第15回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム
第15回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム
―「声」に寄り添う・「参加」を支える―
2019年11月24日に、大阪大学吹田キャンパス(大阪府吹田市)を会場として、「第15回日本聴覚障害学生高等教育支援シンポジウム」を開催しました。また、前日11月23日には、前日特別企画としてワークショップ企画3テーマ、学生交流企画を実施いたしました。
当日は全国の大学教職員・学生等446名(関係者含む)にご参加頂き、全体テーマである聴覚障害学生の「参加」について、様々な視点で皆様と議論が重ねられました。
本シンポジウムの開催にあたり、企画コーディネーター、講師等、多くの方々にご協力頂きました。
また、ご参加頂きました皆様にも厚く御礼申し上げます。
2019年12月20日
日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)事務局
開催要項
日時
2019年11月24日(日)10時~15時30分
※11月23日(土・祝)13時~16時に「前日特別企画」等を実施しました。
会場
大阪大学吹田キャンパス コンベンションセンター他
スケジュール
《2019年11月24日(日)》
10:00~12:00
■企画1
- 企画説明
- コンテスト参加団体 一言アピールタイム
■セッション企画
- 聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2019
- 聴覚障害学生支援に関する教職員実践発表2019
- PEPNet-Japan正会員大学・機関および実行委員校パネル展示
- 関連団体紹介展示
10:45~12:00
■セミナー
1.基礎講座「学ぼう!知ろう!支援の仕方・使い方」
支援利用を希望する学生や今後大学進学を考えている生徒、また、初めて支援を提供する教職員を対象に、支援利用の流れと必要となるポイントについて、実際に大学の支援で使用されている書類や資料、教材等を紹介しながら解説しました。
- 司会 辻井美帆氏(京都大学)
- 講師 土橋恵美子氏(同志社大学)、藪田みゆき氏(同志社大学 障がい学生支援制度利用学生OG)
2.「手話通訳ニーズに応えるためのコーディネート体制のあり方
手話通訳ニーズと人材についての現状について(2018年度厚生労働省受託事業報告)、および地域の人材と協働で築く手話通訳支援の事例について話題提供しました。
- 司会:白澤麻弓(筑波技術大学)
- 講師:松﨑 丈氏(宮城教育大学)
12:00~13:05
(12時~12時30分、12時35分~13時05分 各30分×2回)
■個別相談
授業や大学生活での配慮、支援技術の導入、補聴相談、支援体制の構築に関すること、等、聴覚障害学生への支援に関することの個別相談を実施しました。
13:30~15:30 全大会Ⅱ
■全体会企画「聴覚障害学生の『参加』を支える支援―話し合い場面から考える―」
- 司会:村田 淳氏(京都大学)
- 講師:中野聡子氏(大阪大学)、有海順子氏(山形大学)、小佐野貴恵氏(山梨県立ろう学校)
■聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト表彰式
■閉会挨拶
前日特別企画
《2019年11月23日(土)》
13:00~16:00
内容
■1.ワークショップ「アセスメントに基づいた合理的配慮と支援プランの作成」(教職員限定)
- 司会:中野聡子氏(大阪大学)
- 講師:諏訪絵里子氏(大阪大学)池谷航介氏(岡山大学)金澤貴之氏(群馬大学)
- グループファシリテーター:望月直人氏(大阪大学)・藤原隆宏氏(関西大学)生野 茜氏(関西学院大学)・脇坂紗帆氏(京都産業大学)中津真美氏(東京大学)・前原明日香氏(宮城教育大学)藤野友紀氏(札幌学院大学)・舩越高樹氏(京都大学)
■2.「支援技術のさらに効果的な利用に向けて-活用事例紹介・利用体験を通して-」
- 司会:楠 敬太氏(大阪大学)仲兼久知枝氏(京都産業大学)
- 講師:三好茂樹(筑波技術大学)太田琢磨氏(愛媛大学)岡田孝和氏(明治学院大学)
■3.「先輩から学ぼう!-大学での学びとキャリア形成-」
- 企画コーディネーター:日下部隆則氏(同志社大学)
- 司会:阪田真己子氏(同志社大学)
- 講師:井坂行男氏(大阪教育大学)濱松晃大氏(関西学院大学 学生)志磨村早紀氏(元早稲田大学障がい学生支援室コーディネーター)廣田喜春氏(公益社団法人大阪聴力障害者協会)
17:00~学生交流企画
参加費:無料
主催
- 国立大学法人 筑波技術大学
- 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)
共済
- 大阪大学 キャンパスライフ健康支援センター
協力
- 大阪教育大学 障がい学生修学支援ルーム
- 関西大学 学生相談・支援センター
- 関西学院大学 学生活動支援機構総合支援センター
