【事例2】 -東京大学の例-
1.東京大学におけるノートテイクの方法
東京大学では、パソコン入力によるノートテイクを行っています。
ノートテイカーが、2人1組で、聴覚障害学生の隣に座り、IPtalk(要約筆記用ソフト)を用いて、連携入力をし、聴覚障害学生は、目の前に置かれた表示専用のパソコンで、入力された文字を読むという方法です。ノートテイカーは、主に学生が担当しています。
※3台のパソコン(ノートテイカー2名分+聴覚障害学生分)をLAN接続
また、ノートテイクと併用し、授業後の必須事項として文字起こしも行っています。これにより、他の学生と同等の情報を提供することができています。文字起こし作業も、学生が担当しています。
用語説明
ノートテイク
聴覚障害学生に、授業内容や教室の様子を、リアルタイムで文字に変えて伝える方法。用紙に筆記をする「手書きノートテイク」や、パソコンに入力をする「パソコンノートテイク」などがある。
ノートテイカー
ノートテイクを行う人。
IPtalk
アイピートーク。要約筆記用ソフト。IPtalkホームページから無料でダウンロードできる。
連携入力
2名のノートテイカーが、音声の文節ごとに交互に入力する方法。LAN接続により、一方のノートテイカーの入力中の文字が他方のノートテイカーのパソコン画面に表示されるので、それを見ながら、文章がつながるようにタイミングを見計らって入力する。
文字起こし
ノートテイクのログ(パソコンノートテイクの際に入力されるデータ)を元に、授業で録音した音声を聞きながら、すべての音声情報を文字に起こすこと。
参考になるページ
→はじめての聴覚障害学生支援 情報保障の方法 2.パソコンによるノートテイク(2)連係入力によるパソコンノートテイク
2.希望者の面接
東京大学では、ノートテイカーを希望する学生に対して、主にパソコン面入力技術を確認するために面接を行っています。
ノートテイカーを希望する学生からの申し込みを、メールまたは電話で受け付け、後日面接日時を設定します。面接はバリアフリー支援室(下記用語説明参照)で行い、支援コーディネーター(下記用語説明参照)が対応しています。
面接の手順
1.業務説明
- ノートテイクの概要(ノートテイクのログ見本、ノートテイク中の写真などを利用する)
- 入力方法
- 勤務時間
- 勤務場所
- シフト(ノートテイカーの担当科目は固定、一日1コマ、一週間に2コマ以内とする)
- 謝金(給与)(月末締め翌月末払い、時給925円、銀行振込み)
2.大学で聴覚障害学生が「学ぶ」とはどういうことかを説明する。
3.ノートテイカーの業務責任(守秘義務など)および心得について説明する。
4.パソコン入力テストを行う。
模擬授業テープを聞きながら、パソコンに入力をするテスト。
模擬授業テープとは、実際の授業に見立てた内容を録音したもの。約110分。
速度は、「通常から、ややゆっくり」に設定。
テストは、10分間連続で行うのではなく、入力が上手くできないなどの場合には、途中で支援コーディネーターが様子を見ながら一時停止させ、コツを伝えた後、再開する方法で行う。
面接時間は約30分程度です。
採用合否は、支援コーディネーターの判断により、結果は口頭で伝えています。
入力速度や入力内容が不十分な場合は、ノートテイクではなく文字起こし作業を担当してもらっています。
Point
- 大学でのノートテイクは、ある程度の授業の専門分野・専門用語の知識が必要なため、ノートテイカーは、ノートテイクを行う授業の学部生に限定している。
- パソコン入力テストの際は、テストを受けている学生の入力技術を、まず褒める。そのあと、「でも、こうやってみたら、もっといいかもしれない」と改善点を付け加える。そして、また褒める。ということを繰り返す。
- バリアフリー支援室の雰囲気を明るくするように努めている。
(例えば、音楽を流す、お菓子を置く、ドアはオープンにする、談話スペースを設けるなど。)
用語説明
バリアフリー支援室
東京大学に在籍する障害をもった学生と教職員の支援を行う部署。駒場支所と本郷支所の2支所がある。
支援コーディネーター
大学内で障害学生支援が円滑に行われるよう、様々な調整を行う職員。現在2支所に常勤(駒場支所2名、本郷支所1名)している。
