その8 教育実習における支援(後編:実習開始後)

実習が始まってからは、どのような支援が必要になるでしょうか。
その7「教育実習における支援(前編:実習開始前)」に引き続き、実習開始後に関する事例などをご紹介します。

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挿絵:先生

授業観察
教壇実習

  • 教壇実習その1
  • 教壇実習その2
  • 教壇実習その3

批評会(授業検討会)

  • 支援者の配置
  • 実習後の振り返り

教職員への周知

実践事例アイディア集その6「教育実習における支援(前編:実習開始前)」-実習校との交渉-でも少し触れましたが、実習開始前に実習校の教職員の方々に聴覚障害学生が実習を行うこと、支援者が入ることを周知してもらう必要があります。

その際、聴覚障害学生が用いるコミュニケーション手段や配慮してほしい事柄についても具体的に説明しておけるとよいでしょう。
実習が始まったら、実習生の挨拶などで聴覚障害学生本人からも説明するようにしましょう。

生徒への周知

教員だけでなく、生徒たちにも聴覚障害学生が実習を行うことを知っておいてもらいましょう。その際「これは特別なことではなく普通のこと」という内容を伝えてもらう必要があります。障害学生支援だけではなく、障害者についてあまり理解していない小・中・高校生は、聴覚障害学生が教育実習に参加することについて誤った理解をしてしまうかもしれません。「○○さんは聞こえにくいけれど、紙や黒板に書いたりすればコミュニケーションできます」というように、具体的なコミュニケーション方法を伝えましょう。
また、全校集会の教育実習生紹介などで聴覚障害学生本人からも説明するとよりよいでしょう。


【事例】事前打ち合わせと教職員・生徒への周知

事前に学内の実習担当の教員、聴覚障害学生、コーディネーターで、実習先について相談しています。ろう学校に行きたい、普通校での指導経験を積みたい、など聴覚障害学生の希望を聞きながら、ノートテイカーの派遣しやすさ(学校までのアクセス)も考慮しています。また、状況に応じて、聴覚障害学生一人だけの実習にならないよう、その学生と同じ専攻の学生を同じ実習校にすることもあります。

実習先が決まったら、実習先に対して文書での配慮依頼を行っています。その後の教職員への周知に関して具体的なお願いはしていませんが、特に初めて障害のある学生を受け入れる学校の場合は聞こえの状態・コミュニケーション方法・教育実習中の配慮方法も細かく示した依頼文書を作成して周知をお願いしています。
その際は、実習期間中に支援学生が学校に伺うこと、担当ノートテイカーの人数・氏名なども学内の担当者を通じて連絡しています。
また、生徒へは聴覚障害学生本人から障害理解などの話をするようにしています。


事前指導(事前研修)、事後指導(事後研修)、実習期間中の講話

実習中の指導や講話の場面では、必要に応じて支援者を配置します。
それらの場面では単に話を聞くのではなく、双方向のコミュニケーションが求められます(これは実習生全般に必要なスキルですが)。支援者が入る場合もそうでない場合も、コミュニケーションに溝ができないよう、きちんと伝わらなかったり、わかりにくかったりした場合は、聴覚障害学生からも積極的に質問しましょう。

情報が遅れて伝わりがちな聴覚障害学生は、質問するタイミングを得にくいことがありますので、質問の機会を与えるなど周りの気遣いも大切です。

授業観察

実習生にとって、授業観察も重要な学習です。必要に応じて、支援者を配置します。

教室が狭かったり、通常実習生は立って観察を行うことが多く、聴覚障害学生だけ座ることに抵抗を覚えたり、などの理由で立ったまま見られる情報保障が必要になることもあります。例えばバインダーを使ってノートテイクを立って行ったり、パソコンノートテイクの表示画面を小さめのパソコンなどに映して見るなどの方法が考えられます。

教壇実習

教壇実習を行うにあたって、生徒とのコミュニケーション方法を決めておく必要があります。聴覚障害学生だけで決めず、担当教員と予め相談しておきましょう。

例えば授業では「複数の生徒が同時に話す」という状況があるため、発言する際のルールを決めておくことが大切です。もちろん、聴覚障害学生がどのように授業を進めるか(自分の音声で話すか、など)も工夫が必要です。
支援者が入る場合は、どういった場合にどのように情報を伝えるか、よく確認しておきます。