- 京都大学 学生総合支援センター障害学生支援ルーム
- 京都産業大学 障害学生教育支援センター
- 同志社大学 学生支援センター障がい学生支援室
- 立命館大学 障害学生支援室
- 特定非営利活動法人ゆに
後援
文部科学省/独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)/一般財団法人全日本ろうあ連盟/社会福祉法人日本視覚障害者団体連合/特定非営利活動法人大学コンソーシアム大阪/特定非営利活動法人南大阪地域大学コンソーシアム/公益財団法人 大学コンソーシアム京都/東京大学 障害と高等教育に関するプラットフォーム形成事業(PHED)/京都大学 高等教育アクセシビリティプラットフォーム(HEAP)
大会長 石原保志(筑波技術大学)
実行委員長 守山敏樹(大阪大学)
副実行委員長 太刀掛俊之(大阪大学)
事務局長 白澤麻弓(筑波技術大学)
幹事 萩原 彩子・中島亜紀子・磯田恭子(筑波技術大学)
実行委員
望月直人・中野聡子・楠 敬太・藤本富美枝(大阪大学)/井坂行男(大阪教育大学)/藤原隆宏(関西大学)/藤田 望・生野 茜(関西学院大学)/村田 淳・辻井美帆(京都大学)/仲兼久知枝・脇坂紗帆(京都産業大学)/土橋恵美子・日下部隆則・佐久川陽介・山本理絵(同志社大学)/窪崎泰紀(特定非営利活動法人ゆに)
三好茂樹・河野純大・松久保大作・石野麻衣子・吉田未来・関戸美音(筑波技術大学)
当日の様子
午前中には実践事例コンテストや教職員実践発表、セミナー(2テーマ)や各種展示など複数の企画を並行して行うセッション企画を行いました。
【セッション企画】
■聴覚障害学生支援に関する実践事例コンテスト2019
全国の16大学・団体から応募を頂き、聴覚障害学生と支援関係者が課題を共有するための工夫や、聴覚障害学生の思いに寄り添った4年間の歩みなど、さまざまな取り組みについて発表されました。会場では、説明・発表の方法を工夫したり、障害の有無に関係なく伝わる方法を考えて実践するなど、より多くの人に日々の取り組みについて知ってもらおうという熱気にあふれていました。
今回はポスター発表に先立ち、全体会1で「30秒アピール」として各団体のPRタイムを設けました。いずれも力の入った発表が行われました。
■教職員による聴覚障害学生支援実践発表2019
全国の9大学の教職員の方々にご応募頂き、日頃の聴覚障害学生支援実践についてご発表いただきました。教職員を対象とした企画で、現在進行形で試行錯誤している支援の取り組みや、FD、情報保障者の養成等様々な報告があり、参加者との情報交換がじっくりと行われていました。
■セミナー企画
2つのテーマで実施しました。75分間のセミナーでしたが、参加者から質問がなされるなど、活発な意見交換が行われました。
セミナー1 基礎講座「学ぼう!知ろう!支援の仕方・使い方」では、辻井美帆氏(京都大学)司会のもと、今後大学進学を考えている方や、初めて支援提供を進める教職員を対象として、支援利用の流れやポイントについて解説するとともに、実際の支援利用経験のお話を聞かせて頂きました。土橋恵美子氏(同志社大学)からは大学で支援業務を担う立場から、藪田みゆき氏(同志社大学 障がい学生支援制度利用学生OG)には支援制度を利用していた経験を元にしたお話をお聞かせ頂きました。特に藪田さんのコメントには当事者学生として感じていた葛藤や、支援室とどのように相談をしていたのかについて、参加者の心に響くお話を聞かせて頂きました。
セミナー2では、「手話通訳ニーズに答えるためのコーディネート体制のあり方」をテーマに、白澤麻弓(筑波技術大学・PEPNet-Japan事務局長)司会のもと、松﨑丈氏(宮城教育大学)よりご講演を頂きました。まず白澤から、手話通訳による支援が必要とされる背景や先進事例について、厚生労働省平成30年度障害者総合福祉推進事業での調査結果を交えながら報告しました。その後、松﨑氏より、宮城教育大学において地域機関と関係を構築し、通訳者や利用学生とともに課題解決や研修を積み重ねてきた実践について紹介いただき、先進的と言われる取り組みがどのようにして実現してきたか、細やかな部分まで参加者と共有することができました。
■「PEPNet-Japan正会員大学・機関および実行委員校パネル展示」
PEPNet-Japan正会員大学・機関の紹介と、PEPNet-Japanが作成した各種教材・成果物のご案内を目的とした展示を行いました。また、本シンポジウムに実行委員協力を頂いた大学・機関のご紹介とともに、各大学の支援の様子をスライドショーにまとめて上映し、多くの方にご覧頂きました。
■「関連団体活動紹介」
筑波技術大学の教員・大学院生による研究や活動の紹介を実施しました。筑波技術大学での様々な取り組み紹介の他、最先端の研究に基づく情報保障支援ツールに触れることのできる場として、多くの方にご覧頂きました。
展示の内容は以下の通りです。
- 筑波技術大学 産業技術学部 高大連携プロジェクト
- 聴覚障害者のためのキャリアサポートセンターの設置事業(日本財団助成事業)
- 遠隔情報保障システム「T-TAC Caption(ティータック キャプション)」