3.登録手続き
東京大学では、ノートテイカーは「登録制」としています。
登録手続きの流れ
1.書類(受付表、希望シフト、守秘義務に関する覚書、振込先登録依頼書)に、必要事項を記入してもらう。
2.実際にノートテイクを行う際の作業手順を説明する。→ 派遣 参照
3.IPtalkの使い方を、マニュアルに沿って説明する。
4.欠席および遅刻の取り扱いについて、以下の説明をする。
欠席・遅刻に関するルール
<ノートテイカー>
- 欠席をする場合
できるだけ前日までに、バリアフリー支援室に電話またはメールをする。やむを得ず当日欠席をする場合は、至急バリアフリー支援室に電話をする。 - 遅刻をする場合
至急バリアフリー支援室に電話をする。到着予定時間を必ず伝える。電車の中などで電話ができない時のみ、メールにて連絡をする。
→ 支援コーディネーターからの指示を受ける。
<聴覚障害学生>
- 欠席をする場合
できるだけ前日までに、バリアフリー支援室にメールをする。 - 遅刻をする場合
至急バリアフリー支援室にメールをする。到着予定時間を必ず伝える。
欠席・遅刻への支援交流室の対応
<ノートテイカーが欠席した場合>
連絡が入り次第、代わりのノートテイカーを、バリアフリー支援室内で文字起こしを担当している学生の中から選び、派遣する。
<ノートテイカーが遅刻した場合>
- 到着予定時間が授業開始から15分以内であれば、到着までの間、ペアを組んでいるもう一方のノートテイカーが1人でノートテイクを行う。遅刻をしたノートテイカーへの謝金は、実働時間分のみを支払う。
- 遅刻が15分を超える場合、その日のノートテイクはキャンセルとし、代わりのノートテイカーをバリアフリー支援室内で文字起こしを担当している学生の中から選び、派遣する。遅刻したノートテイカーへの謝金は支払わない。
<聴覚障害学生が欠席した場合>
その日のノートテイクは中止とし、担当のノートテイカーに至急連絡をする。
<聴覚障害学生が遅刻した場合>
- ノートテイカーは授業開始から30分まで、教室の中で聴覚障害学生の到着を待つ。この間、入力は行わない。聴覚障害学生が到着し、授業を受ける準備が整い次第、ノートテイカーはノートテイクを開始する。ノートテイカーの謝金は、待機時間も含めて支払う。
- 30分を過ぎても聴覚障害学生が到着しない場合、ノートテイカーは、バリアフリー支援室に電話をする(機器類は片付けずに退室)。この場合は、待機時間30分の謝金を支払う。
5.入力ルールについて、以下の説明をする。
(例)
- ノートテイクの書式は、統一する。
2006年7月7日(金)
憲法
(1行空ける)
先生/こんにちは。暑いですね・・・・。 - 先生の発言の前には「先生/」、学生の発言の前には「学生/」を入力する。
- 先生の発言と学生の発言の間は、2行改行する。また、話が変わる時も同様。
- 教科書を読み上げる時は、出だしのみ入力し、以降は「(朗読)」と入力する。
- 教室内で笑いが起こった時は、「(笑)」または「(一同笑)」と入力する。
- 聞き取れなかった箇所または入力できなかった箇所は、「****」と入力する。
※入力ルールをまとめたものは、ノートテイカーに配付している。
6.聴覚障害学生の氏名を伝える。
7.ノートテイカーが自主練習を希望する場合は、予約を入れる。→フォローアップ 参照
Point
- 代替のノートテイカーを、バリアフリー支援室で文字起こし作業を行っている学生から選ぶことで、迅速な対応ができる。(※文字起こし担当学生の中で、いずれはノートテイク担当を希望している学生へは、ノートテイカーの自主練習の際のペアになってもらったりしながら、コーディネーターのアドバイスを受け練習をしている。)
- ノートテイカーに、自主練習を促すようにする。促すための声かけは、例えば「期待しているよ」などと言い「もっと練習しよう」という気持ちにもっていくよう努める。あるいは「自主練習をすれば当日の不安が少なくなるかもしれないね」など、ノートテイカー1人1人の様子を見ながら各々に応じた声かけを行っている。
- 緊急時の連絡先として、ノートテイカーおよび聴覚障害学生に、バリアフリー支援室の電話番号とメールアドレスは携帯電話に登録しておくことを勧める。
用語説明
