その7 教育実習における支援 (前編:実習開始前)

聴覚障害学生が他の学生と同じように教育実習に臨むためには、様々な場面に応じた適切な支援・配慮が重要です。
ここでは、開始前、開始後という2つのステップに分けて、それぞれの場面で想定される問題点と、それらに対応するアイディアを掲載しています。このページは実習開始前に関するトピックをまとめています。
(実習開始後については「その8教育実習における支援(後編:実習開始後)」をご覧ください)

(以下からご覧になりたいトピックをクリックすると、そのトピックにジャンプします)

挿絵:先生

実習校との交渉

  • 教育実習申し込みの提出

支援者の確保・配置

  • 支援者の確保
  • 支援者への交通費

教育実習関係の授業や実習ガイダンス

教員免許の取得を希望する場合、教育実習関係の授業を履修する必要があります。
講義形式で行われる授業の他、ゼミ形式で討論を含む授業もあるため、聴覚障害学生が主体的に発言できるような支援方法(パソコンノートテイク、手話通訳、手書きノートテイク、以下 支援方法と略す)を用意しておくことが必要です。
実践事例アイディア集その5「ゼミ形式・グループディスカッションにおける支援」もご参照ください。

また、実習のガイダンスは、非常に重要な事項が短時間で伝えられます。
一言一言に取りこぼしのないよう、ガイダンスの場面においては、普段授業で行われる支援方法に加え、教員の許可を得て録音し、後に文字起こしをして渡してもよいでしょう。

イラスト:講義の様子

実習校の選定

実習校の選定は、大学が決定する場合と、学生自身が確保しなければならない場合があります。前者であっても、聴覚障害学生の意見を聞きながら決定することは重要です。

まず、聴覚障害学生にとって、実習校を選ぶ際の最初の大きな選択肢は、「一般校に行く」か「ろう学校に行く」かの2つになります。(取得を希望する教員免許により状況は異なります)

幼稚園、小・中・高等学校の教員免許(基礎免許状)を取得する場合であっても、実習先をろう学校に代替することが可能です。ろう学校出身の聴覚障害学生が、母校として出身ろう学校を実習先に選ぶことも多いようです。また、難聴学級のある小・中学校に行くケースもあります。

聴覚障害学生には、教育実習履修学年になる前に、先輩の研究授業を見学に行くなどして、教育実習のイメージや学校の様子を知っておくことをおすすめします。

実習校との交渉・事前打ち合わせ

学生本人が実習先と交渉するだけでなく、教職員からも説明した方がより理解を得られると思われます。
実習をお願いする際には、支援者が入ること、支援方法を用いることを実習校に伝えることが必要になります。
もちろん、どのような場面でどのような支援方法が入るか、という段階まで説明できればよいのですが、教育実習未経験の聴覚障害学生にとって、実習中の場面を想定することは非常に困難なことです。

また、実際に実習が始まれば、どのような場面に遭遇するかは誰も予想がつきません。
そのため、事前に実習期間中に行われることがわかっている事項(事前指導や講話など)についてはどのように支援方法を使うか、ということを予め相談し、実習校の先生方にも聴覚障害学生が支援に入ることを周知してもらうことをお願いした上で、現在大学でどのような支援体制が組まれ、どのような支援方法を用いているか、本人のコミュニケーションはどのように行われているか、ということをこの時点で適切に伝えることが非常に重要になります。

学生本人が実習先を確保しなければならない場合、電話が難しい聴覚障害学生へのフォローが必要になります。(例えば、まず支援担当者が電話し、メールなどで聴覚障害学生から連絡したい旨を伝えるなど)


【事例】教育実習申し込みの提出

 支援担当者は、教育実習に支援者が入ることを実習担当の事務に伝えるにあたって、どのような支援者が同行するかについても併せて伝えておきましょう。


支援者の確保・配置

支援者を配置するにあたって、いくつか準備・検討しておかなければならないことがあります。

まずは、支援者の確保です。
支援学生自身も実習に行ってしまう、長時間の場合複数人が必要である、などの理由でなかなか思うように配置できないかもしれません。
早い段階から支援者の都合を確認しておく、実習期間に入る前に養成講座を開いて新しい支援者を確保しておく、などの工夫が必要です。(一般的な支援者の確保については 実践事例アイディア集その1「支援者の養成・確保」をご参照ください)

また、支援学生が自分の授業の合間に行うのと違い、実習校までの交通費を用意しなければなりません。どのような基準で支出するのか、などを予め検討しておく必要があります。

もちろん支援者を配置する時間については、聴覚障害学生、大学の実習担当教員、実習校の担当教員などと予め打ち合わせをしておきます。


【事例】支援者の確保

教員養成系の大学である本学では、実習期間中は人手不足になりがちです。そこで、以下のような工夫をしています。

  • 支援学生の実習時期を確認する
    →必要人数などのあらかたの予測をすることができます。
  • 4月中旬に開く養成講座の他、5月中旬にも講座を開き、実習期間中の支援
    者を養成する。(教育実習が6月から始まるため)
    →4月からの支援学生には前期の講義から定期的にノートテイクに入ってもらい、5月からの支援学生には実習期間中の代理ノートテイクをお願いしています。
    登録直後のモチベーションの高い時期にノートテイクに出てもらいたい、そしてその後の継続につなげたいというコーディネーター側の希望と、需要が高まる時期的なものが合致して、円滑な配置ができました。
    また、技術に不安を抱えている新規登録の支援学生にとっても、まずは実習期間だけ、その後練習をして後期からは本格的に、という移行の仕方に安心感を覚えるようです。
  • 4年生など、定期的には難しいけれど臨時には可能、という学生にお願いする

【事例】支援者への交通費

普段の学内のノートテイクは無償ですが、教育実習先に派遣するノートテイカーには交通費という名目で謝金の支払いを行っています。
1時間900円×時間数で算出した金額を支払い、交通費に充ててもらっています。


  • 編集: PEPNet-Japanコーディネーター連携事業メンバー
    伊藤聡知(富山大学医学薬学研究部(薬学))
  • 協力:宮城教育大学しょうがい学生支援室
  • 掲載日:2009年11月27日

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