- ISeee TimeLineによるリアルスポーツイベントの次世代の情報保障
- 誰もが学び・楽しめる博物館を!手話ガイド育成支援プロジェクト
- ウェブベース遠隔文字通訳システム「captiOnline(キャプションライン)」
- クラウドソーシングによる手話文字通訳(大学院技術科学研究科)
- 筑波技術大学産業技術学部紹介
- 筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター紹介
- 筑波技術大学教育関係共同利用拠点事業紹介
【全体会】
全体会はPEPNet-Japan事務局長である白澤麻弓の司会進行により進められました。最初に日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク代表及び筑波技術大学長の石原保志より手話を交えた開会の挨拶を行い、ご来賓としてご列席頂いた文部科学省高等教育局学生・留学生課の西條正明様からご挨拶を頂きました。続いて共催校である大阪大学守山敏樹様(本シンポジウム実行委員長)代理として、太刀掛俊之様(本シンポジウム副実行委員長)よりご挨拶を頂きました。この他、後援を頂いた独立行政法人日本学生支援機構ならびに筑波技術大学役職者をご紹介しました。
■全体会企画
「聴覚障害学生の『参加』を支える支援―話し合い場面から考える―」をテーマに、司会に村田淳氏(京都大学)を迎え、講師として中野聡子氏(大阪大学)、有海順子氏(山形大学)、小佐野貴恵氏(山梨県立ろう学校)が登壇されました。事前に行った聴覚障害学生へのアンケートの紹介では、授業の話し合い場面において、なんらかの支援を受けていてそのサポートには満足していても、話し合い活動そのものへの参加度は実感的に低い傾向があることがわかりました。また、映像で話し合い場面の2つの事例を示し、講師から、聴覚障害学生の「参加」を支えるために考えるべきポイントや、それぞれの立場(支援担当教職員、当事者、支援者)で何ができるか等のお話をいただきました。聴覚障害学生支援においては「情報保障」に着目されがちですが、情報を保障したうえで「参加」を保障することこそ目指すところであるということが確認され、大変意義深いディスカッションとなりました。
全体会の最後には、筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター佐藤正幸センター長の挨拶で幕を閉じました。
また、シンポジウムに先駆けて11月23日(土・祝)には、前日特別企画を実施しました。各企画の概要を報告します。
【ワークショップ】
「アセスメントに基づいた合理的配慮と支援プランの作成」
概要
2部構成で行われ、前半では、(1)障害学生支援全般におけるアセスメントの役割、(2)聴覚障害学生への実践的アセスメント、(3)聴覚障害学生支援における支援プラン作成の実際、について、各講師から話題提供をいただきました。後半では、グループに分かれ、架空事例をもとにしたアセスメント・支援計画検討のワークを行いました。ワークでは、学生の学年や支援の段階に応じた支援プランの作成や見直しについて検討した他、実際に配慮依頼文書を作成するなど、より実践的な内容を取り上げ、大変充実したワークショップとなりました。
「支援技術のさらに効果的な利用に向けて-活用事例紹介・利用体験を通して-」
概要
遠隔情報保障技術や音声認識技術、映像教材への字幕挿入・補聴援助システムなどの支援技術を円滑に活用するためのノウハウ共有を目的として、各講師からの実践事例やシステム導入までの背景・考え方についてお話を伺いました。また、支援技術の活用についてグループで実習を行い、どのような技術を活用する場合にも人による支援を欠くことが出来ないという運用時のポイントを再確認しました。
「先輩から学ぼう!-大学での学びとキャリア形成-」
概要
大学で聴覚障害学生を迎え入れる教員や現役の聴覚障害学生、聴覚障害のある社会人、それぞれの立場や年代の講師から、これまでの経験や悩み、支援との付き合い方や聞こえないことに対する思いなどを話して頂きました。その後、参加者から集めた質問カードをもとに質疑応答を行い、各参加者の疑問や不安に応える多くのアドバイスや、励みとなる言葉がたくさん投げかけられた会となりました。最後の時間を使い、参加者各自が自分のキャリアプランを描くワークも行いました。
【学生交流企画】
全日本ろう学生懇談会に企画・運営の協力を得て実施した学生交流企画では、全国の学生約70名にご参加頂きました。アイスブレイクのゲームで盛り上がった後、「普段とは逆の立場になって情報保障をやってみよう・受けてみよう!」をテーマに、手話で話された講演内容を「手話の分かる聴覚障害学生」がノートテイクやパソコンノートテイクなどの情報保障を行い、「手話の分からない健聴学生」が情報保障利用者として内容を把握する体験を経てグループディスカッションを行った後、「自分が意識すること&やってほしい情報保障ベスト3!」をカードにまとめるワークを行いました。食事の間もグループごとに盛り上がり、参加者同士の親睦を深める貴重な機会となりました。