IPtalk
アイピートーク。要約筆記用ソフト。IPtalkホームページから無料でダウンロードできる。
文字起こし
ノートテイクのログ(パソコンノートテイクの際に入力されるデータ)を元に、授業で録音した音声を聞きながら、すべての音声情報を文字に起こすこと。
4.シフト表作成
東京大学では、ノートテイカーのシフトを以下の流れに沿って作成しています。
シフト表作成の流れ
1.聴覚障害学生の時間割を把握する。
2.ノートテイカーの希望シフトと照らし合わせながら、マッチングを行う。マッチングの際に考慮する点は、ノートテイカーの既習科目、ノートテイカー同士の人間関係、各授業でのノートテイクレベルの均一化など(上手い人と慣れていない人を組み合わせるなど)。
3.シフト表(下参照)に記入をする。
→ 東京大学バリアフリー支援室 ノートテイク・文字起こし予定表
4.ノートテイカーに、担当内容をメールで伝える。
具体的には・・聴覚障害学生の氏名、日時、場所(教室がわからない場合は地図を添える)、科目名、担当教員、ペアを組むノートテイカーの学部・学年・氏名、授業範囲など。また、事前に担当教員から授業のレジュメや配布プリントを受け取った場合は、添付する。初めての授業を担当するノートテイカーには、授業で使用しているテキスト名も伝える。
Point
- 授業で使用しているテキスト名や授業範囲を事前に伝えることで、ノートテイカーに予習を促す。ノートテイカーが授業内容を把握することにより、質の高いノートテイクが可能となる。
- ノートテイクを行う際、ペアを組む学生同士の息が合うまでは時間がかかるので、ノートテイカーのペアはなるべく固定すると良い。
用語説明
マッチング
障害学生に、どのような支援を行うのか、誰を支援者につけるのかなどをコーディネートすること。ノートテイクの場合は、「どのノートテイカーをどのコマに割り振るか」の作業を表す言葉としても使われる。
5.派遣
派遣当日のノートテイカーの動きについてご説明します。
ノートテイカーの動き
1.担当授業の開始10分前までに教室に到着し、出勤簿に捺印する。(出勤簿は、各自で管理し、月末にバリアフリー支援室に提出)
2.必要な機器類(パソコン、LANケーブル、ハブ、延長コード。支援室で保管)を運ぶ。ノートテイカーが運べない場合は支援コーディネーターが運ぶ。
3.休憩時間内に機器のセッティングを行う。(動作確認を含めて、迅速に!)
→機器の不具合が生じたら・・・
機器の不具合が起きた場合は、ノートテイカーが速やかにバリアフリー支援室に電話をし、支援コーディネーターが代替機器を教室に運びます。修復までの間は、用紙に手書きでノートテイクを行うことになっています。
4. 授業終了後、機器類を片付け、バリアフリー支援室に戻す。ノートテイカーが次の授業に出席しなければならない場合は、支援コーディネーターが行う。ただし、引き続きノートテイクを行う授業がある場合は、機器類は片付けない。
→休講や教室変更の場合
休講や教室変更などは、聴覚障害学生が所属している学部の支援実施担当者から、できるだけ早めに情報を入手し、担当のノートテイカーに連絡をしています。
その他・・・
■表示用パソコンの管理
聴覚障害学生が使用する表示用パソコンは、支援室から貸し出しを行っています。校舎内に、パソコンを保管するための専用のロッカーを設けており、聴覚障害学生自身がその管理をしています。
■聴覚障害学生とノートテイカーの紹介
初めての対面となる初回授業時に支援コーディネーターが教室に行き、聴覚障害学生にノートテイカーを紹介しています。
Point
- 学期開始前に、支援実施担当者から各教員へ、「聴覚障害学生にノートテイカーがつくこと」「授業時、教室内にノートテイクの機器を設置すること」などを伝え、了承を得ておく。さらに、初回授業時、支援実施担当者が教室に向かい、担当教員と聴覚障害学生を会わせる。
- 担当教員に、バリアフリー支援室や支援コーディネーターの存在を知ってもらうよう努める。また、どのようなことでも質問してもらえるような関係を作るよう、常に心がける。
- 機器類の不具合が生じた場合に備え、ある程度の予備の機器を用意しておくとよい。
用語説明
支援実施担当者
東京大学の各学部・研究科で選任された、障害学生および教職員支援の窓口となる担当者のこと。
