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2025.05.29

6.軽度・中等度難聴学生の困りごとの背景に寄り添う:解説編②

【事例6】補聴と音声認識字幕の併用

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補聴援助システムと併せて音声認識字幕を使っているが、「誤変換が多くて役に立たない。聞くことにエネルギーを費やし、集中して授業に参加したり意見をまとめることができない。」と学生から言われた。大学としてはどんな対応をしたら良い?(支援担当教職員からの相談)

志磨村/誤変換への対応としては、修正者を入れられたらいいな、というのが1つ浮かびます。音声認識も、あればOKではないですよね。誤認識が出るところは、自分の耳で聞いても分からないポイントと重なるものだし、そこを分かった上で使わないといけないと思っています。
より質の高い情報を伝えようと思うのであれば、誤変換を修正する修正者を派遣できないかを検討したいですね。そもそも、そんなに聞くことにエネルギーを費やしているのなら、おそらく文字情報もないとしんどい学生なんだと思います。修正者を入れることが難しければ、パソコン通訳を併せて使ってみるなど、いろいろ考えますね。

事務局/音声認識でダメなのであれば、他の手立ても一緒に考えることも大事ですよね。志磨村さんのお話しにもあったように、「耳で聞いていても聞き取りづらかった音声は、ちゃんとした文字にならず誤変換されてしまう」、これは音声認識字幕の特徴でもあると思います。結局どちらでも正しく情報が取れていないことになってしまいます。ですので、そこだけを頑張り続けるというより、他の手立ても考えていけるという対応があれば、安心して授業に参加できるんじゃないかなと思いました。

志磨村/似たような相談を受けた時にお伝えした方法を紹介しますね。
修正者を入れるのではなく、1人横に座ってもらって、誤認識が出たところは「正しくはこうだよ」と書いて教えてくれる方法も取れますよね。また、音声認識を効果的に使うためのマイクは先生しか持ってないから、学生からの発言を書いて伝える人を1人配置するという支援の方法もあっていいと思います。
音声認識字幕を使っているからといって、それしか使っちゃいけない訳ではないです。必要に応じて修正者を入れる、補助のためのノートテイクを1人つける、など方法はいろいろ考えられます。どこまで大学として対応できるのか、本人のニーズとマッチするのかは一緒に考えてほしいなと思いました。

事務局/全て文字で伝えるという形ではなくて、「専門用語が間違っているところは伝えて」とか、「学生からの発言は書いて欲しい」など、自分にとって苦手、聞き取りづらいと感じるところに支援を使うという形もあっていいですよね。必要としているものと、大学で準備できるものをいろいろマッチングさせながら手立てを考えていけるといいですね。

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【事例7】英語の授業での聞き取りの難しさ

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普段の授業では特に支援を必要としていない学生が、英語の授業や英語で進行する授業になると「文字通訳を使いたい」と希望してきた。どうして英語の授業だけ支援が必要になるのでしょうか?(支援担当教職員からの相談)

事務局/英語の授業で聞き取りが難しいと感じること、特に軽度・中等度難聴などで普段は聞こえを活用されている学生さんには多いと思います。

日本語では、母音(a, i, u, e, o)が必ず含まれていて、これらは比較的低い音域で、音の強さもあるため、補聴器などを活用している方でも聞き取りやすい傾向があります。
一方、英語は子音(k, t, s, th など)が中心で、これらは高い音域で発音すされるため、音が弱く、補聴器を通しても聞き分けが難しくなります。聞こえにくさを補うために、口の動きを見て言葉を理解している学生さんも多いですが、英語は発音の種類が多く、口の動きだけでは判断しづらくなります。
さらに、英語の授業ではグループで話す活動が取られることも多く、グループのメンバーも英語に自信がないと声が小さくなりがちです。そうなると、聞き取りはさらに難しくなってしまいます。
こうした理由から、英語の授業では「文字による情報保障」があると、音だけでは拾いきれない情報を視覚的に補えるため、より安心して授業に参加できる環境になります。状況によっては、情報を拾えているかを個別にフォローアップしていただけたらと思います。

