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2025.05.29

7.就職活動に関する悩み・聞こえについての理解を広げるために

相談会を開催すると、必ず就職活動に関する話題が出てきます。
特に同じような軽度・中等度難聴の方がどのように就職活動をしていたのか、就職した後はどのように理解を得ているのか、情報を得られないまま過ごしているためだと思います。
ここでは、5・6で扱ったセミナーの際に、就職活動に関連する志磨村さんからの助言をまとめています。特に支援担当教職員の皆様に読んでいただけたらと思っています。

相談会の中で出てきたお話しは、また別のページで学生さん向けのコンテンツとしてご紹介したいと思います(公開準備中)。

就職活動に関する悩み・聞こえについての理解を広げるために①

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・就職活動では、障害者枠を使った方がいいの?(学部3年生)
・聞こえについて理解のある会社かはどう判断したらいいの?(学部4年生)

事務局/就職活動を進めて行くとき、軽度・中等度難聴学生の場合、障害者手帳の等級に該当しないことも多いんですよね。そうすると、就職活動を始めようと思った時に、様々な悩みが出てきます。こういった点について志磨村さんはどう思われますか?

志磨村/障害者枠を使ったほうがいいかとか、その会社が理解あるかどうかなんて「知らんがな」と言いたいところですが(笑)
まずは自分がやりたい仕事に就けることが間違いなくハッピーなので、障害者枠があるのかだけでなく、「やりたいと思っている仕事ができるのか」、「自分のやりたいことを叶えるためにその職場が適しているのか」、を考えられているのかを聞いていきますね。
これは大学を選ぶ時も同じようなことが生じています。障害のある高校生がオープンキャンパスに来ると、「この大学は支援室があって、支援体制が整っているから」と言われるんです。嬉しい反面、やっぱり悲しいですよね。本当は自分が学びたいところが他にあるのかもしれないけれど、「そこは支援体制が不十分だから行きたくないな」、と安全な方を選んでしまう。そういう気持ちは分かるけれど、自分がやりたいことがあるならチャレンジして欲しいです。
就職活動でも、「初めて障害のある人を採用するのなら、働きやすい環境に職場をアップデートさせちゃおう!」くらいのポジティブマインドでもいいと思うんです。そこの迷いや対応を全部学生だけに任せるのではなく、職員の立場で寄り添いたいと思います。そういう意味では、一概に障害者枠云々だけでの相談には乗れないかなと思います。
でも、割とスパッと「私は障害者枠で、支援体制の整っている会社を選びます」と決めている学生もいます。それも考え方の1つだし、その学生が悩んでいるのならとことん付き合って話を聞いてあげたいです。

就職活動に関する悩み・聞こえについての理解を広げるために②

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就職先にはどのタイミングで聞こえの相談をしたらいい?(学部3年生)

志磨村/これまで実際に「聞こえないことを書いたら書類で落とされるんじゃないか」と悩んで、黙ったまま面接まで進んだ学生もいました。けれど、面接で何も聞こえずに撃沈し、良い結果にはなりませんでした。
「聞こえないけれど、どうしてもらえたら皆と同じようにパフォーマンスが発揮できます」まで説明すれば、そんなにマイナスには捉えられないんじゃないかな?とは伝えています。
「聞こえません」しか書いてないと、会社側もビックリしちゃいますよね。全然聞こえない人なのかな?どうやって会話したらいいのかな?とあなた自身とは違う状態を想像されてしまう場合もあると思います。「こういう方法があれば、これはできます」ということまで丁寧に伝えれば、会社側も具体的なことが分かって、順調に進むかもしれません。逆にそこまで説明してもダメなら「ご縁がなかった」でいいと思いますよ。

事務局/障害者雇用を積極的に行っている会社であれば、障害者への理解があって働きやすいだろうな、と考えている学生も多いように思うのですが。

志磨村/それはないと思う…。支援体制が整っている、イコール全社員が障害のある人に理解があるかというと、決してそうではないと思うんですよ。
「こんなはずじゃなかった」ということは入社してからもあると思います。私自身、障害のある人たちを支援する職場も経験していますが、聞こえないことに全員理解があるかというと、全然そうではないです。だから、障害者枠で入ったからといって、自分からは何も言わなくてもいい、ということではないですよね。
自分のことを丁寧に説明して、周囲の理解を得なければならない瞬間は必ず出てきます。大学の時よりもいろんな人と出会って関わっていく以上、自分のことを説明したり、必要な配慮のお願いはしていかなければいけないですよね。

就職活動に関する悩み・聞こえについての理解を広げるために③

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・障害者枠で就職先を探そうと考えているが、障害者手帳は必要なの?(学部3年生)
・聞こえについての理解を就職先で得るためには、どんなことをしたら良いの?(大学院生)

事務局/障害者枠での就職活動をするために障害者手帳の申請をするかどうか悩んでいる、という話も聞きます。軽度・中等度難聴だと、障害者手帳の等級に該当しない場合も多いですよね?
これまで志磨村さんから障害者手帳取得を積極的に勧めたことはありますか?