6.データの取り扱い
聴覚障害学生支援活動で入手、作成される各種データについては現在以下のように使用しています。
■ログ
授業中にノートテイカーが入力したログは、授業終了後、聴覚障害学生が支援室に渡すことになっています。支援室ではデータ保管し、文字起こし作業に使用しています。
■icレコーダー
授業時に、ノートテイクと並行して、icレコーダーを使用して講義内容の録音を行っています。録音データは、授業終了後支援室で保管し、後日文字起こし作業で使用しています。
■文字起こし原稿データ
文字起こし完成後、文字起こし原稿データは支援室で保管し、聴覚障害学生にはメールで送信しています。
用語説明
ログ
パソコンノートテイクの際に入力されるデータ。
文字起こし
ノートテイクのログを元に、授業で録音した音声を聞きながら、すべての音声情報を文字に起こすこと。
7.フォローアップ
派遣を行なっている間、ノートテイカーや聴覚障害学生に対して適時フォローアップをしています。
ノートテイカーへのフォローアップ
- 支援コーディネーターは、ノートテイカーが授業中に入力したログを、文字入力の正確さ、言葉の意味が伝わるかどうか、見易さ、入力文字数などの点からチェックをする。
- 終了したノートテイクに対する支援コーディネーターのコメントを、ノートテイカーにメールにて伝える。コメントには、良かった点、改善点、聴覚障害学生からの希望、ペアを組んでいるテイカーからの感想などが含まれる。
- ノートテイカーから、授業時または授業後などで気づいた点・質問・感想などを、メール、または直接バリアフリー支援室で口頭にて受ける。その内容をノートテイカー全員で共有した方が良いと思われる場合は、その都度、支援コーディネーターがメールにて全員に知らせる。
→入力ルールをまとめたものに記載する必要がある場合は、その都度追記する。 - ノートテイカーが、自発的に練習できるような環境を提供する。例えば、場所・練習機器(パソコン、模擬授業の録音テープ、スピーカー)を準備するなど。
- 必要に応じて、テキスト、cd-r(辞書変換機能)を購入する。
- ノートテイク用のパソコンに、単語登録をする。難解な用語などを、あらかじめ登録することで、ノートテイクがより円滑に行うことができる。
- 必要に応じて面談を行う。面談は、例えば、ノートテイクに関しての疑問点に答えるなど。また、面談をすることで、ノートテイクを行うときに感じるストレスが軽減されたりすることもある。
- 定期的にノートテイカーが集まる場を設定する。(7月 お茶会、12月 おつかれさま会)
Point
- ノートテイクを行うことの負担(身体的・精神的)は個人差があるので、1人1人の状況を把握するように努める。
- ノートテイカー同士が、顔を合わせて情報交換をすることで、「他の授業でノートテイクを行っているノートテイカーの様子がわからない」などの不安が解消できる。
- 「れんらくちょう」(ノートテイカーおよびテープ起こし担当間の連絡ノート)を活用して、意見・感想・要望などを取り入れるよう工夫する。
聴覚障害学生へのフォローアップ
- ノートテイクについて、気づいた点や感想などを、メール、または直接バリアフリー室支援室で口頭にて受ける。
- 必要に応じて面談を行う。面談は、例えば、ノートテイクに対する要望がある時など。
Point
- 聴覚障害学生と日常的にコミュニケーションを交わし、どのようなことでも遠慮なく意見が言えるような信頼関係を作っておく。
- ノートテイクなどの支援を受けることに負担を感じているようであれば、軽減させるように心がける。
- 聴覚障害学生とノートテイカーが、ノートテイクに対する要望などをやりとりする際は、支援コーディネーターが間に入ることが望ましい。
8.謝金支払い
ノートテイカーへの謝金は以下の手順で支払っています。
1.ノートテイカーから月末に「支援実施報告書」および「出勤簿」をバリアフリー支援室に提出してもらう。
2.バリアフリー支援室スタッフがノートテイカー全員分の謝金書類をまとめ、謝金処理担当者に提出する。
講師:東京大学バリアフリー支援室コーディネーター 中津真美氏(所属・肩書き及び掲載情報はすべて2006年度時点)