーなどの補聴援助機器では、「どう音をマイクに入れるか」が非常に重要です。たとえば、話しているときにマイクを口元から離してしまったり、グループの中心にマイクを置いているときに複数人が同時に話し始めて音声が聞き取りにくくなったり、マイクの近くでノートをパラパラめくる音が入ってしまうことがあります。これらの点に注意して、正しく使えているか確認することが大切です。こうした注意点を学生と一緒に資料にまとめ、授業担当の先生やグループの仲間に共有して協力を得られると良いですね。

学生/20~30人のゼミでロジャーを複数台併用して活用しています。どうしても声を拾わない場所があったり、声質によって拾いやすさが違うなど、まだ試行錯誤を重ねています。
具体的には、主な発表者にはロジャーオンを首から下げてもらいます。その他の発言は中央にテーブルマイクを 2 台置いて拾いますが、それでも拾いきれない席の人にはロジャーペンを回してもらっています。

志磨村/安心していろいろ試せていることが伝わりますね。ロジャーペンを回し忘れてしまうあたりが課題になっていませんか?発言者が重なると、ロジャーも混乱しそうですね(笑)。
マイクの回し忘れは私も職場で経験があります。入ったばかりの頃は、マイク持って下さい、と私からは言いにくかったです。その時は理解のある上司だったこともあって、上司から声をかけてくれたことで、他の人たちも気にしてマイクを使ってくれるようになりました。他にも、味方になって一緒に考えてくれる人を職場の中で探して、マイク回しの声掛けに協力をお願いしました。
自分だけが「マイクを持って下さい」と言うのはとっても勇気がいりますが、味方が1~2人いてくれて、「マイク忘れてますよ」と言ってくれると、とても助かりましたし安心して参加できるようになりました。

ポイント解説
この事例のようにロジャーマイクをたくさん組み合わせて利用する、ということも試せる環境があることは素晴らしいと思います。ただ、そこまで潤沢に機材がある大学ばかりではないですよね。1台のマイクを有効に使ってもらいたくても、自分だけが必要だから…と思ってしまい、補聴援助用マイクの利用をお願いするのは負担になるだろうな、とためらってしまうことはありますね。ゼミ担当の先生や周りの学生さんに協力が得られるように、説明の資料を作成しておく、というのも1つかもしれません。
支援担当教職員の方と一緒に伝え方について相談や練習をする機会が持てると、伝え方に自信を持てる後押しができるのではないかなと思います。

学生/少人数のゼミや大人数の授業では試行錯誤をしました。テーブルモード(補足:360度方向の音声を拾うモード)にしてもマイクに近い人の声しか拾えていないことや、マイク回しを忘れられてしまうことも経験しました。補聴援助システムを使っている時に、話をする人にはマイクを通した音に関するフィードバックが何もないから忘れてしまうのかな、と思っています。

志磨村/話している人へのフィードバックがない(ロジャーで拾っている音を聞くことができない)というのは私もずっと感じていましたた。話す人からすれば、使っても何の手応えも得られないですよね。私も以前はパスアラウンドマイク(補足:タッチスクリーンマイクの子機として利用できる、ハンドマイク型のマイク)を3人の間に1本ずつ立てるなど、たくさん並べたりもしていました。こちらとしても、話をするときに手に持つという煩わしさを減らせたらとの思いで、試行錯誤をしていました。

ポイント解説
ロジャーマイクでどのくらい音が拾えているか・拾えていないかは補聴援助を利用している学生さん以外は検証ができないからこそ、その場で聞こえ方に問題がないか、聞こえにくい所はないかを丁寧に確認をしてもらいたいと思います。
もし大学にロジャー受信機(ロジャーマイリンクまたはロジャーネックループ)があるようでしたら、ヘッドホンを受信機に差して集音の状況を支援担当教職員の方や授業を担当する先生方・ゼミのメンバーなどと一緒に確認する機会を持てると、マイクを使う人たちの意識も変化すると思います。
【学会・研究会などの活動への参加】

学生A/対面で開催される小規模な研究会に参加予定ですが、初対面の人が多いのでどうしたらいいのか悩んでいます。ポスター発表のような場を経験した難聴者が周りにいないので、他の人の事例をぜひ知りたいです。

学生B/研究会に参加するとポスター発表があるのですが、狭い部屋で一斉に発表するのでとてもうるさく、聞こえる人でも聞きづらそうにしている環境です。
事前に主催者にも相談した上でロジャーを持っていきましたが、不特定多数の人がいるときに「マイクを使ってください」とお願いをすることが難しく、結局使いませんでした。マイクを渡して発表を聞いていると、途中で別の人の発表を聞くために移動するってことがしづらくなってしまうので、そういう場ではマイク使用はお願いせず、近づいて聞くようにしています。