志磨村/ないですね。

磯田/ですよね、当然学生の自己判断になると思います。「障害者手帳があると障害者枠が使えて就職に有利だ」、「職場での配慮が得られやすいはず」、と捉えている学生さんも多いように思います。
ですが、それらは必ずしも直結しているわけではないことを、学生さんが把握できていないのかもしれないですよね。

志磨村/なぜ手帳の取得にこだわっているのか、聞いてみてもいいですね。

事務局/志磨村さん自身は、今まで働いていた職場で聞こえについての理解を得るためにどんなことをしていましたか?

志磨村/私自身も長い間、自分には「何が聞こえないか」が分からないまま過ごしていました。対面だと音声でのコミュニケーションがそこそこ成り立ってしまうので、自分自身もどこかで大丈夫だと思ってしまうところがあるし、周りの人たちも大丈夫だと思ってしまいます。
言語聴覚士の専門学校に通っていた時、指導教官に「自分が聞こえないことにもっと向き合いなさい」と活を入れられました。そこで、聞こえるクラスメートに私の様子を観察してもらい、「どういう状況が聞こえないか」を抽出してもらいました。
そうしたら、「あんな音も聞こえていなかったのか」、と自分が思っている以上に聞こえない瞬間がたくさんあることに気づいたんです。自分でも「こういう状況だと聞こえない・聞こえにくい」と自覚できたことで、「こういう時はこうしてもらいたいな」、ということを初めて考えることができたんです。
ただ、私自身もこうしてもらいたいことは分かったけど、初めて就職先で説明をした時には、「あまり専門的すぎる説明をされても分からない」と言われたんです。デシベルの説明にしても、それすら大半の人にとっては分からない言葉なので、「聴覚障害の知識が十分にない人にも分かってもらえる伝え方」を考えさせられました。
そのあとからは、自分の聞こえの説明書を作成して、一緒に仕事をする人に渡しています。聞こえの説明書では、「90dBです。感音難聴です。」とだけ書くのではなく、「音が分かるのか・分からないのか」の説明から、「感音難聴というのは言葉が歪んで聞こえます。それは補聴器を使っても100%改善するわけではありません。」などの基本的なことを書いています。それにあわせて、「自分が聞こえにくいシチュエーション ベスト5」を挙げてまとめています。それから、自分には難しいことを挙げるだけではなく、「どうしてもらうと伝わりやすくなるか」まで書いています。
紙にまとめて渡すことで、時間がある時にゆっくり読んでもらえるんですよね。私の場合には聴力に左右差があるので、右側から話しかけられても全く分からないのですが、次に左側から話しかけてくれたりすると、「読んでくれたんだな」と分かります。
口頭で説明しようと思っても、忙しい職場では時間の余裕もないので、紙で配る・説明するというのも1つの選択肢だなと気がつきました。

※志磨村さんの「聞こえについてのリーフレット」はこちらからダウンロードしてご覧ください。ぜひ皆さんそれぞれの「聞こえの説明書」を作成して、活用してくださいね。

画像 志磨村さんのきこえのリーフレット表紙

就職活動に関する悩み・聞こえについての理解を広げるために④

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学生自身が聞こえの理解を深めるために、障害学生支援室でできることは?(支援担当教職員からの相談)

事務局/自分の聞こえを他の人に伝わるように言語化をすることや、聞こえにくい時にどうして欲しいか・自分が聞こえていない場面は、と把握していくプロセスを全部1人でやろうと思うと大変ですよね。大学生の間にどういった形で取り組めるでしょうか?

志磨村/学生さんにとっても、「自分に聞こえてない音を知る」というのは一方でショッキングでもあります。自分ってこんなに聞こえないんだな…と知ることになるから。それを伝え合うには信頼関係がないとできないですし、聴覚障害に関する知識や十分な理解がないと、周りから観察していても把握できないです。
あとは、様々な音の中でその学生さんに特に関わりのある音が何か、その音は本人に入っているのか・入ってないのかを判断することが、周りの人には必要なスキルだと思っています。
大学の支援担当教職員の方は日頃の様子を見ている中で「この音聞こえてないだろうな」と気がつくかもしれませんが、それをフィードバックできる関係性が必要です。その上で、“嫌みなく”音を伝えるというのがポイントです。ごり押しもダメだし、「ほら、聞こえてないでしょ!」とお母さんみたいに言われたら、イヤになりますよね。「今こんな音が鳴ってるね。聞こえる?」というようにサラッと確認しながら、こういう音は聞こえているみたいだな、こういう音は聞こえないんだな、と、支援する側も見立ての材料として蓄積していく。それらをタイミングを見ながらフィードバックすることで、「今、こんな音があったんだ」と学生さんが気がつくきっかけになるかもしれないですね。

事務局/“嫌みなく”のさじ加減は相当難しいですね。
関わり方のポイントとして、「こうだろうな」と思ったことは言ってあげてほしいけれど、「聞こえてないよね」ではなくて、そこにある音情報をさらっと伝えてあげるとか、聞こえていないだろう情報を伝えていく形であれば、ということですかね。

志磨村/本人が何も困ってない時よりも、周りの状況が分からずに「え?」ってなっている時がポイントです。実はある音情報をきっかけに聞こえる人は動いているけど、聞こえていない本人には伝わっていなくて周りの動きについていけてないとか、そういう困っている状況の時に聞き漏らした情報を伝えることが、入口としてはいいのかなと思います。

事務局/「本人が困ったとき、戸惑ったときが伝え時」ですね。