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【事例8】教員から協力が得られない

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ディスカッション場面では補聴援助用のマイクを発言者に持ってもらいたいが、「自然なディスカッションができなくなる」と教員から難色を示されてしまった。(支援担当教職員からの相談)

志磨村/ほんと分かるし、実際あります。いろんな先生がいます。そもそも通訳を入れることを好意的に受け止めてくださらない先生もいます。「動画に字幕を付けさせてください」と依頼したら、「行間が読めなくなるじゃないか!」と言われたりね。
でも、「聞こえない・聞こえにくい」というのはどういうことか、それによって難しいことは何かが、先生方には分かりにくいんだなと思うんです。私はそういう時は、とことん先生と向き合う覚悟をしてメールでのやり取りをしていました。
1つは環境調整が大事なので、先生にも理解してもらえるように、できるだけ説得する方向で支援担当教職員から働きかけたいと思いますね。ロジャーが潤沢にあるのならマイクを回さなくても声を拾えるように機材を配置するのも選択肢としてはありますし、文字での支援者を入れることも考えられますよね。
先生がイヤだなと思ったままだとあまり良い空気じゃないので、聴覚障害学生の居心地は悪いだろうし。できる限り、皆がハッピーというか、前向きに考えられる方法はないかな?といつも考えていました。

あまりごり押しするのは良くないですよね。たとえ正しいことでも、学内で合理的配慮提供の正式な手順を踏んで依頼をしていることでも、無理に押し通すのはちょっと違うなって思っていて。先生が「うーん…」って顔をされたら、それだけで進めにくくなっちゃうし。だから、「どう伝えたら納得してもらえるかな?」「どんなやり方なら良いかな?」といろいろ考えます。
正直もどかしいですが、それでもやっぱり、みんなが前向きにできる方法を見つけたいですね。

事務局/みんなが気持ちよく参加できる・その場にいられる方法を考えるという視点、とても大事ですね。すぐにそうした環境を作り上げるのは難しいけれど、時間をかけて向き合いながらやっていくしかないのでしょうね。

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【事例9】周囲への協力依頼を躊躇ってしまう

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・ロジャーの使用してもらっている場合に、マイクを使っても聞こえない時に「聞こえないです」とは言いにくい。
・「ゆっくり話してください」と伝えても、忘れてしまう人がいる。
・「マイクを持ってください」と何度もお願いすることを躊躇してしまい、途中で諦めてしまう。(聴覚障害学生からの相談)

志磨村/ためらう気持ち、わかります。それで諦めたこともいっぱいあるし、居心地が悪いまま議論が進んで行った経験もたくさんありました。学生時代にはそれでも何とかやり過ごせるかもしれませんが、社会人になり仕事をしていく中では、「聞こえてなかった」「知らなかった」では、責任が取れないこともたくさんあります。例えば、ロジャーでの聞こえ方は周りの人は分からないから、それを時々フィードバックする機会を持つことも必要だと思います。
学生の場合には、参加している場の中で一番立場があるのは先生ですよね。なので、まずは先生に相談して、どんなことで困っているのかを伝えて、マイクを持って話をしてもらう状況にしていきましょう。先生など、その場で一番立場がある人から伝えてもらうことで、環境がガラッと変わることもあります。
誰にフィードバックするかを考えて、伝えていく事も大事です。同級生に話しやすい子がいたら、そこから味方になってくれる人を見つけていくこともできるでしょう。自分だけが我慢すれば、と思う気持ちも分かるけれど、「え?そうだったの?」というくらい意外と周りは分かっていないことも多いです。せっかくのロジャーがうまく使えずに終わってしまうのはもったいないですよね。

