聴覚障害学生が就職した先の職場では、さまざまな困難さがつきまといます。会議やミーティング等、集団での会話はもちろん、1対1の場面であっても相手が急いでいたり、取引先の関わる重要な案件では、トラブルも起こりがちです。こうした日常の業務場面を想定し、あらかじめ心の準備をしておくことは、スムーズな職場適応のためにも非常に重要でしょう。

本研修では、一般企業で働く新人の聴覚障害者が、自分の担当した仕事に関する問い合わせを電話で受けるという場面を設定し、そこでどのように対応すべきかについてロールプレイを通して学ぶこととします。

◎ねらい

  • 職場で困難場面に遭遇した時に取るべき行動や必要なことについて考える。
  • 状況に応じて必要なサポート方法を判断し、相手に伝わるように説明したり交渉したりする方法を学ぶ。
  • 相手や場面に応じた適切なコミュニケーション方法の選び方や円滑な話の進め方について学ぶ。

◎時間

40分

◎役割及び人数

役割人数留意点
講師兼司会1名ロールプレイを見て問題点や改善点を指摘したり、学生から意見や感想を引き出したりして研修の進行を行う。企業での就労経験の ある聴覚障害当事者や、聴覚障害者の職場での課題について理解のある人などが望ましい。
同僚役1名 企業等での就労経験があり、職場の様子がわかる人。できれば、聴覚障害者の就労問題や情報保障に詳しい人が望ましい。
受講者5名程度が望ましい。

◎方法

詳細は指導計画を参照

<進め方>

  1. 講師は、スライドを用いて参加者全体にこれから何を行うのかを伝える。
  2. 聴者の同僚が電話を受け「あなた(聴覚障害者)が担当した顧客から電話で問い合わせが入っているが、どうしますか?」と尋ねてきたという場面を設定し、ロールプレイを行う。
  3. まず、始めにグループごとに話し合いを行い、どのように対処すれば良いか考える。
  4. ロールプレイを実施し、観察していた学生のコメントを元に、改善点について話し合う。
  5. 再びロールプレイを行うとともに、講師や同僚役を担当したスタッフより対応のポイントについて話をする。

◎留意事項

  • 「あらかじめ聴覚障害があることを伝えておく」など、事前事後に行える対策もあるが、今回のロールプレイでは「その時、その場でとるべき対応」に焦点をあてることとする。
  • 聴覚障害学生にとっては、電話でのコミュニケーションにおける留意点をイメージできないことも多いため、顧客を待たせないよう迅速なコミュニケーションが求められることを強調する。
  • 電話口で対応すべき内容と、事後にメール等で対応できることを切り分け、今この場でやっておかなければいけないことが何なのかを考えさせる。
  • 時間に余裕があれば、ロールプレイ時のログを振り返り、どこがポイントだったのかを全体で共有できるとよい。また、可能なら模範例を示して、どうすれば良いのかを学べる機会も持てると良いだろう。

指導計画

実際の研修会で利用できる指導計画案を掲載しています。ご自身の大学の状況に合わせて、適宜アレンジしてご利用下さい。

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教室配置

教室配置図。内容は留意事項を参照のこと。

留意事項

パソコンノートテイクモニターは、参加者に向けて提示し、ロールプレイを行っている学生には見えない位置に配置する。
グループディスカッションの際は、話しやすいよう机や椅子を適宜移動する。

情報保障

  • 研修中は、講師が手話や文字を用いて学生と直接やりとりを行い、全員に伝わったことを確認しながら進行する。ただし、手話のわからない学生等で、文字による支援の申し出があった場合には、研修の効率性と内容の重要性を鑑みて個別にサポートする。
  • グループディスカッションの時間は、原則としてパソコンノートテイクを利用せず、手話や身振り、筆談機器等を活用して参加者同士が直接コミュニケーションをとることを重視する。
  • ロールプレイの際は、観察している学生にのみパソコンノートテイクを提示し、学生役と同僚役のやりとりの内容を確認する。実際にロールプレイを行っている学生は、パソコンノートテイク用モニターを見ずに、同僚役と直接コミュニケーションをとる。

進行・展開

  • 自己紹介・主旨説明(3分)
    ・講師よりロールプレイの場面設定について説明を行う。
    ・聴者の同僚が電話を受け、「あなた(聴覚障害者)が担当した顧客から電話で問い合わせが入っているが、どうしますか?」と尋ねてきた。電話はまだ保留中で、顧客を待たせている状況である。このような場面で、あなたはどのように対応しますか?
  • グループディスカッション(5分)
    ・学生間でどのような対応をすれば良いかを考え、アイディアを出し合う。
    ・グループの中で1名、ロールプレイを行う担当者を相談して決める。
  • ロールプレイ(1回目)の実施(5分)
    ・同僚役が電話を受けたところからロールプレイをはじめ、あなたが送った見積りが間違っていたこと、顧客はかなり怒っていることを伝える。
    ・学生役はこれに対応して、咄嗟にどうすればよいかを考え反応する。
    ・やりとりは基本的に音声を用いて行い、学生の求めに応じて筆談等を行う。この際、どのような対応をすればよいかは学生役から提案を求め、現実的な対応策が提示されるまでは、「相手を待たせてるんだから早く!」などと急かす。
    ・残りの学生はこの様子を観察し、改善点を検討する。
  • 問題点・改善方法の検討(10分)
    ・ロールプレイ終了後、学生役、同僚役からそれぞれ感想を話してもらう。
    ・観察していた学生にも気づいた点をあげてもらう。
    ・講師はこの様子を見て、ポイントを整理し、ロールプレイの成功点、不足点について解説を行う。
  • ロールプレイ(2回目)の実施(5分)
    ・前回の反省点をふまえ、もう一度ロールプレイを行う。
    ・学生役は同じ学生が再度チャレンジしても、別の学生に交代してもよい。
  • 問題点・改善方法の検討(10分)
    ・同僚役や学生役、観察した学生の感想を尋ね、先ほどの反省点に基づき、改善ができたかどうかを確認する。
    ・今回のような困難場面における対応のポイントについて説明を行う。
  • まとめ(2分)

留意事項

スライドでポイントを提示し説明する。
やりとりの様子はパソコンノートテイクを用いてモニターに表示し、観察している学生が内容を理解できるよう工夫する。
研修全体に時間的な余裕があれば、パソコンノートテイクのログを見ながら、やりとりの流れを確認するとよい。
今回のような困難場面は、学生の力では解決策が見いだせない事もあるため、可能であれば、模範的な対応例を示したい。

指導教材資料

  • スライド資料

指導教材

実際の研修会などで使用可能な教材を掲載しています。ダウンロードの上ご使用ください。

プレゼンテーション資料

参加者に記入を依頼する事前課題。回収の上、講師に渡しておく。

スライドサムネイル画像

※本教材の著作権はPEPNet-Japanに帰属しています。研修会等で編集の上ご利用いただくことは可能ですが、クレジット表記などは変更しないようお願いします。
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