イラスト:実習の様子

【事例】 教壇実習その1

教壇実習では、生徒の人数分のホワイトボード(A4サイズ)とペンを用意しました。
そして生徒には予め担当教員から聴覚障害学生が実習を行うことと、以下の注意点を話しておき、聴覚障害学生自身からも授業の冒頭に説明しました。

  • 口を見せてゆっくりしゃべること
  • ボードに書いて「はい!先生」といって手をあげて発言すること
  • ホワイトボードにまとめて書いて発言するので、自分にもメリットがあること

【事例】 教壇実習その2

教壇実習にて教育実習生からの質問には、発言する生徒が無線式キーボードで回答を入力する方法をとりました。
天井に設置したモニタ2台と教壇のノートパソコンにその文字を表示させて机間巡視中にどこからでも確認できるようにし、また、なるべく発言する生徒の側へ行き、口の形も見て確認しながら授業を進めました。


【事例】 教壇実習その3

IPtalkの連係入力によるパソコンテイクで情報保障を行いました。
教壇実習で情報保障を行う際には、どうしても児童の興味がパソコンテイクに向いてしまうという問題がありました。
そのため、聴覚障害学生、教育実習の指導教員と話し合ったうえで、・テイカーを教室後方に位置する・表示用のパソコンを小型のものにするといった対応で児童の興味がテイクに向かないように配慮しました。そして、無線LANを用いることで、机間巡視などの移動も可能になりました。

また児童が教室内で移動する際には、テイク画面を目にしても気にならないよう、改行を重ね、文字画面のままにならないように工夫しました。

情報保障をつけることで、授業進行がスムーズにいかなくなることは不本意ですので、ごく自然な形で教壇実習を行えるような支援が求められるのだと思います。


批評会(授業検討会)

公開授業(研究授業)は、教育実習期間中の最も大きなイベントです。多くの先生方の参観を受けて緊張するでしょうが、普段通りの授業を行えばいいということを心に念じて成功させてください。

公開授業(研究授業)の事後指導となる批評会は、多くの先生方からの意見が得られる貴重な場です。ガイダンス同様、一言一言をとりこぼさないようにしたいところです。司会者を立て、発言のルールを決める、など聴覚障害学生にきちんと情報が伝わるようにしましょう。
(実践事例アイディア集その5「ゼミ形式・グループディスカッションにおける支援」も参照ください)

イラスト:批評会の様子

【事例】支援者の配置

実習先での支援方法はノートテイクのみです。聴覚障害学生自身が、実習予定表などを参考にしてノートテイクの希望を出し、希望が出されたところは全て派遣調整をします。
初めて実習に行く学生は、実習自体のイメージが掴めず、どの場面で自分がテイクを必要とするのか分かりません。実習に行った先輩(聴覚障害学生と支援学生の両者)から、事前に話を聞いて参考にしてもらっています。
講話や授業検討会への派遣を希望する学生が多いようです。


【事例】実習後の振り返り

実習後、実習期間中の様子について聴覚障害学生、支援学生などへの聞き取りを行います。
初めて障害のある学生を受け入れる学校の場合、事前打ち合わせを行ったとしても学校側も対応が分からずに戸惑う事があります。
そんな時、学生支援に関わってきた当事者や支援学生がその場でいかに適切な対応をとることができるかが、教職員・生徒への理解を促す為の鍵となっています。振り返りでは以下のような問題が報告されました。

  • 講話中に講師が「本題と関係しない内容は通訳しなくてもよい」と支援学生に指示して通訳しなかったため、その内容を同専攻の実習生が慌てて通訳した。
  • 職員会議における情報保障をあらかじめ協議しなかったため、なんとなく同専攻の実習生が通訳した。

聴覚障害学生に対し、ただ情報保障がなさればよいということだけではなく、十分な情報が得られない場合は周りからの支援待つのではなく、自ら周りに働きかけ、行動を起こしていくことも必要だったのではないか、また、状況を察して動いてくれる人々に対する配慮(心身的負担など)も考慮すべきだったのではないか、という指摘が関係者から出されました。
このように教育実習は、学校教員を目指す学生としてだけでなく、同時に障害のある当事者としてどのように周りに働きかけていくべきかという、社会生活に不可欠なセルフアドボカシースキルを学ぶ場となっているといえます。


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