事務局/以前志磨村さんが「この人が言ったら、みんな従わざるを得ない人から言ってもらうことが大事」とおっしゃっていました。例えば、ゼミであれば先生が「マイクを使いましょう」と毎回言ってくれる、誰か他のメンバーが「マイク忘れてますよ」と言ってくれるし先生からも伝えてくれるなど、一番偉い人・立場のある人から指示を出してもらうことが、大学に限らず社会に出てからも一番楽だと。
自分から伝えることを躊躇したまま居心地の悪さを感じ続けることを減らしていくとともに、「周りの人に協力してもらえると、自分はこれだけディスカッションに参加できます」、ということを積極的に示していく。周りの人から、「この人にきちんと音を届けないと、私が欲しいフィードバックが得られないんだな」、と思われるくらいその場にコミットできていると、みんなも頼りやすくなると思います。遠慮があるのは当然だけれど、伝え方もいろいろと工夫できると良いですね。

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【事例10】難聴学生とは異なる聞こえの困り感への対応①

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聴覚過敏があるため、教室内にいることが辛い学生にできる支援は?(支援担当教職員からの相談)

志磨村/聴覚過敏だと、周囲の音声や環境音を低減できるノイズキャンセリングヘッドフォンやイヤーマフが本人にとって効果的なのか、それでしんどさが軽減されるかを確認したいですね。それと併用してロジャーを活用して、ノイズキャンセリングをした中でマイクからの音声だけを耳に届けるという支援が有効かを試してみてもいいかなと思います。
ロジャーを使う以外にできる方法として、スマートフォンのアクセシビリティ機能の活用も1つかなと思います。iPhoneの場合、騒がしい場所や少し離れた場所でも声を集音できる「ライブリスニング」という機能があります。ヘッドホンタイプのAirPods Maxやイヤホンタイプの AirPodsでノイズキャンセリングをしながら、iPhoneで拾った音がクリアに届きます。そういうものを使いながら、教室内で授業を受けられるかを考えたいと思います。
それらを使っても聴覚過敏のしんどさが軽減できないのならば、別室で授業を受けられるようにするなどの、いくつかの選択肢を考えたいですね。これならどうか?まだしんどいのか?解決できそうか?を少しずつ、本人に寄り添いながら見立てていきたいですね。

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【事例11】難聴学生とは異なる聞こえの困り感への対応②

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一側性難聴(片耳難聴)の学生に必要な支援は?(支援担当教職員からの相談)

志磨村/本人が一番気にするのは多分場所だと思います。自分にとって聞きやすい場所を確保できるかどうか。たかが片耳、されど片耳で、やっぱりそれでも聞こえない瞬間があるんです。それで何かしらの支援を使っていけないということはないです。本人がノートテイクを使いたいと希望するのならば付けることを検討してあげたいです。座る場所を選びたいけど、学生から言いにくいのであれば、配慮文書を支援室経由で出すこともできます。
片耳だからノートテイクなどの支援はいらないだろう、ではなく、本人がどういうところに困っているかを丁寧に聞いてあげながら考えていきたいですね。

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【事例12】難聴学生とは異なる聞こえの困り感への対応③

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LiD(聞き取り困難症)/APD(聴覚情報保障処理障害)の学生に対する補聴援助活用事例を知りたい。(支援担当教職員からの相談)

志磨村/大学の事例ではないですが、以前の仕事での経験をお話ししますね。
APDの診断はされてないけれど“ことばの聞き取り”が難しいお子さんと接していました。
その子にも、【事例9】で説明したノイズキャンセリングヘッドホンと併せて補聴援助システムを使ったところ、「とても聞きやすくなった」と言っていました。
「難聴の学生だけが使える方法だから、この学生に補聴援助システムを使うことは合わないのでは」ではなく、幅広く支援の選択肢を考えていただけたらと思います。
ことばの聞き取りが難しい学生にも使える支援は様々あると思うので、難聴の学生への支援方法を援用するなど選択肢を幅広く考えながら、いろいろ試行錯誤していただけると良いのかなと思います。

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