本報告では2013年にPEPNet-Japanが実施した「聴覚障害学生のエンパワメントモデル研修会」の実践報告を元に作成しています。参考事例としてご覧ください。

役割

人数背景
講師(進行役)1名聴覚障害学生支援に精通している者が担当した。
同僚の社会人役5名以下のような5名と聴覚障害を持つ新入社員が会議をするという設定でロールプレイを行った。
・係長
・主任
・先輩A(教育担当)
・先輩B(全盲)
・同僚(記録担当)
今回は、うち2名を実行委員の大学職員が、2名を教職員プログラム参加者が、1名を学生(健聴のアルバイト学生)が担当した。
社会人モデル1名聴覚障害を持つ現役社会人で、日常的に健聴者に囲まれて働いている方が担当した。
受講生8名程度3・4名で構成されたグループ、計2グループが同時に受講した。

学生のロールプレイ

はじめに、代表の学生が新入社員役になり、ロールプレイを行った。以下、あるロールプレイの例である。

学生のロールプレイの様子
主 任 (何か○○さん(新入社員)から話があるって聞いているけど。
新入社員(学生) みなさんにお話したいことがありまして、私は相手の口形を読んで話を理解するので、短めの文で、ゆっくり大きな口で話してほしいです。
上 司 私話長いからなぁ。わかるかなぁ。
新入社員(学生) あと、会議の記録のパソコンの隣に座って、みなさんの話している内容を読んで理解したいです。
同 僚 私、打つの遅いですけど大丈夫ですか?
新入社員(学生) はい。あと、ホワイトボードを用意して、みなさんが話している内容を書いてほしいです。
上 司 じゃあ誰か記録係がいるってこと?記録係誰だっけ?
同 僚 パソコンは私ですけど・・・。
先輩B 文字だけだとわからないんですが・・・。
新入社員(学生) ・・・(先輩Bの発言が読み取れず)
先輩B 私目が見えないので、文字だけだとわからないんですが。
新入社員(学生) えーと、私の声はわかりますか?もしわからなければその場でおっしゃってください。

この例では、学生が自分のニーズをただ伝えるだけで、他の会議参加者は重く感じたり、戸惑いを感じているように見えた。

現役社会人のロールプレイ

次に、聴覚障害を持つ現役社会人がモデルとなり、ロールプレイを行った。

現役社会人のロールプレイの様子
新入社員(モデル) 会議の前にお時間いただいてありがとうございます。私は耳が聞こえません。1対1の会話はできます。ですが、みなさんがいるところではそれができません。それで、どのようにして会議に参加すればいいのか悩んでいます。今日は初めての参加なので、うまくいくかどうかわかりませんが、ひとつ試してみたいことがあります。記録用のパソコンの隣に私が座れば、打っている内容が読めますので、席をパソコンの隣にさせてください。打つ内容以外の会話は、どなたか書いていただけますか?
主 任 じゃあもう一人記録がいるってことですか?
新入社員(モデル) はい、そうです。これが最も良い方法かどうかはわからないのですが、今日はこの方法で試してみたいと思っています。いかがでしょうか?
上 司 できるかなぁ。どうですか?
同 僚 しゃべる言葉全てを打つのは難しいと思いますが・・・。
新入社員(モデル) はい、それはわかっていますが、今日はどこまで可能なのか、やってみませんか?それでダメだったら、次の会議の時に、違う方法を考えてみたいと思います。
先輩A そうすると、記録担当の人が会議に参加できなくならないですか?
新入社員(モデル) とりあえず今日はいつも通りに打っていただけませんか?それで私が理解できるかどうか。それで足りなければ、プラス何かやるかどうか、考えたいです。
主 任 そしたら、今日は○○さん(新入社員)はパソコンの隣に席を替わって、雑談のような内容は、△△さん(先輩A)書いてくれる?
新入社員(モデル) ありがとうございます。よろしくお願いします。

この例では、最初と最後にお礼を述べ、まずはハードルの低い方法の一つを試してみたいと提案し、その結果次第で次回どうするかをまた相談したいという言い方をしていた。

ロールプレイ参加者の感想

ロールプレイに参加した学生からは「お願いしにくい感じがした」「大変だった」などの感想が聞かれた。

逆に主任役からは「学生には、もう少し具体的にお願いしてほしかった」「モデルは提案という形で話をもってきてくれたので、具体的な方法がわかりやすかった」、係長役からは「まずいつも通りにやってみていただいてからどうするか考えたい、という提案・相談は、受け入れる側にとってハードルが低く、やりやすいと感じた」と話した。

まとめ

学生のロールプレイとモデルのロールプレイを比較すると、前者は「お願い」に終始しており、他の社員が戸惑っている雰囲気があったが、後者は「提案」や「相談」という形で自らのニーズを持ちかけることで、他社員が受け入れやすいようだった。学生は、ただお願いだけではなく、具体的なアプローチをすることの大切さを学ぶことができたようだった。今回の気付きをきっかけに、今後大学でも、周囲の教職員や支援学生に具体的な提案・相談をする練習を積み重ね、自分の障害やニーズについてどのような言い方をすれば伝わるかを今のうちから試行錯誤し習得することを期待したい。

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