事務局/学会での補聴や情報保障について、PEPNet-Japanでも相談を頂くことがあります。学会といっても、講演を中心に聞く・ポスターセッションがある・小さな部屋に分かれて口頭発表を行なう、など形式も様々ですし、それぞれを参加者が自由に行き来して行われると思います。実施形態や会場の広さ、そしてどの企画にどのように参加したいのかを整理しながら、最適な方法を一緒に考えるようにしています。
基本的には、配慮の要望を主催者に伝えて対話しながら検討していくことになりますが、漠然とした依頼内容だと主催者の側も具体的な配慮方法をイメージすることができないですよね。そうすると、「やったことがないのでできない」「人員が割けない」「発表者の負担になる」など、と断られる方向にもなりかねませんので、必要な対応方法を具体的に伝えることが大切です。皆さんの場合は補聴環境を整えたいという点が一番大きいと考えると、発表者にやってほしいこと(例:資料を事前に提供して欲しい/発表時に補聴援助のマイクを使って欲しい)、自分自身が行うこと(例:ポスター発表会場にマイクを持参する/聞き取りが難しい場合に使用する手段)、用意してもらいたいもの(例:座席位置の希望/会場の音響にロジャーを接続するための出力ケーブル)などを伝えて、準備を進めて行けるといいのかなと思います。
中津/ロジャーを駆使する以外にも、会場のマイクと学生の補聴器がBluetooth対応であれば、会場のマイクと直接Bluetooth接続して利用する方法もとれると思います。ポスター発表であれば、「1 対数名」となる環境はできるだけ避けて、1 対 1 でやりとりする環境を作ったり、自分が発表する場合には、会場の入り口から少し離れた位置に配置してもらうなどの工夫もあるかと思います。また、周囲が騒がしい場合には、筆談なども併用するなど、さまざまな方法を試してみることになると思います。
事務局/初対面の人同士でグループディスカッションを何度か行い、まとめた内容を発表するという形式のワークショップに参加した学生が、ロジャーオンを活用していました。事前に主催者にも依頼をした上で、グループグループの自由討議の時はテーブルに置いてグループ全体の音を拾い、特定の人の話が聞きたい時はその人にマイクを向けるという方法で、常に自分の近くにマイクがある状態で対応したそうです。ロジャーオンは、5~6mくらいの範囲の音声に照準を合わせて拾うので、テーブルに平置きにする・人に向ける、とフレキシブルに使えるのが効果的だったと言っていました。

ポイント解説
大学院生になると特に学会に参加して研究発表を行ったり、他の方の研究内容を伺う機会も出てきます。「初めて会う人にどう伝えると参加しやすい形になるのか」を事前に検討しつつ、主催者への協力依頼なども事前にしておくとスムーズに進む場合が多いです。
ですが、まだまだ試行錯誤が必要な部分だと思いますので、皆さんが体験した事例も、ぜひ共有してください。
【複数人での会話場面での困難】

学生A/ゼミには約20人が所属しているのですが、毎回同じ部屋の中で4グループに分かれて10~15分程ディスカッションの時間があります。グループメンバーが話す時は首掛け型の補聴援助用のマイクを渡して、マイクに向かって話してもらっています。

学生B/20人がコの字型に座り、担当になった2~3人が研究の進捗を発表して、他の参加者が各自の席から発表内容に対する質問をする形式でゼミが進みます。コの字の真ん中にテーブルマイクを2台置いて参加者の発言を拾い、発表者と教授にはそれぞれロジャーペンを付けてもらっていますが、それでも声を拾いきれない場合もあります。その他に予備のロジャーペンを2台用意していて、テーブルマイクで拾いにくい席の人には、ゼミが始まる前に「このあたりからの発言は置いてあるマイクでは拾えないので、このマイクを持って話をしてください」と依頼をしました。1度伝えた後は、聞こえにくくて困ることが少なくなりました。自分の研究に自信が持てたことで、配慮のお願いしても多少なら嫌がられることはないだろう、と思えるようになりました。ただ、就職してお金をもらう立場になると、上手く言えないかもしれないな、と不安に感じています。

志磨村/働く立場になると、何も配慮がないと自分のポテンシャルを全て発揮することは難しくなります。「お金をもらっているのだから、自分がそれに見合うだけのパフォーマンスをするために必要な配慮を依頼するんだ」という考え方をすることが必要なのかなと思っています。そういったことも一緒に考えられる職場に出会えるのが理想ですね。
中津/聴覚障害のある卒業生から、相談を受けることも多いです。就労先でのサポートを得られている人もいますが、それだけでは十分ではなくて、周囲の人達の非公式なサポートが不可欠になってきます。ただ、そうした理解を得ていくことが一番大変なのですよね。伝え方やタイミングを工夫しながら、少しずつ信頼関係を築き、自分に合った環境に近づけるよう、焦らず進んでいってもらえたらと思います。

