聴覚障害学生支援の流れ 2.支援のための準備

実際に必要な配慮の内容が決定したら、この実現に向けて動き出さなければなりません。特に授業において情報保障が必要という場合には、人材の確保と養成が不可欠です。春期休業期間にはいると学生の確保が困難になるので、できるだけ早く調整を進めたいものです。

支援体制構築の流れ
人材の確保→養成講座の開講→登録→シフトの作成→顔合わせ→授業開始→フォローアップ
配慮事項の通知/情報保障に関するルールの作成/入学式・オリエンテーションにおける情報保障確保

Step1 情報保障に必要な人材の確保

ノートテイクや手話通訳などの情報保障が必要となった場合、大学周辺の環境によっては、地域の情報保障者派遣サービスが利用できたり、地域サークル等の力を借りることが可能なこともあります。しかし、現在のところどの地域でも人材不足の状態が続いているため、基本的には大学が独自に人材(多くは学生)を確保し、情報保障者として養成する必要があると思っておいた方がよいでしょう。支援者の確保は聴覚障害学生支援において最も大きな課題ですが、今のところ「いろいろな手段を講じる」以外に有効な手だてが見つかっていません。そのため、他大学の事例を参考にさまざまな角度からアプローチしていくほかに手段がないようです。

Step2 養成講座の開講

ある程度の人材が集まったら、情報保障に必要な知識と技術を身につけるため養成講座を開講するとよいでしょう。講座の回数や時間はさまざまな例がありますが、最低2・3時間、できれば1日・3日間の集中講座で行いたいところです。講師は近隣の大学等で情報保障を行っている機関があれば、そちらで情報保障経験のある方に依頼をしたり、地域の情報保障者派遣サービスを行っている団体等に相談してみるとよいでしょう。
また、実際に派遣をはじめた後、ある程度の現場経験を積んだところでスキルアップの研修会を開催したり、長期休業等を利用して中級・上級編の養成講座を開講することも効果的です。

Step3 情報保障者の登録・配置

養成講座が終わったらいよいよ授業への派遣がはじまります。講座を修了した学生を中心に、情報保障者としての登録希望を募り、聴覚障害学生の履修する授業にあわせて人材を配置していきます。この際、授業の内容や各情報保障者の専門、聴覚障害学生にとっての重要度、情報保障者同士の相性、経験年数等を考慮に入れて配置を検討します。
また、授業における情報保障というのは、多かれ少なかれ担当する人にとって負担になるものです。人材不足によりできる限り多くの時間を担当してもらいたいところですが、長く情報保障の活動に携わってもらうためにも、1週間の担当時間数は2・3コマに抑える必要があるでしょう。

Step4 情報保障に関するルールの作成

同時に情報保障に関するルールの作成も重要です。謝金の有無や金額、支払いの方法、情報保障の担当時間数、授業が休講になったときの扱い、聴覚障害学生または情報保障者が欠席する際の連絡方法や代理の担当者の見つけ方など、統一した見解を設定し、関係者に周知しておきましょう。
また、情報保障者のみでなく、情報保障を利用する聴覚障害学生に対するルールもはっきりしておく必要があります。書かれたノートやパソコンノートテイクの入力データの扱い、やむを得ず直前に欠席しなければならなくなった時の連絡方法等がこれにあたります。

Step5 授業担当教員への配慮依頼

支援のための準備の仕上げに、実際に授業を担当する先生方への協力依頼を文書で通知しておくことも重要です。聴覚障害学生が所属している学科の先生方には、既に学生の存在は伝わっていることと思いますが、実際に自分が担当する講義でどのような配慮をすればよいのか再度検討いただく意味でも、授業準備を始める春期休業中に文書をお渡しすると良いでしょう。
また、他学科や非常勤の先生の中には、聴覚障害学生が在籍していることをまったく知らない方もいらっしゃるかもしれません。そうした場合には、事務からの連絡が唯一聴覚障害学生の存在を事前に知らせる手段となりますので、関連資料を添えて通知するなどできるだけ内容が周知できる工夫をしたいところです。

Step6 入学式・オリエンテーションにおける情報保障手配

以上のような準備と並行して実施しなければ行けないのが、入学式やオリエンテーションにおける情報保障の手配です。授業における支援と同様、学生の意向を最優先にどのような情報保障手段を用いればよいか確認をします。いずれも、大学生活のスタートを切る重要な行事であり、また学生自身もとても不安を抱えている時期であると思いますので、どんな些細な情報も漏らさず伝えるつもりで、充実した情報保障環境を提供してあげたいところです。
また、定期的に行われる授業と違い、大学行事の場合には地域の情報保障者派遣サービスが受けられるケースも多いです。そのため、学内の人材だけでは補いきれない部分については、学外資源の活用も視野に入れて準備をするとよいでしょう。

講師:筑波技術大学障害者高等教育教育研究支援センター准教授 白澤麻弓氏

参考になる資料

■大学ノートテイク支援ハンドブック-ノートテイカーの養成方法から制度の運営まで-

著者:吉川あゆみ・太田晴康・田中啓行・岡田孝和・瀬戸今日子・白澤麻弓・中島亜紀子
 編集:日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(pepnet-japan) 情報保障評価事業グループ
 出版社:人間社(2007年)

【目次】
第1章 ノートテイカー養成の必要性とその準備
 第1節 高等教育機関における聴覚障害学生支援の現状
 第2節 養成講座の開講と年間計画
 第3節 養成講座の開催方法
第2章 ノートテイカー養成講座のカリキュラム
 第1講 聴覚障害学生への理解と情報保障について
 第2講 ノートテイクの基本的な書き方
 第3講 練習 ステップ1・2
 第4講 授業に応じた書き方の工夫
 第5講 ルールとマナー
 第6講 模擬授業による応用練習
第3章 ノートテイカー養成後の対応
 第1節 支援制度の運営
 第2節 スキルアップのために

【付録】「大学ノートテイク支援DVD」(初版2000部限定)
1.聴覚障害学生への理解と情報保障
  1)情報保障の必要性
  2)聴覚障害学生の声
  3)ノートテイクの利用体験
2.ノートテイクの基本
  1)ノートテイクの様子
  2)ノートテイクの基本的な書き方
3.情報保障の実際
  1)講義形式の授業(哲学)
  2)黒板を使った授業(微積分)
  3)語学の授業(中国語)
  4)ゼミの授業
  5)ノートテイカーの声
4.聴覚障害学生支援の全国的状況
  1)同志社大学学生支援センター
  2)東京大学バリアフリー支援室
5.先端技術を使った情報保障支援
  1)遠隔情報保障支援
  2)音声認識を使った文字情報保障支援

画像:ハンドブック表紙

■ノートテイカー養成の手引き

 この手引きは、全国の大学におけるノートテイカー養成にまつわるさまざまな実践をもとに、大学内でノートテイカーを養成する際におさえてほしいポイントを整理するとともに、指導方法やカリキュラムの例を掲載したものです。「ノートテイカー指導者養成講座」で配布されました。

pdfファイル

ノートテイカー養成の手引き表紙
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