ポイント解説
大学生の間に、うまくいった/うまくいかなかった、その両方を経験しておくことが、社会に出てから周囲のサポートを得る上では大切になってくると思います。いろいろな方法を、支援担当教職員の方と試行錯誤しながら一緒に考えていただきたいです。

学生/グループディスカッションでは、自分が参加したほうが他の人にとっても価値がある、と思ってもらえるように、司会や議事録作成を積極的に担っています。急に発言を始める人がいたらストップするなど、自分で場をコントロールする努力をしています。

志磨村/場をコントロールする側に回るのは一つの良いやり方ですよね、私も実際にやっています。特に同年代でのディスカッションであれば気を遣うこともあまりないでしょうから、「私が司会をやりたい」「議事録を作りたい」と言うことができれば、自分が情報を拾うペースに合わせてその場を進行できると思います。ホワイトボードに私が情報を整理して書き出すのを見て、聞き漏らしがないかをみんなに確認してもらうこともできます。人により、合う・合わないはあるかもしれませんが、参加しやすくなる方法の1つだと思います。

学生/以前オンラインの会議に参加した時、参加者の1人が自宅のリビングから参加していて、後ろのテレビがついたままだったんです。
その状況で会議が始まり、テレビの音で会議の音声が聞こえにくかったのですが、聞くだけの立場で参加していたこともあり、「テレビを消してほしいです」とは言えませんでした。
周りの人との関係が浅い場合には、なかなかそうしたお願いは言い出しにくいと思います。もしテレビを消してもらえたとしても、複数名の会話をきちんと聞き取れたかも怪しかったので、配慮してもらっても結果が伴わない可能性があることを考えると、言い出すのはとても抵抗がありました。

志磨村/とてもよくわかります。現実問題として、就職1年目など関係があまりできていない時には言いづらいものですし、様子をうかがいながら、どこまで言っていいのかを探っていく感じになると思います。
ただ、テレビの音は他にも「うるさい」と感じていた人がいたかもしれませんね。
私の場合は、職場のミーティング室にコピー機が置かれていて、会議中にコピーが始まるとすごくうるさくて、会話を聞き取ることができなくなって困っていました。
ある時、思い切って「コピー機の音が気になるんです」と漏らしたところ、60代の上司が「実は自分も聞きにくいんだよね」とおっしゃったんです。年齢を重ねたことで加齢性難聴が始まっていて、周りの騒音が気になっていたみたいで、その上司の発言を機にコピー機は別の場所に移動されました。
試しに、会議の後に「会議中、テレビの音が邪魔ではなかったですか?」と言ってみたら、実は同じように思っていた人が出てくるかもしれません。「自分だけが困った」という伝え方ではなくて、皆さんにも投げかけてみるようなやり方も、味方を増やしていくための作戦の一つだと思います。
経験を重ねて色々な場数を踏まないとできない働きかけかもしれません。ですが、自分の身近に関わってくれる人の中に分かってくれる人が1人増えるだけでも、やれることが増えてくるように思いますよ。

学生/不便なことも多少ありますが、今はゼミの中では情報をほとんど落とさずに聞くことができています。
以前は困っていることを伝えることが苦手だったんですが、以前相談をしてからの進展として、発言時にロジャーマイクに向かって話してもらうようにお願いすることに、割と抵抗がなくなりました。
うまく聞き取れる環境をつくることで、ゼミで自分の意見を言えるようになり、そのことでメンバーに配慮してもらうことに対する抵抗がなくなった、という良い循環が生まれました。

志磨村/ロジャーの活用などハード面の体制だけではうまくいかない時があるのが、聴覚障害のしんどさだと思います。ロジャーを使う場合にも、効果的に使うためには環境調整の部分、特に周りの人に理解を得て協力してもらうことが一番大事になってきて、それも含めて環境が整って初めて、ロジャーを活用する意味が出てきます。環境を整えるためには、「今のこの状況だと、これは聞こえないだろうな」「聞きやすくるすためにこうして欲しい」と自分から伝えていく必要があります。今はまだ周囲の理解が十分とは言えず、自分の状況を言語化していくことが必要だと思いますが、ひとたび環境が整って理解を得られると安心して参加できるようになります。今参加しているゼミが、自分のやりたいことが発揮できる場となり、研究のやりがいにも繋がっていくはずです。この良い環境がぜひ続いてほしいし、他の難聴学生さんにも良いモデルとして伝えて頂けたらと思います。
中津/志磨村さんの「ハードの体制だけ整ってもうまくいかない」という点に同意します。大学時代は自分の聞こえを周囲に説明できていた場合も、それは実は周囲の人達にも「話を聞こうとする姿勢」があったからという場合も多いのではないかと思います。社会に出たら、職場ではまた雰囲気が異なるかもしれず、聞こえについて常にその場でフィードバックすることが本当に大事になってくることを、みなさんのお話しをうかがって実感しました。